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『春風亭与いちの二ツ目日記』第十一回「薬漬け」

先月末、声が出なくなりました。
大袈裟じゃなく、本当に。
喉から音が出なくなりました。
その1ヶ月前くらいから、花粉やら何やらで喉の調子が悪く、
それが標準の状態になっていたので、特に問題視していなかったのですが、
4月20日、遂に爆発しました。
その日は昼、朝枝兄さんとの二人会、
夜に師匠一之輔の独演会の前方。というスケジュール。
昼の二人会、その一席目で早々に出なくなりました。
噺の途中で、喉がひっつくような感覚に襲われまして、それからはなんとか誤魔化し誤魔化し…
しかし、流石に夜の会に行けるほどでは到底なく。
急遽、その場で朝枝兄さんに代演のご快諾をいただき、兄さんを会場まで案内し、師匠にも挨拶をしようとしたのですが、声が出ず。
そのまま帰宅。
翌日、噺家の先輩から勧められた耳鼻科へ行ってみた。
「他の落語家もよく通っているらしい」
と聞いて行ってみたら、本当に同期の歌彦に会った。
鼻から内視鏡を入れられる。
「はい〜、もうちょっと我慢だよー。すぐ終わるからね〜。もう終わるよ。」
これが永遠に感じるほど苦しい。
写真を見せられながら診断結果を聞くと、
声帯を司る"ひだ"が弱りきっていて、
ただの空洞になっていた。
「どうしてこんな風になっちゃったの!?」
と言われた。
こっちが聞きたい。
とにかくもっと早く医者に行かなきゃいけなかったらしい。
反省。
その場で吸入をした。
あの、蒸気を鼻から吸って口から出すあれだ。
あれが私は何故か子供の頃から大好き。
少しも漏らすまいと、吸い口しっかり覆い、白神山地に行った時くらい深呼吸をする。
最近「シーシャバー」なる店をよく見かけるが、
「吸入バー」もあっていいと思う。
そっちの方がよっぽど身体にいい。
アルコール飲料の代わりに、マヌカハニー湯や、R1ヨーグルトなど置いても良いだろう。
それから4月いっぱいは喋らず、もちろん仕事も休むように言われた。
これは死活問題だ。
仕事どころか稽古もできない。
替え玉の麺の硬さを伝えられない。
電話がかかって来ても無視する他ない。
そんな生活をなんとか乗り越え、やっと仕事復帰。
発生の仕方を一から見直しながら、試行錯誤して演っている。
そしてなんとなく感覚をつかめてきたと思っていた矢先、
ウイルス性の胃腸炎にかかってしまった。
しかも重めのやつだ。
胃腸炎のくせに熱が38.8°まで上がりやがった。
医者に行ったら、今度は肛門から長い棒を突っ込まれた。
上から下から。まったく惨めな人間だ。
家へ帰り、トイレと布団を往復するだけの日々を過ごしている。
一体この1ヶ月で何錠の薬を飲んだことか。
常に飲んでいる薬も他にある為、
10錠までなら一度に飲み込むことができるようになった。
ここ数日は液体状の食べ物と錠剤だけで動いている。
おそらく未来の人間の姿はこんなだろう。
ああ、早く現代らしい、寝る間も惜しんで働き、脂質糖質にまみれた食生活を送りたい。

略歴
春風亭与いち
1998年4月5日生まれ
2017年3月、春風亭一之輔に入門。
翌年1月21日より前座となる。前座名『与いち』。
2021年3月1日より二ツ目昇進。

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