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JOURNAL

第二十九回『銀座の仕立屋落語会・たま平クロークルーム』開催のお知らせ

第二十九回『銀座の仕立屋落語会・たま平クロークルーム』開催のお知らせ

 11月の銀座の仕立て屋落語会は林家たま平さんの登場です。8月に行われた落語会では、一般未公開の大変貴重な新作落語をお披露目いただきました。これからどんなお噺に育っていくのか楽しみです。テレビドラマの出演や映画のお仕事などでも大忙しのたま平さんですが、落語にもしっかりと向き合っていらっしゃいます。どうぞ皆さま奮ってご参加ください。 第二十九回『銀座の仕立屋落語会・たま平クロークルーム』 日時:11月10日(日曜日) 12時45分開場 13時開演 終演14時30分ごろ 場所:ザ・クロークルーム 出演:林家たま平 開口一番 世話人:山本益博 会費:2,500円(税込)現金のみ 申し込み、お問い合わせは info@thecloakroom.jp まで 略歴: 林家たま平 1994年5月29日生まれ2013年4月、実の父でもある九代目林家正蔵に入門。2017年11月より二ツ目昇進。2019年放送のドラマ「ノーサイドゲーム」などドラマや映画などの出演多数。  

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『美食通信』 第四十六回 「優雅なるモンテクリストサンドの朝食¬――横浜ホテルニューグランド――」

『美食通信』 第四十六回 「優雅なるモンテクリストサンドの朝食¬――横浜ホテルニューグランド――」

 毎年九月に亡き両親の実家のある静岡市に帰省するのですが、その途中で一泊するのを常にしております。昨年は伊豆堂ヶ島にある全六室のリゾートホテル「繭二梁」に泊まりました。今年は横浜に泊まることにしました。  高校の同級生たちと日帰り旅行で年に何度か横浜に出かけるのですが、筆者は中華街近くにある「ハイアットリージェンシー横浜」の一階ラウンジが気に入っていて、必ず寄るようにしています。みなとみらいにお住いの教授に薦められて出かけてみたのですが、天井の高い贅沢な空間はもとより、若いサーヴィスの人たちの対応が清々しく気持ちが良い。折角なので一度泊まってみたいと思い、実現に至った次第です。  その際、一つだけ悩んだことがあります。それは朝食のこと。パリですと、生ジュースにパンとカフェオレというコンチネンタルスタイルが定番です。肝心なのは、それはルームサーヴィスが当たり前ということです。毎朝、起きると電話を取り、ジュースとカフェオレなどの飲み物のチョイスをする。しばらくするとバスケットに色々な種類のパンが盛られた朝食が部屋に届きます。チップを渡して、それを貰って部屋でゆるゆると食する。別にコンチネンタルである必要もないのですが、朝食はルームサーヴィスに限ると考えます。  ところが「ハイアットリージェンシー横浜」では朝食のルームサーヴィスがない。ルームサーヴィスそのものはあるのですが、夜だけのよう。朝食の選択肢は一つしかなく、二階の「ハーバーキッチン」でのブッフェ。筆者の一番苦手とするスタイルの朝食です。まあ、一流ホテル、HPでも「横浜エリア内でトップクラスの評価を誇る」朝食ブッフェだそうで、メニュを見ても和洋折衷に場所柄、中華の要素が少々加わり、中でもパンの種類の充実ぶりが自慢のようです。ペストリーショップを併設しているだけに自信があるのでしょう。  筆者は毎朝必ず朝食は摂ります。ただ、沢山食べるわけではないので、バイキング方式は少しずつ取れば良いので、まだ分量的には調整できる方ですがやはり費用対効果が悪い。「ハーバーキッチン」の朝食は税込み3800円ですので、とてもとても3800円分も朝から食べられません。それなら、同額のルームサーヴィスの定食にしていただいた方が、食べたいだけ食べて後は残せばよいだけで。  あと、やはりバイキング形式はサラマンダーに乗せられた料理が乾いてパサつくなど、美味しくない。あと、マナーの悪い客の傍若無人ぶりなど辟易する場面に遭遇したことがあり、ブッフェは出来る限り避けたいと思っています。  ですので、朝食をどうしようか、最後まで迷っていたのですが、朗報が。  朝、寝るのが6時、7時という筆者は日曜日の早朝6時から放送される「バナナマンの早起きせっかくグルメ!!」(TBS)という番組をついつい見てしまいます。早く寝れば良いのに。朝食を美味しく食べるため、食欲を掻き立ててくれる番組だそうで、様々なグルメが紹介されます。そんな中、「モンテクリストサンド」という料理が取り上げられたのです。MCのご両人も大絶賛されていたその食べ物を筆者は初めて知りました。  見たところ、「クロックムッシュ」と「フレンチトースト」が合体したようなパン料理。「クロックムッシュ」はパンの間にハムとチーズを挟んだもので、正式にはそこにベシャメルソースなどを塗って焼き目を付けるのですが、ソースを省略し、ホットサンドメーカーで作っても美味しい。ちなみにその上に目玉焼きを乗せると「クロックマダム」になります。  そうすると卵液に漬けたトーストを焼く「フレンチトースト」の真ん中にハムとチーズが挟まれている「モンテクリストサンド」は「クロックマダム」のバリエーションと考えることができます。  で、バナナマンのご両人が試食して絶賛されていた「モンテクリストサンド」は横浜の老舗ホテル「ニューグランド」のものでした。「ニューグランド」と言えば、戦後の日本のフレンチに影響を与えた名シェフ、サリー・ワイルが料理長を務め、駐留していた進駐軍人のために創作した「ナポリタン」や「ドリア」は有名。旧館にはマッカーサーが使っていた部屋が「マッカーサースイート」として宿泊可能。  筆者は二十年ほど前、隣の新館のスイートに泊まったことがあります。「モンテクリストサンド」を供してくれるのはその新館五階のフレンチ「ル・ノルマンディー」です。  そこで、今回の朝食は散歩がてらニューグランドに出かけ、「モンテクリストサンド」を食することにしました。ハイアットリージェンシーからは十分ほどで着く距離で、改めて立地の良さを感じました。前日ディナーした筆者お気に入りの「スカンディヤ」からは数分ですし、ちょっと目立たない感じがまたハイアットリージェンシーの良さでもあります。  さて、会場に着くと二十年前の朝食も「ル・ノルマンディー」だったような気がしてきました。入り口で「朝食券は」と聞かれ、「いいえ」と答えると広いダイニングをどんどん奥に誘導されて行きました。その間も結構な数の宿泊客と思われる人々が朝食中で賑わっているなあ、と。ハイアットリージェンシーは思ったより人気がなく、チェックアウト時も誰とも一緒になりませんでした。  結局、一番奥の窓際、港が一望できる席に通されました。ロケーション的には最高の席で、偶然空いていただけかもしれませんが、そうだとすればラッキーでした。とにかく広いダイニングですので、景色が楽しめるのは限られた窓際だけ。しかも、港に向いているのはさらに限られた席だけですので。  メニュは三種類。洋定食とモンテクリストサンド、さらにコンチネンタル。モンテクリストサンドはフレッシュジュースと珈琲・紅茶を選ぶだけとコンチネンタルとチョイスは同じ。野菜サラダが先に出て、モンテクリストサンドとココット型に入ったヨーグルト、あとちょっとしたフルーツが一皿に盛られて登場します。ワンプレートの朝食。それで4200円。ハイアットリージェンシーのブッフェより高い。さすが老舗だけある。  そのサンドは思ったより小ぶりながら、食するとなかなか濃厚でちょうど良いポーションかも。周囲を見るとテレビで紹介されたからか、結構多くの方がモンテクリストサンドを選ばれていました。フレンチトーストは抑え気味とはいえ甘い。しかも、ハムではなくカリカリベーコンだったので塩味がしっかりしていて、甘じょっぱいというのは日本人にはお馴染みの味なのかもしれません。筆者としてはおおいに期待していましたが、それほど感動しませんでした。不味くはないが、大変な美味というほどではないか、と。  結論としましては、次回、横浜での朝食はハイアットリージェンシーでのブッフェで充分か、と。 今月のお薦めワイン 「コート・ド・ボーヌの『秘められたる宝石』――ACサン=トーバンの赤ワインを楽しむ――」 「サン=トーバン プルミエクリュ『ピタンジュレ』ルージュ 2018年 ACサン=トーバンプルミエクリュ ドメーヌ・オ・ピエ・デュ・モンショーヴ」 10000円(税抜)    今回はブルゴーニュ。前の二回はコート・ド・ニュイのワインを取り上げさせていただきました。最後にコート・ドールのもう一方の雄、コート・ド・ボーヌの赤ワインを紹介させていただこうと思います。  コート・ド・ボーヌはやはりモンラッシェやムルソー、コルトン・シャルルマーニュといったブルゴーニュ珠玉の白ワイン産地として名声を博しています。  が、赤ワインもグランクリュに「コルトン」、赤ワインだけを産するアペラシオンとして「ヴォルネ」や「ポマール」といった銘酒を産しています。筆者は有名ネゴシアンの集まる「ボーヌ」の赤ワインがニュートラルで安定感があり、先の三アペラシオンと共にまずは選択肢となるかと思われます。  しかし、今回はサトクリフが「ブルゴーニュの秘められたる宝石の一つ」と評している(『ブルゴーニュワイン』)アペラシオン「サン=トーバン」のワインを紹介させていただこうと思います。サトクリフはどの生産者も良心的でワインが一律に良質であると書いています。白の方が多く造られていますが、赤も優れたワインが造られています。  今回選んだワインの造り手はドメーヌ・オ・ピエ・デュ・モンショーヴ。2010年がファーストヴィンテージというシャサーニュ=モンラッシェ村に拠点を置く、新進気鋭のドメーヌ。同村にあるブルゴーニュでも大手のネゴシアン「メゾン・ピカール」のミシェル・ピカールの令嬢フランシーヌ・ピカール氏が独立して設立しました。2013年より完全にビオディナミを採用。  この赤ワインの畑はプルミエクリュの「ピタンジュレ」。村の南、シャサーニュ=モンラッシェ村に接した場所にあります。100%除梗し、新樽率30%で15ヶ月熟成。その後、ステンレスタンクに移し、2ヶ月休ませ、軽くフィルターにかけ瓶詰め。  プルミエクリュは最大で1800本と「ひたすらその品質のみを追い求めている」ドメーヌのエレガントで格調高い逸品をこの機会に是非。 略歴関 修(せき・おさむ) 一九六一年、東京生まれ。現在、明治大学他非常勤講師。専門は現代フランス思想、文化論。(一社)リーファーワイン協会理事。著書に『美男論序説』(夏目書房)、『隣の嵐くん』(サイゾー)など、翻訳にオクサラ『フーコーをどう読むか』(新泉社)、ピュドロフスキ『ピュドロさん、美食批評家はいったい何の役に立つんですか?』(新泉社)など多数。関修FACE...

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第二十八回『銀座の仕立屋落語会・与いちクロークルーム萬年堂本店』開催のお知らせ

第二十八回『銀座の仕立屋落語会・与いちクロークルーム萬年堂本店』開催のお知らせ

 10月の「銀座の仕立て屋落語会」、第二十八回は、春風亭与いちさんの出演です。今回は、初めての試みとして銀座の萬年堂本店で開催。秋の夜長に萬年堂さんの美味しいお菓子と楽しい落語をご堪能ください。 第二十八回『銀座の仕立屋落語会・与いちクロークルーム萬年堂本店』 日時:10月23日(水曜日) 18時45分開場 19時開演 終演20時30分ごろ 場所:銀座萬年堂本店 中央区銀座 7-13-21   萬年堂本店ホームページはこちら 出演:春風亭与いち 会費:4,000円(税込)萬年堂本店の美味しいお菓子とお茶付き 申し込み、お問い合わせは info@thecloakroom.jp まで 略歴 春風亭与いち1998年4月5日生まれ2017年3月、春風亭一之輔に入門。翌年1月21日より前座となる。前座名『与いち』。2021年3月1日より二ツ目昇進。

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『美食通信』 第四十五回 「パリそぞろ歩き¬――「キャレ」の思い出――」

『美食通信』 第四十五回 「パリそぞろ歩き¬――「キャレ」の思い出――」

 今年の夏はパリで行われたオリンピックに世界中が沸きました。開会式からして、史上初の屋外での開催。パリの街を最大限に生かし、選手たちはセーヌ河を船に乗って登場し、セレモニーはイエナ橋を挟んでエッフェル搭がすぐ目の前のトロカデロ広場で行われ、そのスペクタルに圧倒されたのでした。  多くの競技は室内で行われたもののマラソンや競歩をはじめ、屋外で行われた競技もありました。すると名所旧跡の多いパリの街が垣間見れます。ただ、薄汚れたセーヌ河を泳ぐ競技だけでは実施するのも映すのも勘弁してほしいと思ったものです。確かに水質浄化に努めたのでしょうが、おぞましいものを覚えました。パリの街は道が石畳で、ペットの糞はしっ放し。毎朝早く、放水車が街をめぐって、糞を側溝に流し込むのです。まあ、下水は完備されているとのことでしたが、雨が降ると処理しきれなくてセーヌ河に流れ込むとか何とか。それって本当に下水なのか怪しいようにも思いますが、いずれにせよ、水質汚染は解消されないでしょうから。  筆者がパリを最初に訪れたのはちょうど三十年前の1994年のことでした。夏の終わりだったように記憶しております。まだ、貨幣はフランで、ネットも何もない時代で、予備知識といったら『地球の歩き方』を読むくらいしかなく、若さというか無知というかそんな程度で単身パリに乗り込んだのでした。とりあえず、オペラガルニエ近くの三つ星ホテル(ホテルは五つ星が満点)に落ち着いたのですが、今回の選手村同様、冷房がない。しかも、古い建物は壁が薄く、隣の宿泊客のいびきが聞こえてくるではありませんか。恐ろしくなって、早速翌日、スクリーブ通りにあったJTBに出かけ、空調の完備されたレジダンスを探してもらいました。  すぐに見つかったのですが、それがまたシャンゼリゼ通りの一筋裏のポンチュー通りで場所は良いのですが、歓楽街なので夜中も外がうるさく、ネオンの光がカーテンの隙間から差し込んでなんだか安眠できませんでした。ですので、次の年からは左岸のサン=ジェルマン=デ=プレ教会の裏手のジャコブ通りの「ラ・ヴィラ」というデザイナーズホテルに泊まることにしました。パリは思ったより小さな都市で中心に近くに泊まれば、主要な場所へは歩いて行けるのです。地下鉄は不潔でスリなどに狙われやすく、乗る気になりませんでした。外縁に近い二十区のペール=ラシェーズ墓地などに行くにはタクシーを使いました。  ですので、とにかく歩く歩く。そして、疲れたり、喉が渇くと目に入ったカフェに入って一休みするのです。というのも、パリにはコンビニはもとより飲み物の自動販売機などなかったのですから。それは今も大差ないのではないでしょうか。カフェというとシャンゼリゼの「フーケ」とか、サン=ジェルマンの「ドゥマゴ」や「フロール」などが有名ですがそれらはいわば「観光カフェ」で、別に日常使いする無名のカフェが街のそこここに点在しているのです。  その際、ほとんどの人が頼むのが「カフェ」でそれはエスプレッソを指します。お酒で喉を潤したい方は「ドゥミ」と呼ばれるグラスビールを頼むでしょう。炭酸飲料は日本でも売られている「オランジーナ」、ジュースは「ジョケル」が有名ですが、大人の飲み物という感じがしません。  「アンカフェ、シルヴプレ」とギャルソンに頼むとシングルのエスプレッソコーヒーとチェイサーの水、そして「キャレ」と呼ばれる正方形の一口サイズの板チョコが一枚付いて出てまいります。ちなみに「キャレ」とは正方形という意味です。  この「キャレ」は必須で、「ドゥマゴ」のような有名店では店の印や名前の入った特注の紙で包まれたものが出されますが、普通のカフェでは市販の「キャレ」が出てきます。これがまた、結構色々な会社が作っているようで、微妙に味が違っていて、食べてみて楽しい。本来は、たまたま入ったカフェのエスプレッソの味を評価すべきなのでしょうが、キャレが美味しいと何か嬉しい気持ち、得した気持ちになるものです。  そのような「キャレ」にも定番はあるもので、それは「ヴァローナ」社製のものです。例えば、再開発で閉店してしまいましたが「渋谷文化村」にあった「カフェ・ドゥマゴ」の支店でも珈琲を頼むと店の名前の入った「キャレ」が付いてきましたが、ヴァローナ社のものでした。  また、パリのレストランガイド『ルベ』には食後の珈琲(即ちエスプレッソ)を評価する項があったのですが、味の評価(カップマーク)の他にグランメゾンにとなるとプティフールやトリュフチョコレートなどが一緒に出されると書かれているのですが、日常使いの店ですとやはり「キャレ」と書かれており、中には「ヴァローナ」、「レオニダス」といった銘柄が記載されているケースもあります。  「キャレ」というのは「カフェ」のお供だけではなく、意外な日常使いをされることもありました。それはチップへのお返しです。ご存知のように、パリはチップ社会で、例えば、カフェのギャルソンは店内で自分のテリトリーが決まっており、そのテリトリーの客のチップがギャルソンの収入になるのです。ですので、自分が座った際、席の近くを通りかかったギャルソンに声をかけても無視されることがあります。それは当該のギャルソンがその席の担当ではないからです。逆に席に着いたら、担当のギャルソンが来るのを待つ必要があるということになります。そして、たとえエスプレッソ一杯でもなにがしかのチップを払うことがマナーです。  これは何処でも当てはまります。グランメゾンでも会計の時、合計金額の他にチップを払う必要がありました。筆者は請求金額をカードで払い、チップは現金で支払っていました。満足度が大きければ、多めに。サーヴィスが横柄だったり、料理がイマイチだったら少なめにと調整する。これがなかなか難しい。  また、パリの公衆トイレは個室でお金を入れると開くというスタイルだったのですが、故障している場合が多く、トイレを済ますのにカフェに入るケースも多々ありました。すると飲み物を注文しても、トイレの前に賽銭箱のようなチップ入れが置いてある店もありました。つまり、何にもチップが必要なのです。ですので、小銭(モネ)を常に持ち歩く必要がありました。  ホテルでも、荷物を持って運んでくれたらチップ。ルームサーヴィスを頼んでもチップ。そして、ベッドメーキングの際にもチップをベッドのサイドテーブルに毎日置く必要がありました。もちろん、少額で良いのですが。すると時折、部屋に戻るとチップを置いた場所に「キャレ」が置かれていることがあったのです。チップへのお礼として、ささやかなお返しとしての「キャレ」。  何と粋なことでしょう。「キャレ」は単なる「カフェ」のおまけではない。そこには「心遣い」という意味も込められていることが、意外な「キャレ」の使い方から垣間見れた何気なくも貴重な体験でした。 今月のお薦めワイン 「グラーヴの赤もお忘れなく――選ぶならACペサック=レオニャンがお薦め――」 「シャトー・ラリヴェ=オー=ブリオン 2019年 AC ペサック=レオニャン」 7700円(税抜)   今回はボルドーワインの回です。  ボルドーワインと言えば、ここ二回紹介させていただいたカベルネ・ソーヴィニョン主体のメドックのワイン(左岸)とメルロ主体のリブールヌのワイン(右岸)という対が有名ですが、忘れてならないのがグラーヴのワインです。  グラーヴは位置的にはメドックの南、ガロンヌ河上流に位置します。ボルドー市のある場所でもあります。グラーヴと言えば、ボルドーの白ワインの名産地。辛口だけではなく、ソーテルヌやバルサックといった甘口貴腐ワインも生まれます。  また、メドック格付け五大シャトーの一つ、シャトー・オー=ブリオンは例外的にグラーヴのペサック村にあるシャトーです。つまり、メドックスタイルの赤ワインにも優れたシャトーが多いということです。  この優れた赤ワインを産する地域はグラーヴの中でも北部、メドックに近いボルドー市周辺に集中しています。そこで、1953年、グラーヴはオー=ブリオンを筆頭とする赤ワインの格付けを行ない、1959年には辛口白ワインも格付けするに至りました。さらに、1986年ヴィンテージからこれら格付けワインを産する北部を示すアペラシオンACペサック=レオニャンを導入し、南部のみがACグラーヴを名乗ることになりました。  ですので、グラーヴの赤ワインをご所望の際はACペサック=レオニャンのシャトーを探されるとよいでしょう。  今回、紹介させていただくシャトー・ラリヴェ=オー=ブリオンはレオニャン村の中心地区にある有名な古いシャトーで、元はオー=ブリオン=ラリヴェという名だったのですが、オー=ブリオンから訴えられ、現在の名に。優れた赤ワインのみを産する格付けシャトー、シャトー・オー=バイイに隣接し、赤・白両方を造っていますがやはり赤ワインに見るものがあるとの評価が。  「見事な色と、スパイシーで繊細なブーケを持つ、実に古典的なグラーヴで、赤は他の格付けシャトーの一部と肩を並べ得る、いや、それ以上のワインと言えよう」とペパーコーンも『ボルドーワイン』(早川書房)で評しています。  格付けされていないだけに値段も抑えられています。この機会に、是非一度お試しあれ。 略歴関 修(せき・おさむ) 一九六一年、東京生まれ。現在、明治大学他非常勤講師。専門は現代フランス思想、文化論。(一社)リーファーワイン協会理事。著書に『美男論序説』(夏目書房)、『隣の嵐くん』(サイゾー)など、翻訳にオクサラ『フーコーをどう読むか』(新泉社)、ピュドロフスキ『ピュドロさん、美食批評家はいったい何の役に立つんですか?』(新泉社)など多数。関修FACE BOOOK関修公式HP...

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第二十七回『銀座の仕立屋落語会・黒酒クロークルーム』開催のお知らせ

第二十七回『銀座の仕立屋落語会・黒酒クロークルーム』開催のお知らせ

 9月の落語会では遂に「銀座の仕立て屋落語会」の新メンバーが加わります。その名は『桃月庵 黒酒』さん。2022年11月に二ツ目に昇進されたばかり、師匠は桃月庵白酒さんです。  遂に現れた4人目の男、どんなお噺を聞かせてくれるのか楽しにみにお待ちください。 第二十七回『銀座の仕立屋落語会・黒酒クロークルーム』 日時:9月29日、日曜日 12時45分開場 13時開演 終演14時30分ごろ 場所:ザ・クロークルーム 出演: 桃月庵 黒酒 開口一番 世話人:山本益博 会費:2,500円(税込) 申し込み、お問い合わせは info@thecloakroom.jp まで  ぴあでチケットをご購入の方はこちらから。 略歴 桃月庵 黒酒1987年4月13日生まれ 2017(平成29)年8月桃月庵白酒に入門2019(平成31)年1月21日前座となる 前座名「あられ」2022(令和4)年11月1日二ツ目昇進 「黒酒」と改名

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『美食通信』 第四十四回 「サヴァランそれともババ・オ・ロム?¬――お菓子かデセールか――」

『美食通信』 第四十四回 「サヴァランそれともババ・オ・ロム?¬――お菓子かデセールか――」

 高校の同級生とこの時期必ず、横浜の海岸通りにある「スカンディヤ」でランチすることになっているのですが、今回、参加者の一人が食後、常磐町の「馬車道十番館」で「サヴァラン」が食べたいというので出かけることに。「サヴァラン」とは渋い選択だなあ、と。  今から半世紀以上前、筆者が子供だった頃、街のケーキ屋さんのショーケースに並んでいたのは「シュークリーム」に「エクレア」、「ショートケーキ」。そして、栗きんとんを用いた「モンブラン」に、「モンブラン」と形こそ似ているものの生地が全然違っていた「サヴァラン」辺りが定番だったと思います。「モンブラン」も「サヴァラン」も形はブリオッシュ型で、「モンブラン」は普通のスポンジ、「サヴァラン」はまさにブリオッシュ生地。「モンブラン」はスポンジの土台の上にシャンティークリームを絞り、さらにその上に栗きんとん風の栗のペーストを絞り、缶詰の栗を一つ乗せたもの。 「サヴァラン」はブリオッシュのへそを取って、そこにシャンティークリームを絞り、へそを蓋代わりにのせたもの。ブリオッシュ生地にアルコールを飛ばしたラム酒のシロップをこれでもかと滲み込ませ、フォークを入れるとジワッとシロップが垂れてくるくらいが良い。  子供にはお酒の風味がするのと、クリームが余り使われていないので大人の食べるケーキと思い、なかなかチョイスすることはなかったように思いますが、筆者のようなパサつくものが苦手な者にはしっとりしていて、ジューシーで食べやすい。それだけにラム酒シロップをケチったパサつきのある「サヴァラン」は絶対に許せないと思ったのでした。  「サヴァラン」は「干しブドウを入れないババにシロップとラム酒を滲み込ませ、クレーム・シャンティーまたはフルーツを挟んだケーキ。1845年、当時の有名なパティシエ、ジュリアン兄弟が考案し、美食家ブリヤ=サヴァランの名を冠した」(『フランス 食の事典』、白水社)とあります。サヴァランは1826年に亡くなっていますので、ケーキはそのオマージュだったのでしょう。また、日本で最初に「サヴァラン」が作られたのは横浜という説があり、横浜の歴史を感じさせる建物が印象的な「馬車道十番館」の名物が「サヴァラン」というのもそうした経緯があるのではないでしょうか。  さて、上記の定義にも「ババにシロップとラム酒を滲み込ませ」とありますように、それをそのままフランス語にしますと「ババ・オ・ロム」となり、レストランのデセールで結構見かける一品となります。「ババ」はポーランド由来のようで、「クグロフ」がパサパサしているので、ラム酒あるいはキルシュを滲み込ませたとあります。  こちらは1836年頃、パティシエ、ストレールがパリのモントルグイユ通りに店を開き、ババを紹介したとあります(同上)。  解説を読んでいるとどちらにもシャンティークリームが登場したりと余り違いがないような気がします。レストランで出てくる「ババ・オ・ロム」はデセールの一皿ですので、シャンティークリームをババに添えるといった感じが多いかと思います。  さて、「馬車道十番館」の「サヴァラン」は珍しい形をしていました。「小さなコッペパン」のような形とか、筆者は小判型と認識しました。確かに、コッペパンですと真ん中に切れ目を入れてシャンティークリームを挟んだといった感じになります。ユニークだったのは形だけではなく、干しブドウが三粒ほど上面に印代わりに練り込まれていたことです。また、筆者が「小判」と申し上げたように極めて小ぶりの菓子で、筆者が子供の頃食べた食べ応えのある重量感のある「サヴァラン」とは印象が異なっていました。もちろん、ラム酒風味のシロップがふんだんに使われていて、美味しくいただけました。  そう言えば、ブリオッシュ型の「サヴァラン」は時間と共にシロップが下にさがってしまい、食べ始めの上の部分は結構パサパサで、下の方に来ると逆にシロップがビショビショで厚いホイルの包み紙にシロップが溜まってしまうのが常なのを思い出しました。それに比べるとこの「小判」型ですとシロップの滲み具合が均等に近い感じがしました。食べた時に常にジューシーで美味しい。なるほど、と思った次第です。ただ、やはり少々小さすぎて物足りない。やはり、「サヴァラン」はある程度ヴォリューミーでないと。  その点、筆者の記憶にある最上の「サヴァラン」は帝国ホテルのデリカテッセン「ガルガンチュワ」のものでした。フランス・ルネッサンス期を代表する作家ラブレーの『ガルガンチュア物語』もまた美食に関するエピソードに富み、美食文学の代表作の一つと言われています。そんな作品の名前を冠したホテルの売店にはパンやスイーツ、惣菜も売っています。何といっても「ビーフパイ」、帝国ホテルでは「シャリアピンパイ」が有名ですが、筆者は「サヴァラン」に感動した記憶があります。子供の頃食べた「サヴァラン」を極めたようなけれんみのないストレートな完成度の高さ。  ちなみに、シャリアピンステーキが帝国ホテル発祥であることはご存知か、と。1936年に宿泊したロシアのバス歌手シャリアピンが歯を悪くしていたため、牛肉をよく叩いたあと、すりおろした玉葱につけてマリネし、やわらかいステーキに仕上げたもの。玉葱のソースがかかっています。筆者は神戸に住んでいた小学校高学年の頃、社宅近くのレストランのシャリアピンステーキが大好物で、来客があり外食となると、件のレストランにならないかと願ったものです。  いつの間にか、家でケーキを食べるにも「サヴァラン」を買うことがなくなってしまったように思われます。そんな中、フレンチで「ババ・オ・ロム」があると頼みたくなってしまう自分がいるのに気づきます。だいたい、デセールの「ババ・オ・ロム」はまさにラム酒の効いたアルコール感たっぷりのデセール。  シャンティークリームがたっぷり添えられた、ラム酒でむせるような「ババ・オ・ロム」も悪くないのですが、ここは玉子たっぷりのブリオッシュ生地で作られた繊細な「ババ・オ・ロム」が食してみたいなあ、と。ラム酒も余り効かせすぎずに。  子供の頃、街のケーキ屋さんに並んでいた「サヴァラン」。あの、脇役で、でもなんとなく存在感のある、それでいて何処かチープな感じもする……。そんな実は複雑な相貌の「サヴァラン」は今、何処に。 今月のお薦めワイン 「夏はロンバルディーアのピノ・ネロはいかが?――少し冷やして涼やかに赤ワインを楽しむ――」 「ピノ・ネロ 〈ヴィーニャ・ディ・ジガンディ〉 2019年 DOC オルトレポー・パヴェーゼ イジンバルダ」4532円(税込)   今回はイタリアワインの回。夏はやっぱり泡。だったら、シャンパーニュと同じ品種を用いて、シャンパーニュ方式で造られるまさにイタリアのシャンパーニュ、ロンバルディーア州の「フランチャコルタ」にすれば良い。しかし、それではあまりに芸がない というか、当たり前過ぎます。  自分は赤ワインの人だから、だったらピノ・ノワール(イタリアではピノ・ネロ)を冷やして飲みたい。「フランチャコルタ」にはシャンパーニュと同じ品種が用いられています。ということは、シャルドネ、そして、ピノ・ネロ、そして、ここがフランスとは異なるのですが、フランスは赤葡萄のピノ・ムニエなのですが、フランチャコルタはピノ・ビアンコ(フランスではピノ・ブラン)を使って造られています。いずれにせよ、ロンバルディーアではピノ・ネロが造られているということは当然、ピノ・ネロのスティルワインも造られているのです。  今回ご紹介するロンバルディーアのピノ・ネロはこの州のワインを半分以上生産している南西部に位置するDOCオルトレポー・パヴェーゼの代表的造り手「イジンバルダ」の手になるもの。アンダースンの『イタリアワイン』にも造り手の欄に掲載されています。ワイナリーの名はかつてこの地域の領主であったイジンバルダ卿に由来し、当時から伝わる伝統的な栽培、製造技術が現代に生かされています。また、40haの畑を所有しています。  このピノ・ネロは数回使用しているトノーで約三ヶ月熟成。鮮やかなルビー色。ベリー系の香り。綺麗な酸が特徴。濃厚なスタイルではないので、冷やして飲んでも美味しく楽しめるでしょう。  イタリアワインにはおおらかな度量の大きさを感じます。高級なキュヴェであれば、シャンブレで襟を正して飲むべきかと思いますが、今回のオルトレポーは夏の凉を得るに相応しいピノ・ネロかと思われます。いつもとは違った楽しみ方で、灼熱の夏もワインを堪能していただければ幸いです。余りお目にかからないロンバルディーアのピノ・ネロをこの機会に是非お試しあれ。 略歴関 修(せき・おさむ) 一九六一年、東京生まれ。現在、明治大学他非常勤講師。専門は現代フランス思想、文化論。(一社)リーファーワイン協会理事。著書に『美男論序説』(夏目書房)、『隣の嵐くん』(サイゾー)など、翻訳にオクサラ『フーコーをどう読むか』(新泉社)、ピュドロフスキ『ピュドロさん、美食批評家はいったい何の役に立つんですか?』(新泉社)など多数。関修FACE BOOOK関修公式HP

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第二十六回『銀座の仕立屋落語会・たま平クロークルーム』開催のお知らせ

第二十六回『銀座の仕立屋落語会・たま平クロークルーム』開催のお知らせ

 8月の銀座の仕立て屋落語会は林家たま平さんの登場です。 昨年の8月もちょうどたま平さんでした。その際の演目は「鈴ヶ森」と「舟徳」、季節柄が出るのも落語の大切な魅力の一つ。今年の夏はどんなお噺を聞かせてくれるのか、お楽しみに。   第二十四回『銀座の仕立屋落語会・たま平クロークルーム』 日時:8月18日、日曜日 12時45分開場 13時開演 終演14時30分ごろ 場所:ザ・クロークルーム 出演:林家たま平 開口一番 世話人:山本益博 会費:2,500円(税込) 申し込み、お問い合わせは info@thecloakroom.jp まで  ぴあでチケットをご購入の方はこちらから。 略歴林家たま平1994年5月29日生まれ2013年4月、実の父でもある九代目林家正蔵に入門。2017年11月より二ツ目昇進。 2019年放送のドラマ「ノーサイドゲーム」などドラマや映画などの出演多数。

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『美食通信』 第四十三回 「サンドウィッチ考――パンの焼き加減をどう考えるか――」

『美食通信』 第四十三回 「サンドウィッチ考――パンの焼き加減をどう考えるか――」

 ホテルのラウンジなどちょっと高級な喫茶店やカフェで人に会う時、「何か召し上がりませんか」と聞かれる時があります。明らかにおやつの時間ならスイーツということになりましょうが、そういった物言いの場合、いわゆる軽食が想定されているのが通例で、そうなると頼みやすいのが「サンドウィッチ」ということになります。  先日、定年になられた先生とお目にかかる機会がありました。小石川にお住まいで、ご自宅の近くでお目にかかる約束をしたところ、後楽園の「はまの屋パーラー」を指定されました。一九六六年創業の有楽町で有名な老舗純喫茶「はまの屋」が二〇一一年、オーナー夫妻の引退を機に閉店。その味を継承すべく「はまの屋パーラー」が誕生し、新有楽町ビルに移転し営業を続けるもビルの閉館で日本橋にさらに移転。その支店は帝国ホテルにも入っていたとのことですがこちらもそのビルが閉館で閉店。宝塚歌劇団のファンでいらっしゃる先生はそちらの「はまの屋パーラー」によく行かれたそうですが、ご自宅の近くにも最近開店されたことを知られ、よく使われるのだそう。  駅ビルの上の飲食街の一角といった場所にその店はあり、確かにこじんまりした感じ。「帝国ホテルのお店は広かったのに」とおっしゃり、「ここの名物はサンドウィッチなの」と。確かに軽食のメニュはサンドウィッチが主で、あとはナポリタンとドリアくらい。サンドウィッチは具の名がついた六種類に「スペシャルサンドウィッチ」の七種がメニュに。得体の知れない「スペシャル」にしようと思いましたが、先生が「ここのサンドウィッチは具を二種類選べるハーフ&ハーフがあるの」。「しかも、普通はパンの耳を落として出すのだけど、そのまま出してくれるよう注文することも出来る」。「で、ここが肝心なんだけれど、パンは焼いてもくれます」。「トーストした方をお薦めします」。「フィンガーフードのように食べやすいの」と矢継ぎ早に説明して下さる。「玉子」が最初に書かれていますし、これは先生の口ぶりでも外してはいけなそうだったので、ここはハーフ&ハーフのもう一方を決めれば良いのだろうと思案していると、先生が「私はツナって決めています」っておっしゃるので、では「玉子&ツナ」でとしっかり忖度した注文に。先に来られていたもう一人の現役教授も「私も同じです」と、結局三人同じ註文になってしまいました。  出てきたサンドウィッチは確かに小ぶりで一口で食べられそうな小粋なものでした。卵はマヨネーズであえたフィリングではなく、玉子焼きで薄いレタスが一枚挟まれていました。それもプレスしたせいか水分が飛んでいて紙のよう。ツナの方もマヨネーズは極力少な目でツナツナしい感じ。おそらく両方とも食べた時には具がはみ出て、形が崩れないよう配慮されているのではないかと察せられました。この店の名物はやはりこの玉子焼きが挟んであるサンドウィッチとのことで、まずは玉子からいただくことにしました。  ところがです。これが意外に食べにくいものであることが判明しました。それはパンが表面をトーストしただけなく、レタス同様紙状にプレスされていたからです。確かにパンが紙のように薄いので簡単にサンドウィッチが口に入ります。ところがさすがに全部を一口で食べようと思うと口の中が一杯になりそうなので半分くらいに噛み切ろうとするとパンがスルメのように固く、なかなか噛み切れません。なんとか噛み切って咀嚼しようとするとパンが抵抗して口中にへばりつくのです。何度かむせそうになってしまい、正直吐き気を催しました。筆者はおそらく嚥下力に問題があるのか、元々口の中がパサパサするものが苦手で穀類を食するのが苦痛でもあり、バケットを食するならベッタリバターを塗らないと食べたくないといった風です。ツナの方もマヨネーズが少ないので形は崩れないものの口の中でツナもパサパサ。もう、美味しいとか美味しくないとかの問題ではなく、食べるのが苦痛で仕方ありません。  しかし、ここではたと気づいたのです。トーストされたパンを使ったサンドウィッチで筆者の好物だったサンドウィッチがあったことを。それは惜しまれながらも休業となってしまった山の上ホテルの「コーヒーパーラーヒルトップ」のアメリカンクラブハウスサンドウィッチです。これは育児雑誌の連載をしていた頃、担当の編集プロダクションも神保町にあり、ホテルが筆者の勤めている大学のすぐお隣ということもあり、取材を山の上ホテルのパーラーで行なっていた際、いつも注文していたメニュだったのです。まあ、自腹ではなく、先方に軽食も是非と勧められて註文したところ、これがなかなかの美味で、取材の際は必ずクラブハウスを頼むことに。おかげさまで通常一年のところ、好評で三年は続きましたので結構な回数いただきました。  思えば、あのクラブハウスもパンはトーストしてあったのですが紙状にプレスしてはいなかったので噛み切れないということはありませんでした。もちろん、クラブハウスの場合、チキンにベーコン、それにフレッシュな野菜が挟んでありますので、口に入りきれず、食べにくいことといったらありませんがそれがまた「いとおかし」といった風情で。また、トマトの薄切りとか挟まっていたと思いますので、水分が適度にパンに滲み込み、口の中でパサつくことは皆無。ふやけたパンの感触が許せないという方がいらしても筆者としては「ごもっとも」と思いつつ、やはり食していて吐き気を催してしまってはすべてが台無しで、筆者にとって「食べやすさ」とは大きさのことではなく、「飲みこみやすさ」に他ならないと確信した次第。  ゆえに結論としましては、次回「はまの屋パーラー」に出かける機会があれば、きっとまたサンドウィッチになるでしょうから、具は「玉子とツナ」でよいとして、パンをトーストせず、そのままの状態を選択することにすれば問題ないか、と。もちろん、パンの耳は切り落としていただかないと。  筆者が出会った絶品サンドウィッチの話をさせていただきたかったのですが。紙面が尽きてしまいました。それはまたの機会に。   今月のお薦めワイン 「ニュイ=サン=ジョルジュはコート・ド・ニュイの救世主か?――ピノ・ノワールの真髄を楽しむ――」 「ニュイ=サン=ジョルジュ オー=ザロ 2018年 ACニュイ=サン=ジョルジュ ドメーヌ・ベルトラン・エ・アクセル・マルシャン・ド・グラモン」11000円(税別)  ワインの価格高騰はワイン愛好家にとっては頭の痛い話。とりわけ、ブルゴーニュの価格は最新のヴィンテージが数年前の1.5倍といよいよ手が出ないように思われます。  ブルゴーニュと言えば、やはりコート・ドール。中でも赤ワインメインの北側、コート・ド・ニュイのワインがやはり飲みたいと思うのが人の常。でも、もはや村名ワインでも一万円では買えない状況になってしまいそうな勢いです。  では、最北のマルサネやそのすぐ下のフィサンであれば何とか買えそうですが、こちらもマルサネのパタイユ兄弟など素晴らしいが値段も立派なワインが目立ってきました。また、それだけ出すならやはり似たタイプのワインのジュヴレ=シャンベルタンの良心的な造り手を探した方が良いかもしれません。  となると唯一の可能性を感じるアペラシオンは一番南にあたるニュイ=サン=ジョルジュになるでしょう。コート・ド・ニュイの「ニュイ」はニュイ=サン=ジョルジュのニュイであるわけで、広さからしてもジュヴレ=シャンベルタンやヴォーヌ=ロマネに並ぶこの地区の代表的なワインになります。  ところが、ニュイ=サン=ジョルジュにはグランクリュの畑がありません。それは制定の際、当時の造り手たちが畑に差別感が増すことを嫌い、あえてグランクリュの制定を断ったという経緯があります。従って、プルミエクリュの畑の中にグランクリュに相当するものがあり、その代表格が「レ・サン=ジョルジュ」と「レ・ヴォークラン」になります。また、2007年以降、上記の二つの畑をグランクリュにするよう申請を行なっており、いよいよニュイ=サン=ジョルジュにもグランクリュが誕生するかもしれません。  という訳で、今のところ、ニュイ=サン=ジョルジュのワインは他のニュイの代表的なアペラシオンに比べ、価格が抑えられています。そこで今回ご紹介するのはヴォーヌ・ロマネに隣接する「オー=ザロ」という畑の2018年ヴィンテージ。造り手はドメーヌ・ベルトラン・エ・アクセル・マルシャン・ド・グラモン。ニュイ=サン=ジョルジュを拠点し広大な畑を所有していたシャンタル・レスキュールが相続で三分割されたドメーヌの一つ。1986年、ベルトラン氏が設立。娘のアクセル氏が2004年に継承し、ビオディナミを実践。この「オー=ザロ」は平均樹齢50年。100%除梗。新樽率20%と2〜3年樽で18ヶ月熟成。綺麗な酸が特徴的なニュイ=サン=ジョルジュにヴォーヌ=ロマネの複雑な豊かさが加わった秀逸なワイン。2020年ヴィンテージは13000円になっていますので、この2018年ヴィンテージはまさにお買い得。この機会に是非お試しあれ。 略歴関 修(せき・おさむ) 一九六一年、東京生まれ。現在、明治大学他非常勤講師。専門は現代フランス思想、文化論。(一社)リーファーワイン協会理事。著書に『美男論序説』(夏目書房)、『隣の嵐くん』(サイゾー)など、翻訳にオクサラ『フーコーをどう読むか』(新泉社)、ピュドロフスキ『ピュドロさん、美食批評家はいったい何の役に立つんですか?』(新泉社)など多数。関修FACE BOOOK関修公式HP

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『春風亭与いちの二ツ目日記』第十二回「梅雨」

『春風亭与いちの二ツ目日記』第十二回「梅雨」

東京もようやく梅雨入りし、蒸し暑い日に拍車がかかってきました。年間で最も早く過ぎ去って欲しい季節到来です。天然パーマの私に取っては日々、湿度との戦いです。今は短くしているのでなんとか誤魔化せるのですが、学生の頃は色気づいて、髪をひたすら伸ばしてました。前髪は重ければ重いほどカッコいい。目が前髪で隠れていてこそ漢だ。そう思ってました。ただ、現実は思い通りにいかず、その伸ばした髪が一本残らず縮れ、若い頃の鶴瓶師匠のようになっていました。師匠にその事を話したら、「贅沢な悩みだ」と一蹴されました。髪型にこだわりがあるかと聞かれると、そんな事はなく、床屋は安ければいいと思っている。前座の頃通っていた近所の床屋は、おじさんが1人で営んでいる"ザ・街の床屋"だった。自分以外の客がいるところを見たことがなく、行くと、亭主が大抵プレステをやっている。「(ポチポチポチ)…あ、いらっしゃーい。(ポチポチポチ)」僕の存在を確認してから暫くプレステをいじり続ける。おそらくキリのいいところまでやりたい、ということだろう。それくらいはまだ良い。一度、オンライン通信をしていることがあった。「あははは!…あ、ごめん、お客来た。あと頼んだわー。はい、いらっしゃーい。」かなり気まずい。あと、お客さんのこと「お客」っていうタイプだったのをそこで知った。椅子に座って、目の前の鏡の下にある僅かな幅の棚に千円札を置いたら、カットスタート。という仕組み。大道芸人かよ。と、いつも心の中でツッコミを入れる。少しこのご亭主に歩み寄ってみようと思い、「なんのゲームされてるんですか?」「んーーー、モンハン。」友達かよ。たまたま同じゲームをプレイしたことがあったので少し盛り上がった。「仕事なにしてんの?」「落語家です。」「へぇー、僕ね、春風亭一之輔さん好き。」「あ、僕の師匠です。「え!本当に!?」何故かそのまま師匠のラジオを一緒に聴いた。完成して、後頭部を鏡で見せてもらう。気になる所があったので、もう少し切ってもらおうとしたら、「切り直しとかはやってないからー。はい、お疲れさまー。」掴めない。さっきまであんなに盛り上がってたのに。何故この床屋に3年も通ったのか。そして二ツ目になり、今は美容師になった友人に切ってもらっているのですが、もう最高です。話が弾むわ、細かいとこまで切ってくれるわ。ノンストレスな散髪ライフを送っております。久しぶりにあのご亭主の刺激的な散髪も受けてみたい。元気にしてるかなぁ。 略歴春風亭与いち1998年4月5日生まれ2017年3月、春風亭一之輔に入門。翌年1月21日より前座となる。前座名『与いち』。2021年3月1日より二ツ目昇進。

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第二十五回『銀座の仕立屋落語会・与クロークルーム』開催のお知らせ

第二十五回『銀座の仕立屋落語会・与クロークルーム』開催のお知らせ

7月の落語会は「春風亭与いちの二ツ目日記」の連載でお馴染み「春風亭与いち」さんの登場です、どんなお噺を聞かせてくれるのか、期待しましょう。 第二十二回『銀座の仕立屋落語会・与いちクロークルーム』 日時:7月7日、日曜日 12時45分開場 13時開演 終演14時30分ごろ 場所:ザ・クロークルーム 出演:春風亭与いち 開口一番 世話人:山本益博 会費:2,500円(税込)現金のみ 申し込み、お問い合わせは info@thecloakroom.jp まで (落語会の受付はメールのみ) 略歴春風亭与いち1998年4月5日生まれ2017年3月、春風亭一之輔に入門。翌年1月21日より前座となる。前座名『与いち』。2021年3月1日より二ツ目昇進。

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『美食通信』 第四十二回 「フランスからの二人の画家――銀座と柴又に咲く芸術の花――」

『美食通信』 第四十二回 「フランスからの二人の画家――銀座と柴又に咲く芸術の花――」

 今年のゴールデンウイーク近く、筆者に縁のあるフランス在住の画家の個展が相次いで東京で開催されました。  まず、四月二十二日から一週間、銀座の「幸神ギャラリー」にてパリ在住の川辺孝雄氏の「大宇宙」と題された展覧会が。  川辺氏との出会いはまさに「美食」繋がりと言えます。今から三十年近く前の一九九六年九月にパリを訪れた際、出かけたレストランで偶然隣の席に座られた日本人が川辺さんご夫妻だったのです。  それは十五区ヴァスコ・ダ・ガマ通りにある「ロス・ア・モエル」という当時開店して間もないビストロでした。後に「ビストロノミー」、「ビストロ=ガストロ」と呼ばれるようになるグランメゾン級の最新のフランス料理をビストロ感覚の価格と雰囲気で楽しめるスタイルの店のはしりでした。グランメゾンがパリの中心部に店を構えていたのに対し、これらの店は進取の気鋭の左岸(リヴ・ゴーシュ)の外縁にあたる十三、十四、十五区にありました。そして、「ロス・ア・モエル」のティエリー・フォシェは十四区の「レギャラード」のイヴ・カンドボルドと並んでそのパイオニアとして人気のシェフでした。  ただし、それはまだ一部の「美食」に関心のある者たちのあいだでのことで、SNSなどまったくなかった時代、『地球の歩き方』や『るるぶ』などしか情報を得る手段のなかった一般の日本人にはまだほとんど知られていませんでした。つまり、フランス語で『ミシュラン』や『ゴー=ミヨ』に目を通していないと分からないことだったのです。筆者はすでに先立つ九四年、九五年とパリを訪れていましたので、当時のパリの最新のレストラン事情はそれなりに把握していました。  ですので、夜出かける星二つ、三つのグランメゾンならともかく、昼出かけるビストロで日本人にお目にかかることはありませんでした。それは川辺ご夫妻も同じだったのでしょう。お互い、「まさか日本人に出会うとは」、というニュアンスで「日本人でいらっしゃいますか」と尋ねられたように思われました。  パリ在住の日本人画家に出会うというのは何とも珍しいことかと思われるでしょうが、実は筆者、もう一人そのよう方を存じていました。筆者がパリでお世話になった、当時パリにお住まいでその後成城大学の教授になられた末永朱胤先生のお父様もまたパリ在住の画家でいらしたのです。その末永胤生画伯は馬の絵を描かれていました。川辺さんは抽象画を描かれています。  さて、「ロス・ア・モエル」はビストロですので隣のテーブルとの間隔は狭く、色々お話を伺わせていただきました。何を食したのかはすっかり忘れてしまいましたが、何のワインを飲んだかはしっかり覚えているのが筆者らしいと言えましょうか。で、やはりワインの話を川辺さんにも尋ねたのをよく覚えています。それは日常、というか毎日どのようなワインを飲んでいらっしゃるのかという質問でした。フランスでは朝はともかく、昼、夜と毎日必ずワインを飲むのが食事の一環と言えます。ご夫妻の答えは、自分たちは手頃なものではあるが必ず瓶のワインを買って飲んでいるというものでした。  ミネラルウォーターよりワインの方が安いと言われていたように、フランスではワインは日用品です。まず、ペットボトルのワインがありました。マルシェなどで、農家が自分たちの造ったワインをペットボトルに詰めて売っていたものです。また、街角のあちこちにあるフランチャイズのワインショップ「ニコラ」では、ワインの量り売りもしていました。ですので、ワインのエチケットにも書かれている瓶詰めされた(ミザン・ブテイユ)ワインと言うのはそれだけでなかなか上等なものと言えるのです。  たった一度の遭逢でしたが、帰り際に名刺をお渡ししたところ、日本で個展を開かれる際、葉書を送って下さるようになりました。銀座松坂屋の別館でずっと開かれていたのですが、松坂屋が閉店してしばらく連絡がなかったのですが、久しぶりに葉書が届きました。やはり、銀座の画廊での開催とのこと。  折角なので、この連載主宰の島田さんのお店の近くということもあり、島田さんをお誘いして伺ったのですが、入れ替わりで帰られたとのことでお目にかかれず仕舞いになってしまいました。お互い随分年を取りましたので、これが今生の別れにならないとよろしいのですが……。  さて、もう一人はフランス人の若い作家クレマン・デュポン氏の「ハーフトーン」と名付けられた個展。こちらは何と柴又の「アトリエ485」で開催されました。五月四日の初日に伺わせていただきました。デュポン氏は筆者が翻訳した『欲望の思考』の著者マキシム・フェルステル氏の甥にあたります。トゥールーズ生まれのフェルステル氏は現在、アメリカの大学でフランス文学を教えています。彼は二度日本を訪れており、一度は千葉大学などで講演を行なっています。そのフェルステル氏から甥が初めて日本で個展を開くので顔を出して欲しいとメールが。  それにしても、帝釈天のある寅さんゆかりの柴又のギャラリーとは。外国の作家を紹介するギャラリーのようですが、他にワイン会やコンサートなど広く多様な目的で活用されているスペースのようでした。調べるとオーナーもフランス人のようです。何となく合点が行きました。外国の作家に日本を感じてもらい、また日本らしい場で作品を展示するのに、外国人だったら「銀座」を選ぶでしょうか。下町情緒あふれる「柴又」こそ、確かに「浅草」ほど観光地化しておらず、しかし賑わいのある街でそれに相応しいのではないでしょうか。 逆に、「銀座」の画廊は「パリ在住の日本人画家」に相応しい発表の場であるように思われます。  デュポン氏はまだ二十代のように思われる若者で、やはりトゥールーズ出身。フェルステル氏の家から十五分ほどのところに実家があるとおっしゃっていました。現在はパリで活動しているとのこと。初めての日本で個展は柴又だけ。全国を旅するそうで、京都では版画を教わると言っていました。作品はシルクスクリーン様なものなのですが、実は点描で色の濃淡をその厚みで表現しているとのこと。本人は「掛け軸」に興味があるらしく、自作が「表装」されるのを意識して、額に入れない展示になっていました。  「銀座」と「柴又」。同じ「東京」という都市でも、それぞれの街には意味があり、同じパリ在住でも日本人とフランス人では自らを位置付ける場が異なっていました。それはグランメゾンがパリの中心にあり、ビストロノミーのパイオニアがパリの端に店を構えたのと似ているように思われます。 ともかくも、お二人のますますのご活躍をお祈りするばかりです。  今月のお薦めワイン 「マルゴーの隠れた逸品〈シャトー・マルキ・ダレスム〉――エレガントな格付けメドックワインを楽しむ――」 「シャトー・マルキ・ダレスム 2019年 ACマルゴー 第三級」8200円(税別)  ローテーションで今回はボルドーを。前回はメドックのサン=ジュリアンの格付けシャトーでした。今回もう一度、メドックの格付けシャトーから選んでみました。今度はACマルゴーです。しかも、第三級。しかし、「小さくてほとんど知られていない」とペパーコーンも書いている「シャトー・マルキ・ダレスム」です。  ACマルゴーは他の村名アペラシオンと異なり、マルゴーの他にカントナック、ラバルド、スーサンの各村、さらにアルサック村の大部分もACマルゴーを名乗ることが出来ます。ですので、複数の村に所有する畑が点在するというケースが多い。この「マルキ・ダレスム」もマルゴー村とスーサン村に畑があります。  実は「シャトー・マルキ・ダレスム」と名乗るようになったのは2009年からで、それ以前は「シャトー・マルキ・ダレスム・ベッカー」という名でした。エチケットも馬蹄型のデザインで個性的、印象深いものでした。同じACマルゴーの第三級、シャトー・マレスコ・サン=テグジュペリを所有するジュジェ家が所有していた時代のことです。  2006年にブルジョワ級のシャトー・ラベゴルスの所有者ペロド家が購入しました。ペロド家は石油の富豪でラベゴルス=ゼデも購入、ラベゴルスに統合するなど着実にその勢力を拡大させています。  筆者はジュジェ時代の「マルキ・ダレスム・ベッカー」を好んでいました。小ぶりですが、実に品よくエレガントな趣でマルゴーらしいスタイリッシュなワインでした。  ペロド家になってからは以前よりカベルネ・ソーヴィニヨンの比率が高くなっているようで、今回紹介させていただく2019年ヴィンテージのセパージュはソーヴィニヨン57%、メルロ37%、プティ・ヴェルド6%とカベルネ・フランは使われていません。新樽率は50 %。樽熟成は18ヶ月とあります。  依然としてネームバリューは高くないので、価格的には前回の第四級のブラネール=デュクリュよりまだ随分お安くなっております。  ペロド家は2014年にシャトーを一新したようです。積極的な設備投資を行なっているようですのでその動向には注目すべき。パーカースコアも高い新たな「マルキ・ダレスム」をこの機会に是非お試しあれ。 略歴関 修(せき・おさむ) 一九六一年、東京生まれ。現在、明治大学他非常勤講師。専門は現代フランス思想、文化論。(一社)リーファーワイン協会理事。著書に『美男論序説』(夏目書房)、『隣の嵐くん』(サイゾー)など、翻訳にオクサラ『フーコーをどう読むか』(新泉社)、ピュドロフスキ『ピュドロさん、美食批評家はいったい何の役に立つんですか?』(新泉社)など多数。関修FACE...

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『春風亭与いちの二ツ目日記』第十一回「薬漬け」

『春風亭与いちの二ツ目日記』第十一回「薬漬け」

先月末、声が出なくなりました。大袈裟じゃなく、本当に。喉から音が出なくなりました。その1ヶ月前くらいから、花粉やら何やらで喉の調子が悪く、それが標準の状態になっていたので、特に問題視していなかったのですが、4月20日、遂に爆発しました。その日は昼、朝枝兄さんとの二人会、夜に師匠一之輔の独演会の前方。というスケジュール。昼の二人会、その一席目で早々に出なくなりました。噺の途中で、喉がひっつくような感覚に襲われまして、それからはなんとか誤魔化し誤魔化し…しかし、流石に夜の会に行けるほどでは到底なく。急遽、その場で朝枝兄さんに代演のご快諾をいただき、兄さんを会場まで案内し、師匠にも挨拶をしようとしたのですが、声が出ず。そのまま帰宅。翌日、噺家の先輩から勧められた耳鼻科へ行ってみた。「他の落語家もよく通っているらしい」と聞いて行ってみたら、本当に同期の歌彦に会った。鼻から内視鏡を入れられる。「はい〜、もうちょっと我慢だよー。すぐ終わるからね〜。もう終わるよ。」これが永遠に感じるほど苦しい。写真を見せられながら診断結果を聞くと、声帯を司る"ひだ"が弱りきっていて、ただの空洞になっていた。「どうしてこんな風になっちゃったの!?」と言われた。こっちが聞きたい。とにかくもっと早く医者に行かなきゃいけなかったらしい。反省。その場で吸入をした。あの、蒸気を鼻から吸って口から出すあれだ。あれが私は何故か子供の頃から大好き。少しも漏らすまいと、吸い口しっかり覆い、白神山地に行った時くらい深呼吸をする。最近「シーシャバー」なる店をよく見かけるが、「吸入バー」もあっていいと思う。そっちの方がよっぽど身体にいい。アルコール飲料の代わりに、マヌカハニー湯や、R1ヨーグルトなど置いても良いだろう。それから4月いっぱいは喋らず、もちろん仕事も休むように言われた。これは死活問題だ。仕事どころか稽古もできない。替え玉の麺の硬さを伝えられない。電話がかかって来ても無視する他ない。そんな生活をなんとか乗り越え、やっと仕事復帰。発生の仕方を一から見直しながら、試行錯誤して演っている。そしてなんとなく感覚をつかめてきたと思っていた矢先、ウイルス性の胃腸炎にかかってしまった。しかも重めのやつだ。胃腸炎のくせに熱が38.8°まで上がりやがった。医者に行ったら、今度は肛門から長い棒を突っ込まれた。上から下から。まったく惨めな人間だ。家へ帰り、トイレと布団を往復するだけの日々を過ごしている。一体この1ヶ月で何錠の薬を飲んだことか。常に飲んでいる薬も他にある為、10錠までなら一度に飲み込むことができるようになった。ここ数日は液体状の食べ物と錠剤だけで動いている。おそらく未来の人間の姿はこんなだろう。ああ、早く現代らしい、寝る間も惜しんで働き、脂質糖質にまみれた食生活を送りたい。 略歴春風亭与いち1998年4月5日生まれ2017年3月、春風亭一之輔に入門。翌年1月21日より前座となる。前座名『与いち』。2021年3月1日より二ツ目昇進。

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