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『美食通信』第3回 「制服というお洒落」

THE CLOAKROOM TOKYO
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Osamu Seki
前回、ドレスコード、中でも「ジャケット着用」の可否について書かせていただきました。女性の場合、レストランへ出かけるのに色々な服装を楽しめるのですが、男性の場合、ジャケットやスーツをベースに、シャツ、さらにネクタイやカフスなど、微妙な差異のお洒落具合に気を配る必要があります。これはこれでとても素敵なことだと思うのですが、ほかの服装の可能性はないのでしょうか。
 まず、日本人である限り、和装という選択はあります。ただ、日本料理であれば当然ありと思いますが、フレンチでは余りお目にかかったことがありません。履き物が気になります。サンダルなどはアウトというのがマナーですので、草履とかどのように解釈するのだろうか。女性ですと着物もありかと思いますが、男性はなかなか難しいですね。
 では、他に着ていくものがないかと言えば、実は「制服」というのがあり得ます。もちろん、職種にもよりますが。筆者はパリで軍服を着た男性をグランメゾンで目撃したことがあります。もう、四半世紀も前のことですが、パリ十六区にあった「フォージュロン」というグランメゾンでのことです。筆者が出かけていた頃は二つ星でした。十六区は保守的な右岸(リヴ・ドロワット)の高級住宅街で、晩年のマリア・カラスなどが住んでいました。筆者が出かけた頃はロビュションもポアンカレ通りにありました。フォージュロンはトロカデロ広場のすぐ近くにありました。トロカデロ広場にかかるイエナ橋を渡ると目の前にエッフェル塔があるというロケーションです。
 料理もそうですがクラシックな店で、店構えや内装なども「ブルジョワ」という言葉がピッタリ。当時としても珍しかったのですが、食後にシガーのワゴンサーヴィスがあり、必ずやゴロゴロと音を立てながらワゴンがどのテーブルにもやって来て、「シガーはいがかしましょうか」とメートルに尋ねられるのです。嗜む者はほんの少数で、ほぼ儀式化していたのですがそれがまた味わい深いというか、独特の雰囲気を醸し出していました。筆者がこの店によく出かけたのは、ジャンボンさんという世界一になった(田崎真也氏と同じコンクール)ソムリエがいたからで、このソムリエのワインリストが素晴らしかったからでした。
 そんなフォージュロンを訪れたある日、若いカップルが客にいました。驚いたのは男性が軍服を着ていたのです。男性というより青年いや少年といってもよい顔立ちで、なんとも初々しい。軍服も礼装用なのでしょうか、宝塚歌劇団の『ヴェルサイユの薔薇』でアンドレが着ていそうな(オスカルではありません)スマートでお洒落ないで立ちでした。ナポレオンコートなどフランスの軍服はファッションに転用されていますし、良くも悪くも古色蒼然としたレストランにふさわしく、かつ華を添えてくれていました。本人はグランメゾンなど初めてで何を着て行ってよいか迷った挙句、礼装用の制服を着てきただけかもしれませんがこれはこれで見事なコーディネイトでした。
では、これはフランスならではのことかと言えば、筆者は日本でもフレンチで制服を着た方々にお目にかかったことがあります。それはパリに出かけるさらに前ですので三十年近く前になりますがクリスマスディナーの席でした。当時、クリスマスは若者の一大行事で、都内のホテルやレストランは一年前から予約しないと取れない場合がありました。しかも、ディナーは二回転、三回転とまともな食事の体を成していませんでした。そこで、筆者は御殿場に新しくできた「オーベルジュ・ブランシュ富士」でクリスマスを過ごすことにしていたのです。御殿場駅からタクシーで十五分ほど山中湖に向かう国道138号沿いにあったオーベルジュで1991年に開設、一度改装を経て2013年に閉館しました。さすがに雪さえ混じることもある冬のさなかにここまで人は来ないので、静かなクリスマスを過ごすことが出来ました。
ところがある年のクリスマスイヴの夜、ディナーをしにレストランへ降りていくと制服を着た団体の方々がいらっしゃったのです。宿泊客は自分たちを含め。二、三組だったと思いますので、制服を着た方々のほうがはるかに多かったのです。ご存じのように、御殿場には陸上自衛隊の演習場や駐屯地があります。調べますとすぐのところに、富士駐屯地があり、そこには学校や病院もある模様。おそらく、そこの関係者のお偉い方々の忘年会を兼ねた会食ではないかと。長いテーブルに制服を着た自衛隊員の方々がずらりと並んで会食されている光景を目にしながら、クリスマスディナーをいただくのも一興でした。本当にマナー良く静かに食べられていて感心した記憶があります。その制服もフランスとは違って地味ではありますが、颯爽としてカッコいいものでした。ただ、階級などの違いはあるのでしょうがどの方も同じ服装でそれはそれで壮観でした。
こうして考えてみますと、制服ということでしたら、警察とか消防でも礼装用があるかと思いますし、パイロットやCAもありそうですが、そのような制服でレストランに来られることはまずないかと思います。今後ますますジェンダーフリーの世の中になっていくでしょうから、ドレスコードも変化していくかもしれません。まずはスーツやジャケットの中で微妙な差異を楽しむお洒落を身に着けていくことこそ、新たなファッションへと繋がる道だと考える次第です。

今月のお薦めワイン  イタリアワインでジビエに合わせるとしたら?

「ゲンメ 2011年 ロヴェロッティ」 6800円(税抜)
ジビエと言ったらフレンチばかりではありません。イタリアンだって黙ってはいないでしょう。イタリアンにあってフレンチにないのはパスタ料理。ジビエを使ったパスタ料理に合うイタリアワイン。ヒントは前回のポマールです。イタリアワインでポマールに相当するワインを探せばよいのです。フランスワインの二大産地はボルドーとブルゴーニュ。イタリアワインの二大産地はトスカーナとピエモンテ。ボルドーはトスカーナに。何故なら、サッシカイアといったボルドーの葡萄品種を用いる銘酒も造っているから。ブルゴーニュはピエモンテに。どちらも単品種(ピノ・ノワールとネッビオーロ)からのワイン造り。ポマールはブルゴーニュでボーヌでした。ブルゴーニュの赤のメインはニュイ。ということは、ピエモンテのメイン(バローロとバルバレスコ)が州の南部ですので、州の北部のワインを探せばよいのです。その中でお薦めなのが「ゲンメ」。中でもロヴェロッティは「賞賛されている」(アンダースン、『イタリアワイン』)代表的造り手です。北ピエモンテだけで混醸用に用いられているヴェスポリーナが15%、ネッビオーロ85%というのも個性的。香水のような魅力的な香り、口中に広がる味わいも格別。ですので、しっかり空気に触れさせてから飲まれるのが良いでしょう。ジビエの個性に負けない主張を持った美味しさ。エチケットもお洒落です。

購入先は
アヴィコインラインストアまで

略歴
関 修(せき・おさむ) 一九六一年、東京生まれ。現在、明治大学他非常勤講師。
専門は現代フランス思想、文化論。(一社)リーファーワイン協会理事。
著書に『美男論序説』(夏目書房)、『隣の嵐くん』(サイゾー)など、翻訳にオクサラ『フーコーをどう読むか』(新泉社)、ピュドロフスキ『ピュドロさん、美食批評家はいったい何の役に立つんですか?』(新泉社)など多数。
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