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JOURNAL

『美食通信』 第四十九回 「伸びるはずのアリゴ ――冬に楽しみたい郷土料理――」

『美食通信』 第四十九回 「伸びるはずのアリゴ ――冬に楽しみたい郷土料理――」

 『美食通信』は五年目に入りました。読者の皆様、そして主宰の島田さんに心よりお礼申し上げます。これからもどうかよろしくお願いします。  さて、寒さも厳しくなって参りました今日この頃。定期的に会っている高校の同級生から「アリゴ」が食べたいので何処か店を探してくれないか、と。  「アリゴ」か、と。「アリゴ」はフランス料理の名前なのですが、いわゆる郷土料理ですので、お洒落な高級フレンチではお目にかかることがありません。日本の場合、フランスのある特定の地方料理専門店はほとんど見かけません。それに対して、イタリア料理は青山のシチリア料理専門店「ドンチッチョ」が一時期予約の取れない店で有名になるなど、それなりに専門店があります。ですので、フレンチの場合、郷土料理はビストロで出すところを探すということになります。  「アリゴ」にはその名も「ビストロ アリゴ」という店が神保町にあるのですが、ランチでの訪問を希望されたので探すのに苦労しました。ビストロは日本では居酒屋のような扱いですので、どうしてもお酒の出る夜営業だけの店が多いのです。フランスではランチをワインと共に食するのが当たり前ですが、日本で週末以外ランチにお酒が出るのは接待くらいではないでしょうか。何とか週末、午後二時から営業のビストロを見つけました。小川町の「神田ワイン食堂 パパン」に出かけた次第です。  さて、問題の「アリゴ」ですが意外なことを知りました。筆者にはこれから三十歳になろうという若い友人がいるのですが、彼と食事をした際、今度「アリゴ」を食べに行くという話をしたら、「アリゴ」を知っているというではありませんか。彼は飲食とは縁のない仕事の人ですので「どうして」と尋ねると「『じゃアリゴ』の『アリゴ』」ですよね、との返事。成程、と思いました。「じゃがりこ」というスナック菓子で「アリゴ」を作るのだと「じゃがりこ」を自ら一度も食したことのない筆者でもピンと来たのです。  そう、「アリゴ」とはじゃがいも料理の一種で、フランスのオーヴェルニュ地方の郷土料理です。オーヴェルニュはリヨンなどのある「リヨネ」地方の西側、「サントラル」と呼ばれる山岳地方。「アリゴ」は中でもオーブラックと呼ばれる地区でよく食べられているとの記述が。オーブラックはカトラリーやソムリエナイフで有名な「ラギオール」のある場所。日本でも刃物で有名なのは岐阜県関市とこれも山岳地帯。  で、「アリゴ」の定義は「チーズ入りマッシュポテト」とあります。「マッシュポテトに生クリーム、バター、ニンニクを合わせ火にかけ、トム・フレーシュ(熟成前のトムチーズ)を大量に加え、糸を引くまで練り上げたもの。熱いうちは一メートルくらいは軽く伸びる。料理の付け合わせでありながら、オーヴェルニュを代表する名物」との解説が。  実はフランス料理を知るには郷土料理の知識が不可欠なのです。『ミシュラン』三つ星のグランメゾンは確かにパリに集中しているものの、例えば、かの「ポール・ボキューズ」はリヨン近郊のコローニュ=オ=モン=ドールにあります。元々、宿場の食堂でした。筆者の懇意にしている元代々木町「シャントレル」の中田シェフのフランスでの師はまさにオーヴェルニュのサンボネ・ル・フロワ村にある三つ星「レジス・エ・ジャック・マルコン」のレジス・マルコン氏です。パリから600キロも離れているそうな。こうした地方にある三つ星は地元の郷土料理をベースにそれをグランメゾンの皿に昇華させたものと考える必要があります。マルコン氏は「キノコの魔術師」の異名を持つくらいですから。   ところが日本のフランス料理といえば、グランメゾンは地方色のない洗練されたスタイル、郷土料理はビストロへと二分化されてしまい、肝心の郷土料理の再現率も低いとしか言えません。  事実、「パパン」で食した「アリゴ」はじゃがいものポタージュで薄めたフォンデュのような代物で、バケットにつけて食べるスタイル。これはこれで美味しかったのですが、一メートル延びるのを期待していた同級生はちょっと残念がっていたのが分かって、申し訳ない気がしました。  神保町「ビストロ アリゴ」の「アリゴ」は画像で見る限り、もっと濃厚そうですがやはりバケットにつけて食べるスタイルのよう。しかし、解説には料理の付け合わせとあります。実際はどのようなものなのか。実は最適な本があったのですが現在は絶版です。それは並木麻輝子『フランスの郷土料理』(小学館、2003年)。検索ですと「アリゴ」しか調べられません。本でしたら、フランスの郷土料理全体が概観出来ます。しかも、この本はいわゆるムック本で150頁ほどのコンパクトなサイズながら、どの料理も写真が載っています。しかも、当時のものながら、フランスでの名店のリスト、日本で郷土料理が食べられる店のリストも。料理もさることながら、元々旅行本のシリーズの一巻なので、地方の説明や地理的な知識も得ることが出来ます。  並木氏の本の「アリゴ」の写真は付け合わせで、調理しながら料理人が伸ばしている写真も載っています。事ある毎に参照するに相応しい優れた資料です。  今回、先述の「じゃアリゴ」を調べたのですが、フォンデュ風のビストロの「アリゴ」よりある意味、付け合わせとしての本来の「アリゴ」に近いと思われました。作り方は簡単で、「じゃがりこ」のカップの中に溶けるチーズ(ネットでは「さけるチーズ」が推奨されています)を入れ、お湯を入れひたすら混ぜるというもの。塩と胡椒で味を調えるとなお良し。筆者としては牛乳や生クリームなどでのばすと良いのではと思われます。「じゃがりこ」の容器の中で作れるというのが、煩雑さを省き、後片付けも簡単と素晴らしいアイディア。  筆者としては、鴨のコンフィなどに添えたり、さらには白身魚のムニエルなどの下に「アリゴ」を敷きソース代わりに絡めながら食するなど、単品ではなく、「付け合わせ」として皿に登場する「アリゴ」を料理店で食してみたいものです。  いずれにせよ、寒い冬に暖かい部屋で食する長々と伸びる熱々の「アリゴ」を想像するだけで心躍らざるを得ません。 今月のお薦めワイン 「新年を祝ってちょっと贅沢なシャンパーニュで乾杯――ヴィンテージ物のエレガントなブラン・ド・ブラン――」 「シャンパーニュ『メ・ヴィエイユ・ヴィーニュ』ミレジム 2014年 AC シャンパーニュ(グランクリュ)」ジョゼ・ドント 16632円(税込)   『美食通信』も五周年を迎えました。ひとえに読者の皆様、主宰の島田さんのおかげです。心よりお礼申し上げます。  という訳で、新年のお祝いと五周年を記念して、まずはシャンパーニュで乾杯ということにいたしましょう。折角ですので、ここはちょっと贅沢なシャンパーニュを選ばせていただきました。  シャンパーニュにはグレイドを見極めるいくつかのポイントがあります。  まず、葡萄の良作年のみに造られる「ミレジム」と呼ばれるヴィンテージ物であるか、ないか。今回選ばせていただいた「メ・ヴィエイユ・ヴィーニュ」も2014年とヴィンテージ物です。シャンパーニュの場合、普及品はノンヴィン(NV)と呼ばれるヴィンテージの無いものになります。  次に使われる葡萄が格付けされていて、グランクリュ、プルミエクリュ、格付けなしの三段階になっています。今回のシャンパーニュはコート・デ・ブランのグランクリュ「オジェ」村にジョゼ・ドントが所有する2.5haの畑から造られるシャルドネ100%で造られる「ブラン・ド・ブラン(白の白)」です。オジェはシャンパーニュの中でもシャルドネの栽培が99.6%と最高のシャルドネの産地。  しかも、「ヴィエイユ・ヴィーニュ」とありますように、1949年に植えられた樹齢七十年以上の古樹の葡萄から造られています。  造り手のジョゼ・ドントは1974年より葡萄栽培から醸造まで一貫して行なう「レコルタン・マニピュラン」を開始した他にセザンヌに2.5ha、計5haを所有する小規模のドメーヌ。  オジェの葡萄はほとんどが大手メゾンによって高値で買い占められるため、レコルタン・マニピュランのシャンパーニュは珍しいと言われています。  また、通常のシャンパーニュはピノ・ノワール、ピノ・ムニエとの混醸なのに対し、シャルドネだけで造られた「ブラン・ド・ブラン」は通常、シンプルで酸の効いたスッキリとした仕上がり。しかし、極上のシャルドネで造られたヴィンテージ物は黄金色に輝き、複雑な香り、酸とミネラルなどのバランスとの取れた旨味と別格の仕上がり。  ヒュー・ジョンソンが「とびきり美しく、そしてとびきり美味しいワインが生まれる村」と評したテロワールから造られる稀少なシャンパーニュ。  価格も随分良心的になっていますので、是非この機会にお買い求めを。 略歴関 修(せき・おさむ) 一九六一年、東京生まれ。現在、明治大学他非常勤講師。専門は現代フランス思想、文化論。(一社)リーファーワイン協会理事。著書に『美男論序説』(夏目書房)、『隣の嵐くん』(サイゾー)など、翻訳にオクサラ『フーコーをどう読むか』(新泉社)、ピュドロフスキ『ピュドロさん、美食批評家はいったい何の役に立つんですか?』(新泉社)など多数。関修FACE...

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『美食通信』 第四十八回 「古酒を嗜む――抜栓してみてのお楽しみ――」

『美食通信』 第四十八回 「古酒を嗜む――抜栓してみてのお楽しみ――」

 先日行われたワイン会で偶然とはいえ、いわゆる「古酒」を四本も開ける機会がありました。ボルドー二本、1995年と1986年、どちらとも1990年のブルゴーニュ二本という内容でした。造られて三十年から四十年経っているワインたちですので、これはまさしく「古酒」の部類に入ります。  では、そもそも何年くらい経ったらいったい「古酒」と言えるのでしょう。これは意外に難しい問題です。例えば、ボジョレ(とりわけ、ボジョレ・ヌーヴォ)のような早飲みのワインを数年寝かせて飲んだとしてもそれは「古酒」と言えるのかもしれません。ただし、この場合、まさに「古いワイン」という意味で美味しいかは別の話です。  ワイン愛好家が「古酒」という場合、それは「古くても美味しい」ワイン、その場合、しかも「数十年経って初めて美味しくなるワイン」と「飲み頃とは別の美味しさがあるワイン」の二種類に分かれると考えられます。しかし、いずれにせよ、年を経ても「美味しく」なくてはいけません。それには経年熟成して美味しいワインを造るという造り手の意志が必要となります。いわゆる「長熟用のワイン」と言われるものです。  こうした長熟用のワインに必要なのはワインの渋みを担うタンニンです。ですので、フランスワインではボルドーワインが古酒に向いていると言えます。では、どのくらい年を経たものを「古酒」と呼ぶのが適切と言えるのでしょうか。  愛好家以外の一般の方々が特別にヴィンテージワインを所望されるのは、まずは成人式ではないでしょうか。そう、「古酒」の一つの目安は二十年以上経ったワインというものです。  実際、例えば、ボルドーその中でもカベルネ・ソーヴィニヨンを主とする「メドック」地域のワインの場合、格付けシャトーは十年、その下位にあたる「クリュ・ブルジョワ」のワインの場合、七~八年が最初の飲み頃と言われています。ですので、二十年経てば、飲み頃から二倍から三倍の年月が経っていることになります。  もちろん、最初に述べましたように最初から何十年も熟成させてから飲むように造られている銘酒もあります。その代表がメドック格付け第一級いわゆる「五大シャトー」の一つ、シャトー・ラトゥールです。筆者がボルドーワインを学び始めた頃、ラトゥールは三十年寝かさないと本領を発揮しないというのが定説でした。  成人に達し、ワインを嗜むことが許されるようになれば、バースデーに誕生年のワインを開けるというのが一つの「古酒」の楽しみ方にもなります。一九九〇年代後半、ボルドーワインにのめり込んでいた筆者は友人たちのバースデーに必ずといってよいほど誕生年のワインを開けていました。  当時、筆者は三十代後半で友人のほとんどは筆者より若い方々でしたので、一九六〇年代後半から一九七〇年代前半のボルドーワインを探しては購入していました。現在のようにネットなどない時代でしたので、足繁く有名なワインショップや多くは主要デパートのワイン売り場に出向き、ダイレクトメール(DM)を送ってもらっていました。  虎ノ門にある「桝本」の「ヴァン・シュール・ヴァン」はパリのワイン商「ペーター・ツーストラップ」と提携していますので、当時から「古酒」も多く扱っており、現在に至っています。「エノテカ」などはまだ広尾にしか店がなかった時代、店に出かけるとビストロの今日の料理のように黒板に本日の古酒が書かれていて、気になるものが購入出来た際はまさに一期一会だけに嬉しく思ったものです。  しかし当時、古酒と言えば何と言っても専門のインポーター「海外酒販」が有名でした。前回書かせていただいた故山本博先生の『わいわいワイン』にも古酒なら「海外酒販」がよろしいと書かれていました。紙のリストを送ってもらい、電話して在庫を確認して、六本木の事務所まで買いに出かけたものです。ワインは足で探す時代でした。  ワインは開けてみなければ分からないもの。普通のワインでも「ブショネ」と呼ばれる主にコルクに問題があり、ワインにダメージが生じてしまうことがあります。「古酒」ともなれば、コルクだけでなく、保存によって熱劣化など様々な問題が生じかねません。また、ワインそのものが熟成と共に経年劣化して参ります。  ですので、シャトーで保存している場合など、途中でコルクを新しい物に変え、場合によっては目減りした分を補って再び栓をする「リコルク」という作業を行なう場合があります。その場合、新しいコルクには元のワインのヴィンテージと共にリコルクした年を明記しています。  いずれにせよ、開けてテイスティングしてみないと分かりません。目視できるのは目減りがひどくないか、エチケットなどが高温による吹きこぼれで汚れていないかを確認できるくらいです。  また、いくら五大シャトーなどの銘酒でもヴィンテージが悪ければ、元々美味しいワインが造れませんし、長持ちもしません。例えば、1991年のボルドーは全体的に不作で中でもメルロの出来が悪く、とりわけポムロールが駄目で、シャトー・ペトリュスは造られませんでした。シャトー・ボールガールもすべてセカンドワインとして販売されたと言われています。  そこまででなくとも恵まれないヴィンテージの古酒は価格こそ、まだ良い年の古酒に比べれば安いかと思いますが、早くに消費されてしまいますので、年を経れば経るほど入手しにくくなることは必須です。また、正直それほど美味しくはないでしょう。  逆に良いヴィンテージの古酒は随分年をとってもそれなりに得も言われぬ熟成感のある通常飲むワインとは別の素敵な景色を見せてくれることでしょう。  ボルドーではとりわけタンニンが強く長熟用のワインが出来る年があります。そうしたワインを「ヴァン・ド・ギャルド」=「見守るべきワイン」と言います。  ボルドーのヴィンテージチャートで「ヴァン・ド・ギャルド」として有名なのは1986年です。今でも充分美味しく飲めるシャトーが沢山あります。  バースデーはもとより、時に「古酒」を嗜むのもワインの楽しみの幅を広げることになり、ワインの奥深い魅力を知ることが出来るかと思います。  最後に一言。1990年のブルゴーニュもなかなかの逸品でした。ボルドーより探すのが難しいとは思いますが、やはり、ボルドーとブルゴーニュはそれぞれ偉大なワインであると実感した次第です。 今月のお薦めワイン 「ボルドー右岸のメルロ主体のワインを楽しむ――サン=テミリオンの隠れた逸品『シャトー・キノ=ランクロ』――」 「シャトー・キノ=ランクロ 2019年 AC サン=テミリオン グランクリュクラッセ」 7800円(税抜)  このクール最後のワインはボルドーから。今までメドック、グラ―ヴと左岸のワインを紹介させていただきました。そこで、今回は右岸リブールヌのワインを選んでみました。メドックのワインはカベルネ・ソーヴィニヨンが主体なのに対し、リブールヌのワインはメルロが主体。タンニンより果実味に見るものがあります。  また、リブールヌのワインは「サン=テミリオン」と「ポムロール」が二大産地となっています。サン=テミリオンが格付けにご執心なのに対し、ポムロールはあえて格付けをしないと対照的。ワイン的にはサン=テミリオンがカベルネ・フラン、さらにはカベルネ・ソーヴィニヨンとカベルネ系が補助品種として重要な役割を果たしているのに対し、ポムロールはほぼメルロで造られているとお考えになって良いかと思われます。  さらに、ポムロールとほぼ同じくメルロで造られるワインで果実味がよりストレートに伝わってくる「フロンサック」(カノン=フロンサックだとなお良し)、サン=テミリオンに隣接してよりスパイシーで野趣味にあふれた「カスティヨン」が価格的にも手頃に楽しむことが出来ます。  今回はサン=テミリオンのワインから、グランクリュクラッセのシャトー・キノ=ランクロを選んでみました。サン=テミリオンは格付けにうるさい。選ぶなら、グランクリュクラッセから選ぶことをお勧めします。グランクリュになりますと二百種類を超えると言われ玉石混交で、思わぬ逸品に出会うことも可能ですがそれにはかなりの知識が必要となるでしょう。  キノ=ランクロは1997年、ポムロールにもシャトーを有するアラン・レイノー夫妻が購入し、一躍注目を浴びます。2008年にはプルミエAのシャトー・シュヴァル=ブランのオーナーたちが買収。レイノー博士はコンサルタントとして残ったようです。2012年にはグランクリュクラッセに昇格しましたが、2022年、シュヴァル=ブランとオーゾンヌのツートップがころころ変わる格付けに嫌気がさしたのか脱退。キノ=ランクロも格付けから脱退しました。  オーナーを見れば、キノ=ランクロが隠れた逸品であることは明白か、と。筆者は以前、台北の「ターブル・ロビュション」でランチした際、選んだことがあり、フランス人のソムリエに褒められました。  年末の美食を囲む楽しいひと時、是非このとっておきのワインを開けていただければ幸いです。...

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第三十回『銀座の仕立屋落語会・黒酒クロークルーム』開催のお知らせ

第三十回『銀座の仕立屋落語会・黒酒クロークルーム』開催のお知らせ

 9月の落語会で新メンバーに加わっていただいた黒酒さん、2回目の登場です。9月の落語会は大入りで流石の人気ぶり、堂々としたお噺を披露してくれました。師走となる今回はどんな落語会になるのかお楽しみにお越しください。 第三十回『銀座の仕立屋落語会・黒酒クロークルーム』 日時:12月1日、日曜日 12時45分開場 13時開演 終演14時30分ごろ 場所:ザ・クロークルーム 出演: 桃月庵 黒酒 開口一番 世話人:山本益博 会費:2,500円(税込) 申し込み、お問い合わせは info@thecloakroom.jp まで  ぴあでチケットをご購入の方はこちらから。 略歴桃月庵 黒酒1987年4月13日生まれ2017(平成29)年8月桃月庵白酒に入門2019(平成31)年1月21日前座となる 前座名「あられ」2022(令和4)年11月1日二ツ目昇進 「黒酒」と改名

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『美食通信』 第四十七回 「懐かしの美食の先達――三善晃と荻昌弘――」

『美食通信』 第四十七回 「懐かしの美食の先達――三善晃と荻昌弘――」

 ようやく秋の気配を感じ始めたこの十月の初め、料理評論家として活躍されていた服部幸應氏急逝の訃報に接することになりました。  料理学校の校長先生にしては料理をしているところを余り拝見したことがなく、日本におけるフランス料理の普及に尽力された辻調理師学校の創設者、辻静雄(1933~93)氏を彷彿させるものがありました。服部先生と言えば、『料理の鉄人』、辻氏と言えば『料理天国』とテレビで美食の普及に大きな役割を果たして下さいました。  この二〇二四年は年明けの一月には日本におけるワイン界の大御所、山本博先生が九十二歳で亡くなりました。筆者がボルドーワインを極めようと常に手元に置いてきたペパーコーン『ボルドーワイン』(早川書房)をはじめ、アレクシス・リシーヌ『新フランスワイン』(柴田書店)などワインに関する翻訳本のほとんどが山本先生の手になるものです。また、実に多くのワイン本を執筆されてきました。  ペパーコーンの翻訳の監訳者紹介にもありますように、冒頭、肩書として「弁護士」と書かれるのが通例でした。ワインを100点満点で評価する日本人が大好きな「パーカースコア」を始めたロバート・パーカー・ジュニアもまた「弁護士」出身。マイケル・ブロードベントやエレナ・サトクリフは「サザビーズ」のオークショナー、『ポケット・ワインブック』のヒュー・ジョンソンもワイン愛好家を自称するワイン評論家。ワインのスペシャリストは「ソムリエ」ではないのです。「ソムリエ」はワインをサーヴィスするサーヴィスのスペシャリストであり、ワインを売らねばなりません。批評家=評論家はあくまで客観的にワインを評価する必要があります。「ソムリエ」という立場はそれに相応しくはないことを再確認すべきです。  山本先生と言えば、どうしても翻訳に目が行きがちですが、筆者は人からワインを始めるにあたって何か参考になる本はないかと尋ねられたら、迷わず、山本先生の『わいわいワイン』(柴田書店)を挙げます。山本先生はワインの歴史を重視される方でしたので、多くの本は歴史に関するやや硬い感じの本が多かったのです。そんな中、ワインを楽しむために必要な知識を軽妙な語り口で、しかも格調高く的確に提示されている『わいわいワイン』はワイン愛好家を自称する者は所持すること必須と言えましょう。  例えば、マイケル・ブロードベントの『ヴィンテージ・ワインブック』を携帯する必要性を説かれていますが、筆者も早速購入しました。翻訳はもちろんありませんので英語の原書だったのですが、オークショナーのブロードベントはフランス革命時代に造られたシャトー・マルゴーなどのテイスティングも行なっており、その時代から1980年代までヴィンテージごとに主要なワインのテイスティングコメントを掲載。  実に興味深く、ヴィンテージワインを飲むにあたり、大変参考になりました。  そう言えば、一九九〇年代半ばフランスワインを始めるあたり山本氏の本にお世話になったのに対し、大学生になった一九八〇年、フランス料理を食べ歩き始めた頃、何を頼りに「美食」を考えようとしたのか。  もちろん、辻静雄氏の本も読みましたが、やはり教科書というか啓蒙的な筆致がまだひよこだった筆者には親しみやすくはありませんでした。  そんな中、フランスの香りを筆者に伝えてくれたのが意外にも現代音楽作曲家の三善晃(1933~2013)先生が書かれた『男の料理学校 自分の味を創造しよう』(カッパブックス、1979年)でした。光文社の新書版「カッパブックス」は当時、実用書と教養書の中間というか、絶妙なスタンスでベストセラーを多数出していました。筆者が大学でお世話になった心理学者多湖輝先生の『頭の体操』などがその好例です。  ちょうど新刊だったこともあり、パリ音楽院に留学された三善先生がかの地で自炊され作られたオムレツの話など、文章もお上手で、「美食」としてのフランス料理を極めたいとおぼろげに思っていた筆者には、まさにパリが彷彿と感じられ、怖いもの知らずのフレンチ食べ歩きを始めるきっかけになったのは確かです。  また、当初筆者はワインなど酒類をほとんど嗜みませんでしたので、フランス料理以外にも様々な食べ歩きを行なっていました。その際に大いに参考にさせていただいたのが映画評論家として活躍されていた荻昌弘(1925~1988)氏の食に関する著書でした。 荻氏は今で言う「男厨(ダンチュウ)」、即ち「男の料理」のパイオニアの一人で『男のだいどこ』は一九七二年に公刊されています。筆者が手にしたのは文庫本になったばかりの『大人のままごと』(文春文庫、1979年)だったかもしれません。  その立ち居振る舞いというか、「食通」気取りを蔑み、あくまで自身を「食いしん坊」と呼ぶその洒脱な感じが素晴らしく、筆者が感動したのが「サンドウィッチハウス グルメ」を贔屓にしている文章でした。「サンドウィッチハウス グルメ」は空港や新幹線の駅に展開したサンドウィッチ専門店。今から半世紀も前のことです。サンドウィッチといえば、喫茶店で出される手軽な軽食というのが常識だった時代、クラブハウスサンドやエビフライが挟まったサンドウィッチなどちょっと贅沢で高価なサンドウィッチだけを提供する「サンドウィッチハウス グルメ」は大学生になったばかりの筆者にはちょっとした高嶺の花でした。(ちなみに「グルメ」は現在、唯一、那覇空港で営業しているとのこと)。  荻氏はその贅沢感が空港や新幹線の駅に出店している理由であること。そして、それをどのように活用するかが「食いしん坊」冥利に尽きるかを書かれていました。出発まで時間があれば、立ち寄ってゆったりと併設のレストランで出来立てを堪能する。時間がなければ、テイクアウトして、車内で駅弁代わりに楽しむ。  筆者も荻氏の本に後押しされ、当時、船橋東武のレストラン街にあった「グルメ」に一人で食べに出かけたものです。喫茶店のサンドウィッチとはまた違ったまさに「専門店」の味に感動し、駅や空港でも立ち寄れるようになりました。当時、船橋東武のレストラン街にはアメリカで成功したロッキー青木(1938~2008)氏の洋食店「紅花」(タンシチューが絶品でした)、上野精養軒もあり、また、船橋西武には一時期、高輪プリンスホテルのメインダイニングとして有名なフレンチ「ル・トリアノン」の支店があったり、デパ地下のイートインにはローストビーフの「鎌倉山」、ドイツ料理の「ローマイヤ」などもあって、東京まで行かなくても船橋西武の「リブロ」や船橋東武の「旭屋書店」へ本を買いに行くついでに食べ歩きする機会を得たものでした。  筆者の「美食」への誘いに貢献下さった、三善先生、荻氏に心から感謝する次第です。  最後になりますが、この五月にはカレー博物館初代館長を務められたカレー評論の第一人者小野員裕氏が急逝されました。筆者は縁あって、親しくさせていただいておりましたので痛恨の極みといった思いです。筆者の二歳上でいらして、ほぼ同じ年ですのでショックでした。ここのところ、お目にかかる機会がなかったのですが、本を立て続けにお出しになられて、その活躍ぶりを頼もしく思っていた矢先の訃報でした。遺作も公刊されました(『小野員裕の鳥肌が立つほどいい店、旨い店』(八重洲出版))。  心から哀悼の意を表させていただきます。 今月のお薦めワイン 「イタリア最北のピノ・ネロを楽しむ――トレンティーノ=アルト・アディジェ州のワイン――」 「ピノ・ネロ『ヴィーニャ・カンタンゲル』 2021年 DOCトレンティーノ マソ・カンタンゲル」 9000円(税抜)  今年最後のイタリアワイン。何にしようか迷いました。王道のピエモンテとトスカーナ。そして、ロンヴァルディアのピノ・ネロ。最近はブルゴーニュ好いていますのでここは再びピノ・ネロで、産地を珍しいところでいかがか、と。  そこで思い浮かんだのがイタリア最北の州、トレンティーノ=アルト・アディジェ州で造られるピノ・ネロのワインという訳です。  トレンティーノ=アルト・アディジェ州はボルザーノを中心とする北部のアルト・アディジェと州都でもあるトレントを中心とする南部のトレンティーノが合体した州です。最北と言われる通り、北に接しているのはオーストリアのチロル地方。そこで、アルト・アディジェは「南チロル」とも言われています。そして、オーストリアはドイツ語圏ですので、この州の人々はドイツ語が堪能。従って、フランスのアルザス地方と比較され、造られているワインも似た傾向があると言われています。つまり、白ワイン中心で赤は地品種のテロルテゴも有名ですが、アルザスがピノ・ノワールだったようにこの州でもピノ・ネロが造られているのです。ちなみにカベルネ・ソーヴィニヨン、メルロも造られています。  ロンヴァルディアがシャンパーニュと同じ品種で「フランチャコルタ」を造っているのでピノ・ネロが栽培されているのと対照的です。  という訳で、アルザスのピノ・ノワールと比較するつもりで選んでみました。  選んだワインの造り手はマソ・カンタンゲル。DOCトレンティーノから分かるように、トレントの街のすぐ東に位置するチヴェッザーノにあるカンティーナです。2006年、フェデリコ・シモーニが創業。6haの畑を所有し、2008年の初ヴィンテージ以来、自然派のワインを提供しています。  通常のキュヴェよりも限定された畑の上質の葡萄から造られ、バリックで12か月熟成したワインは力強くもエレガントな仕上がりになっています。  前回のロンヴァルディアのイジンバルダのピノ・ネロと比較して飲んでいただければ幸いです。 略歴関 修(せき・おさむ)...

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第二十九回『銀座の仕立屋落語会・たま平クロークルーム』開催のお知らせ

第二十九回『銀座の仕立屋落語会・たま平クロークルーム』開催のお知らせ

 11月の銀座の仕立て屋落語会は林家たま平さんの登場です。8月に行われた落語会では、一般未公開の大変貴重な新作落語をお披露目いただきました。これからどんなお噺に育っていくのか楽しみです。テレビドラマの出演や映画のお仕事などでも大忙しのたま平さんですが、落語にもしっかりと向き合っていらっしゃいます。どうぞ皆さま奮ってご参加ください。 第二十九回『銀座の仕立屋落語会・たま平クロークルーム』 日時:11月10日(日曜日) 12時45分開場 13時開演 終演14時30分ごろ 場所:ザ・クロークルーム 出演:林家たま平 開口一番 世話人:山本益博 会費:2,500円(税込)現金のみ 申し込み、お問い合わせは info@thecloakroom.jp まで 略歴: 林家たま平 1994年5月29日生まれ2013年4月、実の父でもある九代目林家正蔵に入門。2017年11月より二ツ目昇進。2019年放送のドラマ「ノーサイドゲーム」などドラマや映画などの出演多数。  

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『美食通信』 第四十六回 「優雅なるモンテクリストサンドの朝食¬――横浜ホテルニューグランド――」

『美食通信』 第四十六回 「優雅なるモンテクリストサンドの朝食¬――横浜ホテルニューグランド――」

 毎年九月に亡き両親の実家のある静岡市に帰省するのですが、その途中で一泊するのを常にしております。昨年は伊豆堂ヶ島にある全六室のリゾートホテル「繭二梁」に泊まりました。今年は横浜に泊まることにしました。  高校の同級生たちと日帰り旅行で年に何度か横浜に出かけるのですが、筆者は中華街近くにある「ハイアットリージェンシー横浜」の一階ラウンジが気に入っていて、必ず寄るようにしています。みなとみらいにお住いの教授に薦められて出かけてみたのですが、天井の高い贅沢な空間はもとより、若いサーヴィスの人たちの対応が清々しく気持ちが良い。折角なので一度泊まってみたいと思い、実現に至った次第です。  その際、一つだけ悩んだことがあります。それは朝食のこと。パリですと、生ジュースにパンとカフェオレというコンチネンタルスタイルが定番です。肝心なのは、それはルームサーヴィスが当たり前ということです。毎朝、起きると電話を取り、ジュースとカフェオレなどの飲み物のチョイスをする。しばらくするとバスケットに色々な種類のパンが盛られた朝食が部屋に届きます。チップを渡して、それを貰って部屋でゆるゆると食する。別にコンチネンタルである必要もないのですが、朝食はルームサーヴィスに限ると考えます。  ところが「ハイアットリージェンシー横浜」では朝食のルームサーヴィスがない。ルームサーヴィスそのものはあるのですが、夜だけのよう。朝食の選択肢は一つしかなく、二階の「ハーバーキッチン」でのブッフェ。筆者の一番苦手とするスタイルの朝食です。まあ、一流ホテル、HPでも「横浜エリア内でトップクラスの評価を誇る」朝食ブッフェだそうで、メニュを見ても和洋折衷に場所柄、中華の要素が少々加わり、中でもパンの種類の充実ぶりが自慢のようです。ペストリーショップを併設しているだけに自信があるのでしょう。  筆者は毎朝必ず朝食は摂ります。ただ、沢山食べるわけではないので、バイキング方式は少しずつ取れば良いので、まだ分量的には調整できる方ですがやはり費用対効果が悪い。「ハーバーキッチン」の朝食は税込み3800円ですので、とてもとても3800円分も朝から食べられません。それなら、同額のルームサーヴィスの定食にしていただいた方が、食べたいだけ食べて後は残せばよいだけで。  あと、やはりバイキング形式はサラマンダーに乗せられた料理が乾いてパサつくなど、美味しくない。あと、マナーの悪い客の傍若無人ぶりなど辟易する場面に遭遇したことがあり、ブッフェは出来る限り避けたいと思っています。  ですので、朝食をどうしようか、最後まで迷っていたのですが、朗報が。  朝、寝るのが6時、7時という筆者は日曜日の早朝6時から放送される「バナナマンの早起きせっかくグルメ!!」(TBS)という番組をついつい見てしまいます。早く寝れば良いのに。朝食を美味しく食べるため、食欲を掻き立ててくれる番組だそうで、様々なグルメが紹介されます。そんな中、「モンテクリストサンド」という料理が取り上げられたのです。MCのご両人も大絶賛されていたその食べ物を筆者は初めて知りました。  見たところ、「クロックムッシュ」と「フレンチトースト」が合体したようなパン料理。「クロックムッシュ」はパンの間にハムとチーズを挟んだもので、正式にはそこにベシャメルソースなどを塗って焼き目を付けるのですが、ソースを省略し、ホットサンドメーカーで作っても美味しい。ちなみにその上に目玉焼きを乗せると「クロックマダム」になります。  そうすると卵液に漬けたトーストを焼く「フレンチトースト」の真ん中にハムとチーズが挟まれている「モンテクリストサンド」は「クロックマダム」のバリエーションと考えることができます。  で、バナナマンのご両人が試食して絶賛されていた「モンテクリストサンド」は横浜の老舗ホテル「ニューグランド」のものでした。「ニューグランド」と言えば、戦後の日本のフレンチに影響を与えた名シェフ、サリー・ワイルが料理長を務め、駐留していた進駐軍人のために創作した「ナポリタン」や「ドリア」は有名。旧館にはマッカーサーが使っていた部屋が「マッカーサースイート」として宿泊可能。  筆者は二十年ほど前、隣の新館のスイートに泊まったことがあります。「モンテクリストサンド」を供してくれるのはその新館五階のフレンチ「ル・ノルマンディー」です。  そこで、今回の朝食は散歩がてらニューグランドに出かけ、「モンテクリストサンド」を食することにしました。ハイアットリージェンシーからは十分ほどで着く距離で、改めて立地の良さを感じました。前日ディナーした筆者お気に入りの「スカンディヤ」からは数分ですし、ちょっと目立たない感じがまたハイアットリージェンシーの良さでもあります。  さて、会場に着くと二十年前の朝食も「ル・ノルマンディー」だったような気がしてきました。入り口で「朝食券は」と聞かれ、「いいえ」と答えると広いダイニングをどんどん奥に誘導されて行きました。その間も結構な数の宿泊客と思われる人々が朝食中で賑わっているなあ、と。ハイアットリージェンシーは思ったより人気がなく、チェックアウト時も誰とも一緒になりませんでした。  結局、一番奥の窓際、港が一望できる席に通されました。ロケーション的には最高の席で、偶然空いていただけかもしれませんが、そうだとすればラッキーでした。とにかく広いダイニングですので、景色が楽しめるのは限られた窓際だけ。しかも、港に向いているのはさらに限られた席だけですので。  メニュは三種類。洋定食とモンテクリストサンド、さらにコンチネンタル。モンテクリストサンドはフレッシュジュースと珈琲・紅茶を選ぶだけとコンチネンタルとチョイスは同じ。野菜サラダが先に出て、モンテクリストサンドとココット型に入ったヨーグルト、あとちょっとしたフルーツが一皿に盛られて登場します。ワンプレートの朝食。それで4200円。ハイアットリージェンシーのブッフェより高い。さすが老舗だけある。  そのサンドは思ったより小ぶりながら、食するとなかなか濃厚でちょうど良いポーションかも。周囲を見るとテレビで紹介されたからか、結構多くの方がモンテクリストサンドを選ばれていました。フレンチトーストは抑え気味とはいえ甘い。しかも、ハムではなくカリカリベーコンだったので塩味がしっかりしていて、甘じょっぱいというのは日本人にはお馴染みの味なのかもしれません。筆者としてはおおいに期待していましたが、それほど感動しませんでした。不味くはないが、大変な美味というほどではないか、と。  結論としましては、次回、横浜での朝食はハイアットリージェンシーでのブッフェで充分か、と。 今月のお薦めワイン 「コート・ド・ボーヌの『秘められたる宝石』――ACサン=トーバンの赤ワインを楽しむ――」 「サン=トーバン プルミエクリュ『ピタンジュレ』ルージュ 2018年 ACサン=トーバンプルミエクリュ ドメーヌ・オ・ピエ・デュ・モンショーヴ」 10000円(税抜)    今回はブルゴーニュ。前の二回はコート・ド・ニュイのワインを取り上げさせていただきました。最後にコート・ドールのもう一方の雄、コート・ド・ボーヌの赤ワインを紹介させていただこうと思います。  コート・ド・ボーヌはやはりモンラッシェやムルソー、コルトン・シャルルマーニュといったブルゴーニュ珠玉の白ワイン産地として名声を博しています。  が、赤ワインもグランクリュに「コルトン」、赤ワインだけを産するアペラシオンとして「ヴォルネ」や「ポマール」といった銘酒を産しています。筆者は有名ネゴシアンの集まる「ボーヌ」の赤ワインがニュートラルで安定感があり、先の三アペラシオンと共にまずは選択肢となるかと思われます。  しかし、今回はサトクリフが「ブルゴーニュの秘められたる宝石の一つ」と評している(『ブルゴーニュワイン』)アペラシオン「サン=トーバン」のワインを紹介させていただこうと思います。サトクリフはどの生産者も良心的でワインが一律に良質であると書いています。白の方が多く造られていますが、赤も優れたワインが造られています。  今回選んだワインの造り手はドメーヌ・オ・ピエ・デュ・モンショーヴ。2010年がファーストヴィンテージというシャサーニュ=モンラッシェ村に拠点を置く、新進気鋭のドメーヌ。同村にあるブルゴーニュでも大手のネゴシアン「メゾン・ピカール」のミシェル・ピカールの令嬢フランシーヌ・ピカール氏が独立して設立しました。2013年より完全にビオディナミを採用。  この赤ワインの畑はプルミエクリュの「ピタンジュレ」。村の南、シャサーニュ=モンラッシェ村に接した場所にあります。100%除梗し、新樽率30%で15ヶ月熟成。その後、ステンレスタンクに移し、2ヶ月休ませ、軽くフィルターにかけ瓶詰め。  プルミエクリュは最大で1800本と「ひたすらその品質のみを追い求めている」ドメーヌのエレガントで格調高い逸品をこの機会に是非。 略歴関 修(せき・おさむ) 一九六一年、東京生まれ。現在、明治大学他非常勤講師。専門は現代フランス思想、文化論。(一社)リーファーワイン協会理事。著書に『美男論序説』(夏目書房)、『隣の嵐くん』(サイゾー)など、翻訳にオクサラ『フーコーをどう読むか』(新泉社)、ピュドロフスキ『ピュドロさん、美食批評家はいったい何の役に立つんですか?』(新泉社)など多数。関修FACE...

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第二十八回『銀座の仕立屋落語会・与いちクロークルーム萬年堂本店』開催のお知らせ

第二十八回『銀座の仕立屋落語会・与いちクロークルーム萬年堂本店』開催のお知らせ

 10月の「銀座の仕立て屋落語会」、第二十八回は、春風亭与いちさんの出演です。今回は、初めての試みとして銀座の萬年堂本店で開催。秋の夜長に萬年堂さんの美味しいお菓子と楽しい落語をご堪能ください。 第二十八回『銀座の仕立屋落語会・与いちクロークルーム萬年堂本店』 日時:10月23日(水曜日) 18時45分開場 19時開演 終演20時30分ごろ 場所:銀座萬年堂本店 中央区銀座 7-13-21   萬年堂本店ホームページはこちら 出演:春風亭与いち 会費:4,000円(税込)萬年堂本店の美味しいお菓子とお茶付き 申し込み、お問い合わせは info@thecloakroom.jp まで 略歴 春風亭与いち1998年4月5日生まれ2017年3月、春風亭一之輔に入門。翌年1月21日より前座となる。前座名『与いち』。2021年3月1日より二ツ目昇進。

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『美食通信』 第四十五回 「パリそぞろ歩き¬――「キャレ」の思い出――」

『美食通信』 第四十五回 「パリそぞろ歩き¬――「キャレ」の思い出――」

 今年の夏はパリで行われたオリンピックに世界中が沸きました。開会式からして、史上初の屋外での開催。パリの街を最大限に生かし、選手たちはセーヌ河を船に乗って登場し、セレモニーはイエナ橋を挟んでエッフェル搭がすぐ目の前のトロカデロ広場で行われ、そのスペクタルに圧倒されたのでした。  多くの競技は室内で行われたもののマラソンや競歩をはじめ、屋外で行われた競技もありました。すると名所旧跡の多いパリの街が垣間見れます。ただ、薄汚れたセーヌ河を泳ぐ競技だけでは実施するのも映すのも勘弁してほしいと思ったものです。確かに水質浄化に努めたのでしょうが、おぞましいものを覚えました。パリの街は道が石畳で、ペットの糞はしっ放し。毎朝早く、放水車が街をめぐって、糞を側溝に流し込むのです。まあ、下水は完備されているとのことでしたが、雨が降ると処理しきれなくてセーヌ河に流れ込むとか何とか。それって本当に下水なのか怪しいようにも思いますが、いずれにせよ、水質汚染は解消されないでしょうから。  筆者がパリを最初に訪れたのはちょうど三十年前の1994年のことでした。夏の終わりだったように記憶しております。まだ、貨幣はフランで、ネットも何もない時代で、予備知識といったら『地球の歩き方』を読むくらいしかなく、若さというか無知というかそんな程度で単身パリに乗り込んだのでした。とりあえず、オペラガルニエ近くの三つ星ホテル(ホテルは五つ星が満点)に落ち着いたのですが、今回の選手村同様、冷房がない。しかも、古い建物は壁が薄く、隣の宿泊客のいびきが聞こえてくるではありませんか。恐ろしくなって、早速翌日、スクリーブ通りにあったJTBに出かけ、空調の完備されたレジダンスを探してもらいました。  すぐに見つかったのですが、それがまたシャンゼリゼ通りの一筋裏のポンチュー通りで場所は良いのですが、歓楽街なので夜中も外がうるさく、ネオンの光がカーテンの隙間から差し込んでなんだか安眠できませんでした。ですので、次の年からは左岸のサン=ジェルマン=デ=プレ教会の裏手のジャコブ通りの「ラ・ヴィラ」というデザイナーズホテルに泊まることにしました。パリは思ったより小さな都市で中心に近くに泊まれば、主要な場所へは歩いて行けるのです。地下鉄は不潔でスリなどに狙われやすく、乗る気になりませんでした。外縁に近い二十区のペール=ラシェーズ墓地などに行くにはタクシーを使いました。  ですので、とにかく歩く歩く。そして、疲れたり、喉が渇くと目に入ったカフェに入って一休みするのです。というのも、パリにはコンビニはもとより飲み物の自動販売機などなかったのですから。それは今も大差ないのではないでしょうか。カフェというとシャンゼリゼの「フーケ」とか、サン=ジェルマンの「ドゥマゴ」や「フロール」などが有名ですがそれらはいわば「観光カフェ」で、別に日常使いする無名のカフェが街のそこここに点在しているのです。  その際、ほとんどの人が頼むのが「カフェ」でそれはエスプレッソを指します。お酒で喉を潤したい方は「ドゥミ」と呼ばれるグラスビールを頼むでしょう。炭酸飲料は日本でも売られている「オランジーナ」、ジュースは「ジョケル」が有名ですが、大人の飲み物という感じがしません。  「アンカフェ、シルヴプレ」とギャルソンに頼むとシングルのエスプレッソコーヒーとチェイサーの水、そして「キャレ」と呼ばれる正方形の一口サイズの板チョコが一枚付いて出てまいります。ちなみに「キャレ」とは正方形という意味です。  この「キャレ」は必須で、「ドゥマゴ」のような有名店では店の印や名前の入った特注の紙で包まれたものが出されますが、普通のカフェでは市販の「キャレ」が出てきます。これがまた、結構色々な会社が作っているようで、微妙に味が違っていて、食べてみて楽しい。本来は、たまたま入ったカフェのエスプレッソの味を評価すべきなのでしょうが、キャレが美味しいと何か嬉しい気持ち、得した気持ちになるものです。  そのような「キャレ」にも定番はあるもので、それは「ヴァローナ」社製のものです。例えば、再開発で閉店してしまいましたが「渋谷文化村」にあった「カフェ・ドゥマゴ」の支店でも珈琲を頼むと店の名前の入った「キャレ」が付いてきましたが、ヴァローナ社のものでした。  また、パリのレストランガイド『ルベ』には食後の珈琲(即ちエスプレッソ)を評価する項があったのですが、味の評価(カップマーク)の他にグランメゾンにとなるとプティフールやトリュフチョコレートなどが一緒に出されると書かれているのですが、日常使いの店ですとやはり「キャレ」と書かれており、中には「ヴァローナ」、「レオニダス」といった銘柄が記載されているケースもあります。  「キャレ」というのは「カフェ」のお供だけではなく、意外な日常使いをされることもありました。それはチップへのお返しです。ご存知のように、パリはチップ社会で、例えば、カフェのギャルソンは店内で自分のテリトリーが決まっており、そのテリトリーの客のチップがギャルソンの収入になるのです。ですので、自分が座った際、席の近くを通りかかったギャルソンに声をかけても無視されることがあります。それは当該のギャルソンがその席の担当ではないからです。逆に席に着いたら、担当のギャルソンが来るのを待つ必要があるということになります。そして、たとえエスプレッソ一杯でもなにがしかのチップを払うことがマナーです。  これは何処でも当てはまります。グランメゾンでも会計の時、合計金額の他にチップを払う必要がありました。筆者は請求金額をカードで払い、チップは現金で支払っていました。満足度が大きければ、多めに。サーヴィスが横柄だったり、料理がイマイチだったら少なめにと調整する。これがなかなか難しい。  また、パリの公衆トイレは個室でお金を入れると開くというスタイルだったのですが、故障している場合が多く、トイレを済ますのにカフェに入るケースも多々ありました。すると飲み物を注文しても、トイレの前に賽銭箱のようなチップ入れが置いてある店もありました。つまり、何にもチップが必要なのです。ですので、小銭(モネ)を常に持ち歩く必要がありました。  ホテルでも、荷物を持って運んでくれたらチップ。ルームサーヴィスを頼んでもチップ。そして、ベッドメーキングの際にもチップをベッドのサイドテーブルに毎日置く必要がありました。もちろん、少額で良いのですが。すると時折、部屋に戻るとチップを置いた場所に「キャレ」が置かれていることがあったのです。チップへのお礼として、ささやかなお返しとしての「キャレ」。  何と粋なことでしょう。「キャレ」は単なる「カフェ」のおまけではない。そこには「心遣い」という意味も込められていることが、意外な「キャレ」の使い方から垣間見れた何気なくも貴重な体験でした。 今月のお薦めワイン 「グラーヴの赤もお忘れなく――選ぶならACペサック=レオニャンがお薦め――」 「シャトー・ラリヴェ=オー=ブリオン 2019年 AC ペサック=レオニャン」 7700円(税抜)   今回はボルドーワインの回です。  ボルドーワインと言えば、ここ二回紹介させていただいたカベルネ・ソーヴィニョン主体のメドックのワイン(左岸)とメルロ主体のリブールヌのワイン(右岸)という対が有名ですが、忘れてならないのがグラーヴのワインです。  グラーヴは位置的にはメドックの南、ガロンヌ河上流に位置します。ボルドー市のある場所でもあります。グラーヴと言えば、ボルドーの白ワインの名産地。辛口だけではなく、ソーテルヌやバルサックといった甘口貴腐ワインも生まれます。  また、メドック格付け五大シャトーの一つ、シャトー・オー=ブリオンは例外的にグラーヴのペサック村にあるシャトーです。つまり、メドックスタイルの赤ワインにも優れたシャトーが多いということです。  この優れた赤ワインを産する地域はグラーヴの中でも北部、メドックに近いボルドー市周辺に集中しています。そこで、1953年、グラーヴはオー=ブリオンを筆頭とする赤ワインの格付けを行ない、1959年には辛口白ワインも格付けするに至りました。さらに、1986年ヴィンテージからこれら格付けワインを産する北部を示すアペラシオンACペサック=レオニャンを導入し、南部のみがACグラーヴを名乗ることになりました。  ですので、グラーヴの赤ワインをご所望の際はACペサック=レオニャンのシャトーを探されるとよいでしょう。  今回、紹介させていただくシャトー・ラリヴェ=オー=ブリオンはレオニャン村の中心地区にある有名な古いシャトーで、元はオー=ブリオン=ラリヴェという名だったのですが、オー=ブリオンから訴えられ、現在の名に。優れた赤ワインのみを産する格付けシャトー、シャトー・オー=バイイに隣接し、赤・白両方を造っていますがやはり赤ワインに見るものがあるとの評価が。  「見事な色と、スパイシーで繊細なブーケを持つ、実に古典的なグラーヴで、赤は他の格付けシャトーの一部と肩を並べ得る、いや、それ以上のワインと言えよう」とペパーコーンも『ボルドーワイン』(早川書房)で評しています。  格付けされていないだけに値段も抑えられています。この機会に、是非一度お試しあれ。 略歴関 修(せき・おさむ) 一九六一年、東京生まれ。現在、明治大学他非常勤講師。専門は現代フランス思想、文化論。(一社)リーファーワイン協会理事。著書に『美男論序説』(夏目書房)、『隣の嵐くん』(サイゾー)など、翻訳にオクサラ『フーコーをどう読むか』(新泉社)、ピュドロフスキ『ピュドロさん、美食批評家はいったい何の役に立つんですか?』(新泉社)など多数。関修FACE BOOOK関修公式HP...

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第二十七回『銀座の仕立屋落語会・黒酒クロークルーム』開催のお知らせ

第二十七回『銀座の仕立屋落語会・黒酒クロークルーム』開催のお知らせ

 9月の落語会では遂に「銀座の仕立て屋落語会」の新メンバーが加わります。その名は『桃月庵 黒酒』さん。2022年11月に二ツ目に昇進されたばかり、師匠は桃月庵白酒さんです。  遂に現れた4人目の男、どんなお噺を聞かせてくれるのか楽しにみにお待ちください。 第二十七回『銀座の仕立屋落語会・黒酒クロークルーム』 日時:9月29日、日曜日 12時45分開場 13時開演 終演14時30分ごろ 場所:ザ・クロークルーム 出演: 桃月庵 黒酒 開口一番 世話人:山本益博 会費:2,500円(税込) 申し込み、お問い合わせは info@thecloakroom.jp まで  ぴあでチケットをご購入の方はこちらから。 略歴 桃月庵 黒酒1987年4月13日生まれ 2017(平成29)年8月桃月庵白酒に入門2019(平成31)年1月21日前座となる 前座名「あられ」2022(令和4)年11月1日二ツ目昇進 「黒酒」と改名

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『美食通信』 第四十四回 「サヴァランそれともババ・オ・ロム?¬――お菓子かデセールか――」

『美食通信』 第四十四回 「サヴァランそれともババ・オ・ロム?¬――お菓子かデセールか――」

 高校の同級生とこの時期必ず、横浜の海岸通りにある「スカンディヤ」でランチすることになっているのですが、今回、参加者の一人が食後、常磐町の「馬車道十番館」で「サヴァラン」が食べたいというので出かけることに。「サヴァラン」とは渋い選択だなあ、と。  今から半世紀以上前、筆者が子供だった頃、街のケーキ屋さんのショーケースに並んでいたのは「シュークリーム」に「エクレア」、「ショートケーキ」。そして、栗きんとんを用いた「モンブラン」に、「モンブラン」と形こそ似ているものの生地が全然違っていた「サヴァラン」辺りが定番だったと思います。「モンブラン」も「サヴァラン」も形はブリオッシュ型で、「モンブラン」は普通のスポンジ、「サヴァラン」はまさにブリオッシュ生地。「モンブラン」はスポンジの土台の上にシャンティークリームを絞り、さらにその上に栗きんとん風の栗のペーストを絞り、缶詰の栗を一つ乗せたもの。 「サヴァラン」はブリオッシュのへそを取って、そこにシャンティークリームを絞り、へそを蓋代わりにのせたもの。ブリオッシュ生地にアルコールを飛ばしたラム酒のシロップをこれでもかと滲み込ませ、フォークを入れるとジワッとシロップが垂れてくるくらいが良い。  子供にはお酒の風味がするのと、クリームが余り使われていないので大人の食べるケーキと思い、なかなかチョイスすることはなかったように思いますが、筆者のようなパサつくものが苦手な者にはしっとりしていて、ジューシーで食べやすい。それだけにラム酒シロップをケチったパサつきのある「サヴァラン」は絶対に許せないと思ったのでした。  「サヴァラン」は「干しブドウを入れないババにシロップとラム酒を滲み込ませ、クレーム・シャンティーまたはフルーツを挟んだケーキ。1845年、当時の有名なパティシエ、ジュリアン兄弟が考案し、美食家ブリヤ=サヴァランの名を冠した」(『フランス 食の事典』、白水社)とあります。サヴァランは1826年に亡くなっていますので、ケーキはそのオマージュだったのでしょう。また、日本で最初に「サヴァラン」が作られたのは横浜という説があり、横浜の歴史を感じさせる建物が印象的な「馬車道十番館」の名物が「サヴァラン」というのもそうした経緯があるのではないでしょうか。  さて、上記の定義にも「ババにシロップとラム酒を滲み込ませ」とありますように、それをそのままフランス語にしますと「ババ・オ・ロム」となり、レストランのデセールで結構見かける一品となります。「ババ」はポーランド由来のようで、「クグロフ」がパサパサしているので、ラム酒あるいはキルシュを滲み込ませたとあります。  こちらは1836年頃、パティシエ、ストレールがパリのモントルグイユ通りに店を開き、ババを紹介したとあります(同上)。  解説を読んでいるとどちらにもシャンティークリームが登場したりと余り違いがないような気がします。レストランで出てくる「ババ・オ・ロム」はデセールの一皿ですので、シャンティークリームをババに添えるといった感じが多いかと思います。  さて、「馬車道十番館」の「サヴァラン」は珍しい形をしていました。「小さなコッペパン」のような形とか、筆者は小判型と認識しました。確かに、コッペパンですと真ん中に切れ目を入れてシャンティークリームを挟んだといった感じになります。ユニークだったのは形だけではなく、干しブドウが三粒ほど上面に印代わりに練り込まれていたことです。また、筆者が「小判」と申し上げたように極めて小ぶりの菓子で、筆者が子供の頃食べた食べ応えのある重量感のある「サヴァラン」とは印象が異なっていました。もちろん、ラム酒風味のシロップがふんだんに使われていて、美味しくいただけました。  そう言えば、ブリオッシュ型の「サヴァラン」は時間と共にシロップが下にさがってしまい、食べ始めの上の部分は結構パサパサで、下の方に来ると逆にシロップがビショビショで厚いホイルの包み紙にシロップが溜まってしまうのが常なのを思い出しました。それに比べるとこの「小判」型ですとシロップの滲み具合が均等に近い感じがしました。食べた時に常にジューシーで美味しい。なるほど、と思った次第です。ただ、やはり少々小さすぎて物足りない。やはり、「サヴァラン」はある程度ヴォリューミーでないと。  その点、筆者の記憶にある最上の「サヴァラン」は帝国ホテルのデリカテッセン「ガルガンチュワ」のものでした。フランス・ルネッサンス期を代表する作家ラブレーの『ガルガンチュア物語』もまた美食に関するエピソードに富み、美食文学の代表作の一つと言われています。そんな作品の名前を冠したホテルの売店にはパンやスイーツ、惣菜も売っています。何といっても「ビーフパイ」、帝国ホテルでは「シャリアピンパイ」が有名ですが、筆者は「サヴァラン」に感動した記憶があります。子供の頃食べた「サヴァラン」を極めたようなけれんみのないストレートな完成度の高さ。  ちなみに、シャリアピンステーキが帝国ホテル発祥であることはご存知か、と。1936年に宿泊したロシアのバス歌手シャリアピンが歯を悪くしていたため、牛肉をよく叩いたあと、すりおろした玉葱につけてマリネし、やわらかいステーキに仕上げたもの。玉葱のソースがかかっています。筆者は神戸に住んでいた小学校高学年の頃、社宅近くのレストランのシャリアピンステーキが大好物で、来客があり外食となると、件のレストランにならないかと願ったものです。  いつの間にか、家でケーキを食べるにも「サヴァラン」を買うことがなくなってしまったように思われます。そんな中、フレンチで「ババ・オ・ロム」があると頼みたくなってしまう自分がいるのに気づきます。だいたい、デセールの「ババ・オ・ロム」はまさにラム酒の効いたアルコール感たっぷりのデセール。  シャンティークリームがたっぷり添えられた、ラム酒でむせるような「ババ・オ・ロム」も悪くないのですが、ここは玉子たっぷりのブリオッシュ生地で作られた繊細な「ババ・オ・ロム」が食してみたいなあ、と。ラム酒も余り効かせすぎずに。  子供の頃、街のケーキ屋さんに並んでいた「サヴァラン」。あの、脇役で、でもなんとなく存在感のある、それでいて何処かチープな感じもする……。そんな実は複雑な相貌の「サヴァラン」は今、何処に。 今月のお薦めワイン 「夏はロンバルディーアのピノ・ネロはいかが?――少し冷やして涼やかに赤ワインを楽しむ――」 「ピノ・ネロ 〈ヴィーニャ・ディ・ジガンディ〉 2019年 DOC オルトレポー・パヴェーゼ イジンバルダ」4532円(税込)   今回はイタリアワインの回。夏はやっぱり泡。だったら、シャンパーニュと同じ品種を用いて、シャンパーニュ方式で造られるまさにイタリアのシャンパーニュ、ロンバルディーア州の「フランチャコルタ」にすれば良い。しかし、それではあまりに芸がない というか、当たり前過ぎます。  自分は赤ワインの人だから、だったらピノ・ノワール(イタリアではピノ・ネロ)を冷やして飲みたい。「フランチャコルタ」にはシャンパーニュと同じ品種が用いられています。ということは、シャルドネ、そして、ピノ・ネロ、そして、ここがフランスとは異なるのですが、フランスは赤葡萄のピノ・ムニエなのですが、フランチャコルタはピノ・ビアンコ(フランスではピノ・ブラン)を使って造られています。いずれにせよ、ロンバルディーアではピノ・ネロが造られているということは当然、ピノ・ネロのスティルワインも造られているのです。  今回ご紹介するロンバルディーアのピノ・ネロはこの州のワインを半分以上生産している南西部に位置するDOCオルトレポー・パヴェーゼの代表的造り手「イジンバルダ」の手になるもの。アンダースンの『イタリアワイン』にも造り手の欄に掲載されています。ワイナリーの名はかつてこの地域の領主であったイジンバルダ卿に由来し、当時から伝わる伝統的な栽培、製造技術が現代に生かされています。また、40haの畑を所有しています。  このピノ・ネロは数回使用しているトノーで約三ヶ月熟成。鮮やかなルビー色。ベリー系の香り。綺麗な酸が特徴。濃厚なスタイルではないので、冷やして飲んでも美味しく楽しめるでしょう。  イタリアワインにはおおらかな度量の大きさを感じます。高級なキュヴェであれば、シャンブレで襟を正して飲むべきかと思いますが、今回のオルトレポーは夏の凉を得るに相応しいピノ・ネロかと思われます。いつもとは違った楽しみ方で、灼熱の夏もワインを堪能していただければ幸いです。余りお目にかからないロンバルディーアのピノ・ネロをこの機会に是非お試しあれ。 略歴関 修(せき・おさむ) 一九六一年、東京生まれ。現在、明治大学他非常勤講師。専門は現代フランス思想、文化論。(一社)リーファーワイン協会理事。著書に『美男論序説』(夏目書房)、『隣の嵐くん』(サイゾー)など、翻訳にオクサラ『フーコーをどう読むか』(新泉社)、ピュドロフスキ『ピュドロさん、美食批評家はいったい何の役に立つんですか?』(新泉社)など多数。関修FACE BOOOK関修公式HP

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第二十六回『銀座の仕立屋落語会・たま平クロークルーム』開催のお知らせ

第二十六回『銀座の仕立屋落語会・たま平クロークルーム』開催のお知らせ

 8月の銀座の仕立て屋落語会は林家たま平さんの登場です。 昨年の8月もちょうどたま平さんでした。その際の演目は「鈴ヶ森」と「舟徳」、季節柄が出るのも落語の大切な魅力の一つ。今年の夏はどんなお噺を聞かせてくれるのか、お楽しみに。   第二十四回『銀座の仕立屋落語会・たま平クロークルーム』 日時:8月18日、日曜日 12時45分開場 13時開演 終演14時30分ごろ 場所:ザ・クロークルーム 出演:林家たま平 開口一番 世話人:山本益博 会費:2,500円(税込) 申し込み、お問い合わせは info@thecloakroom.jp まで  ぴあでチケットをご購入の方はこちらから。 略歴林家たま平1994年5月29日生まれ2013年4月、実の父でもある九代目林家正蔵に入門。2017年11月より二ツ目昇進。 2019年放送のドラマ「ノーサイドゲーム」などドラマや映画などの出演多数。

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