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『酒番日記』映画、音楽、本、時々酒、のこと 第4回

THE CLOAKROOM TOKYO
JOURNAL

Category
Column
Words
Minoru Kuriiwa

「酒番日記」 映画、音楽、本、時々酒、のこと

春の声が聞こえてくる街を足早に急ぐ保険関係らしき4人の男
前列左、手ぶらで歩く一番の上司、前列右、真顔で早口に説明をするその部下
後列左、スマホを眺めるその部下、後列右、笑いながら話をするそのまた部下
先頭左、紺のスーツに不自然な硬さに見える白いシャツ、紺ストライプのネクタイ
不自然に光る皮革のような黒い靴
先頭右、紺のスーツにヨレヨレの白いシャツ、弛んだ紺のネクタイ、黒のスニーカー
後列左、少し明るめの紺色で寸足らずのスーツにブルーのシャツに青いネクタイ
磨かれていない黒の革靴、裾から覗く黄色い靴下
後列右、ヨレヨレの紺のスーツにブルーのシャツに喉仏が見えるほど弛んだネクタイ
踵が斜めに削れた色あせた茶色の靴
春の光あふれる午前8時にふと想う
否定はしないが、何かが違う、大丈夫かな、日本人

15年以上前、まだ寒い2月のロンドンの街角のとある商談の場
紺無地スリーピーススーツにサックスブルーのシャツ、紺無地のネクタイの日本人
仕立ての良い紺無地のスーツに白いシャツ、弛むことのない紺無地のネクタイ
磨き上げられた黒いビジネスシューズの英国人男性
和やかに時間が流れ商談が終わる
紺無地のチェスターコートを手に持ち、レザーグローブを左に右手で握手
微笑みながら英国人のひと言
「ところで、なぜ今日はエドワードグリーンの茶色のタウンシューズなんだい?」
しばしの絶句の後のひと言
「申し訳ない…」
気の利いたジョークを返すことなく、日本人得意の作り笑いで取り繕い
夕暮れ迫り寒さ沁み入る街を向かった先は少しだけなじみの小さなパブ
商談の成功と自身の反省に、ビールがすすむロンドンの日本人

そういえば以前観た映画の中で地方から大都市に引っ越す孫に言う祖母のセリフ
「何か困ったことがあったらその人の靴を見て判断なさい」
タイトルも年代も忘れた映画のセリフを思い出す春色膨らむ街角で頭の中に流るるは
「Thelonius Monk/Solo Monk」よりThese Foolish Things (Remid Me of You)
やっぱりジャズ…


令和3年2月吉日
酒番 栗岩稔

プロフィール:木挽町路地裏 bar sowhat 店主として日々人に向かい、酒を通して時間を提供する。
ブランドマーケティング業、服飾業等の経験から、事業提案、イベント企画運営、パーソナルスタイリング業も行う。来春から、インターネットラジオにて番組パーソナリティも予定するなど多岐にわたり活動。