by Osamu Seki
筆者は物事の順序にこだわりがあります。高校三年生の冬、上野文化会館の小ホールで行なわれたバルトーク弦楽四重奏団の演奏会の前、上野精養軒で父とコースのフランス料理を食した際、「これだ」と確信を得ました。オードブルからデセールまで一皿ずつ理路整然と料理が供されるのを目の当たりにしたからです。「美」とは単なる主観的恣意的なものではなく、説明可能な論理的なものである、と。そこで大学に入学して以来、フランス料理を食べ歩き始めた次第。 そして、それはフランス料理店には必ず予約して出かけるという、つまり一連の流れを先に予測して予定を立てるのが必須という行動にも。というのも、パリにおいて女性で初めて「オランプ」という店で星を獲得したドミニク・ナミアが離婚して九区に開店した「カーサ・オランプ」にランチで出かけたことがありました。開店間もなくのビストロだし、ランチだから予約なしで大丈夫だろうと出かけると店には誰も客がいなかったのに予約がなければ駄目と門前払いをくらったからです。もちろん、翌年、きちんと予約してランチしました。ドミニク女史はわざわざ厨房から出てきて、親しく話をしてくれ、フランス料理界のフェミニストと呼ばれた自立した立派な女性でしたが好感が持てました。それ以来、レストランにはランチでも必ず予約して出かけるようにしています。 という訳で、毎年恒例の静岡旅行でも何処に泊まり、何処に出かけるかを綿密に計画を立て、レストラン等も出来る限り予約して出かけています。 また、亡き両親の生まれ故郷である静岡市での一夜にはここのところ毎回、同じ出身の元代々木町「シャントレル」の中田シェフにもご一緒していただいております。いつもですと、スタートは常磐町の「カワサキ」でフルコースのフレンチをいただくか、呉服町の「ATO」でアラカルトでゆるゆるブルゴーニュを二本開けるかの二択となっています。 ところが今回はどういう訳か、七間町のワインバー「ラフィエット」からスタートすることに。「ラフィエット」は昨年の夏、「カワサキ」の後にワインが飲み足りないということで出かけたお店です。「ATO」がお盆休みだったので、急遽探して伺った次第。フルコースの後だったので、ほとんど料理をいただかなかったので今回はアラカルトで色々頼んでみようということに。中田シェフが予約して下さいました。 昨年リストに載っていながら欠品だったヴォーヌ=ロマネがきちんと用意されていたのは嬉しい限り。もちろん、モワヤール=グリヴォ2021年のヴォーヌ=ロマネをいただきました。価格も良心的でスタートしては良かったのですが……。 ブテイユも空いてきて、さてどうしよう、と。すると、もう少し何か食べたいので「静岡おでん」が良いのではないか、ということに。まあ、これも今までにも何回かあったことだったのですが、何となくいつもの軌道からずれてきたのは確か。 じゃあ、どの店に行くかが問題。ご存じのように「静岡おでん」は名物で市内に赤提灯のおでん街が常磐町に道を挟んで二つ(「青葉横丁」と「青葉おでん街」)あるくらい。筆者が子供の頃はまだ屋台で、静岡に帰ると父が出かけようというのですが筆者は行きたくなかったので頑なに拒んだのをよく覚えています。まあ、一応おでん街になったとはいえ、筆者は自分から出かける場所ではありません。しかし、昨年、代々木上原の「按田餃子」店主、按田優子さんもご一緒していただいた際、出かけた「青葉横丁」の方の「どみんご」に出かけることに。前回は客が誰もいなかったのに、今回は筆者たちで満席になる盛況ぶり。 さて、ここからが迷走状態に。黒板にピノ・ノワール・ボトル6000円と書いてあるではありませんか。どうも女将がお気に入りのようで強烈に勧められる。ボトルを見せてというとここにはないと言う。名前も分からないというではありませんか。どうも出入りの酒屋に買いに行くようです。でも、10000円の方なら分かるというので聞くと、コピーを広げて、「オート・コート・ド・ニュイ、ミシェル・グロ」とたどたどしく読み上げる。 筆者は手元にちょうど一万円札を現金で持っていましたので、「じゃあ、それでいいのでお願いします」と頼むと中田シェフや同行してくれているデザイナーの高橋君が驚いたような顔をするではありませんか。だって、おでん屋では筆者の飲みたいものがなく、手持ち無沙汰になるのは必須。グロのオート・コート・ド・ニュイは小売価格5000円くらいですのでレストランの適正価格ですし。 すると一緒に働いている息子さんがさっと何処かにワインを取りに出かけました。ところがしばらくすると女将の携帯に電話があり、在庫がなく、これではどうか、と画像を送ってきました。それはボルドーのカロン=セギュールのセカンド「マルキ・ド・カロン=セギュール」でした。ハートのマークで有名なワイン。12000円というし、ブルゴーニュの口でしたので、6000円は何と聞いても返答がなく……。すると、常連らしき「先生」と呼ばれていたお客様が「普通のブルゴーニュですよ」と教えて下さいました。筆者は初対面の「先生」のお言葉を信じて、「じゃあ、6000円ので」と註文完了。 息子さんが持ってきたのは確かにプロスペル・モーフーのACブルゴーニュ2023年で、ギャンブラー関の賭けは勝ちでありました。ワインもおでん屋で飲むには充分過ぎる出来で楽しい「どみんご」での時間を過ごすことが出来ました。 さて、そろそろバーの時間ではないかといつも〆を飾る両替町「バー・コード」に。ところがいつもなら開いているはずなのに閉まっているではありませんか。またまた予定が狂ってしまいました。もう、22時を回ろうという時間帯でどうしようということに。「ATO」は23時までなのでワインとつまみでOKか聞いてみると親切な中田シェフがすぐに電話して下さいました。 いつも満席の「ATO」ですので大丈夫かと思うと意外にすんなりOKとのこと。出かけてみると驚いたことに客が誰一人いないではありませんか。しかも、店は半分片付け状態。今日は空いていたんですよとサーヴィスの方が。店主のソムリエ氏も帰ってしまったそうで、ここから優秀なサーヴィス氏が店主と電話しつつ、ワイン選びが始まりました。何せ三本目ですので高いワインでは良さが分からないかもしれず、かといって安ワインでは開けてもらっているのに失礼。結局、二万円弱のジャック・カシュー、ヴォーヌ=ロマネ「オー・レア」2020年を頼み、フロマージュと生ハムを少々。この日二本目のヴォーヌ=ロマネ。これがまた美味しく、何という贅沢な夜であることよ。 日付も変わらんとしている頃、いよいよ〆だと「バー・コード」に戻ってみるもやはり休みのようで。これでは終われぬと「じゃあここは趣向を変えエスプレッソで」ということに。この『美食通信』でも取り上げさせていただいた(第五十三回)駿河町「タンデムジャイブ」へ。常盤公園の脇に明かりが見えます。「開いている」。 こちらも一人も客はなく、閉めようと思っていたのでしょう。「夜遅く来られるときは予約して欲しいんですけど」と言われたものの、心優しき店主は「普通に」美味なる〆のエスプレッソを淹れて下さったのでした。しかも、寝酒に何かないのかというリクエストにも応えて下さり、アマレットの入った「カフェ・コレット」をさらに出して下さったのです。エスプレッソ談義にしばし時を忘れ、気づくと二時近くに。さすがにこれは失礼しないと、と店を出ようとすると店主は「チャオ」と見送って下さったのでした。 いつもとは流れがまったく異なり、四軒はしごの行き当たりばったり的な夜はこうして終わりを迎えたのでした。しかし、これもまた一興。予定が狂うのもまたをかしです。 今月のお薦めワイン 「ヴォーヌ=ロマネ――ブルゴーニュの中のブルゴーニュ――」 「ヴォーヌ=ロマネ オー=ゾルム 2023年」 ジャック・カシュー 16000円(税抜) 今回はブルゴーニュはコート・ドールのニュイを北から紹介するシリーズ。 いよいよ、佳境に入ってまいりました。ヴォーヌ=ロマネ村の登場です。 実際はシャンボール=ミュジニ村とヴォーヌ=ロマネ村の間にはフラジェイ=エシェゾー村がありますが、この村のワインはアペラシオンがヴォーヌ=ロマネになりますのでシャンボールの隣はヴォーヌ=ロマネということに。 ヴォーヌ=ロマネはブルゴーニュ、ひいては世界中のワイン愛好家の垂涎の的、あのロマネ=コンティの畑がある村です。ロマネ=コンティの畑はこの村の葡萄畑のまさに中心といった位置にあります。このアペラシオンには他にもエシェゾー、リシュブール、ラ・ターシュなどなどグランクリュの代表格の畑があります。 従って、普通の村名ワインのヴォーヌ=ロマネも他のニュイのアペラシオンに比べ高価になっており、現在は小売で15000円からとお考え下さい。 ヴォーヌ=ロマネはボルドーで例えるとポムロールに似ていると言えましょう。色は黒っぽく、香りにいわゆるスー=ボワ(森の下生え)が感じられ、味にまろやかさ、オイリーさがあります。コクのある複雑な味わいは個性的でもあり、偉大とも評されましょう。 今回、紹介させていただくのはジャック・カシューの「オー=ゾルム」です。 カシュー家はヴォーヌ=ロマネで二十世紀初頭からワイン造りをしており、1966年、相続でジャック・カシューとルネ・カシューに分かれました。ジャック氏は1994年に引退し、子息のパトリス氏が継承。2012年からはパトリス氏の子息のシャルル氏も加わり、ヴォーヌ=ロマネを中心に6.7haの畑を所有し、良心的な価格でワインを提供しています。 ジャック・カシューの魅力はこの「オー=ゾルム」を見ても分かるように、村名クラスのワインもすべて畑別にキュヴェを造っていることです。ですので、数種類の村名ヴォーヌ=ロマネが楽しめます。 「オー=ゾルム」の畑は斜面の下方、フラジェイ=エシェゾーに近い方の国道沿いにあります。カシューは0.25haを所有。100%除梗し、コンクリートタンクで発酵。新樽率35%で17ヶ月熟成。...
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使用したのは、Loro Piana のAustralis(オーストラリス)。しなやかな落ち感と上品な光沢を持つ、ロロピアーナならではの上質なウール素材です。
ピークドラペルのダブルブレストで、襟元までしっかりと存在感のあるつくり。袖のないジレスタイルながら、丈長くコートのようなシルエットに仕立てているので、一枚でワンピース感覚でも着用いただけます。フラップポケットや前立てのディテールにより、きちんと感も損ないません。
中に長袖のシャツやニットを合わせれば秋冬の重ね着として、単衣なら春先や室内での羽織としても活躍する、着回しの幅が広い一着です。
▶︎ 使用素材・素材:ウール100%(Loro Piana Australis)・色柄:ネイビー無地・仕様:ダブルブレスト/ノースリーブ/ピークドドラペル/フラップポケット・シーズン:オールシーズン・用途:ビジネス/カジュアル
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by WOMEN'S
一枚でも、重ねても。ワンピースとジャケットのセットアップです。使用したのは、イタリアの名門 Canonico のウールシルクリネン。シルクとリネンならではの上品な光沢と軽さが加わり奥行きのある色合いに仕上がっています。ジャケットはノッチドラペルのシングルブレストで、すっきりとした縦のラインを意識したシルエット。ワンピースは無駄のないストレートなラインで、ジャケットを羽織ればきちんと感のあるセットアップに、一枚で着てもすっきりとまとまります。
オフィスシーンではジャケットを合わせて品格のある装いに、休日はワンピース一枚でリラックスした着こなしに。シーンを選ばず長く活躍してくれる一着です。
▶︎ 使用素材・素材:ウールシルクリネン(Canonico)・色柄:グリーン・仕様:セットアップ(ジャケット:シングルブレスト・ノッチドラペル/ワンピース:ストレートシルエット)・シーズン:春夏・用途:ビジネス/カジュアル
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11月の『銀座の仕立屋落語会』の開催が決まりました。
今月は、林家たま平さんをお迎えします。林家正蔵さんの息子であり弟子。古典に真摯に向き合いながらも、明るさと軽やかなテンポで、自然と客席を笑顔にしてくれる噺家さんです。一人ひとりの人物に命を吹き込み、場面がすっと浮かび上がる語り口は、深まりゆく秋の空気にぴったり。
そして今回、大切なお知らせがあります。たま平さんは2027年3月に真打昇進が決まっており、この『銀座の仕立屋落語会』にお越しいただくのは今回が最後となります。節目を目前に控えた、貴重な一夜です。
季節の変わり目で何かと気忙しくなるこの時期、少し肩の力を抜いて、素直に笑える時間を過ごしてみませんか。
晩秋の銀座、仕立て屋という特別な空間で味わう、朗らかな高座。
ご予定が合いましたら、ぜひ足をお運びください。
第五十回『銀座の仕立屋落語会・たま平クロークルーム』
日時:2025年11月22日(日曜日)12時45分開場 13時開演 終演14時30分ごろ場所:ザ・クロークルーム出演:林家たま平世話人:山本益博
会費:2,500円(税込)現金のみ
ぴあでチケットをご購入の方はこちらから。
申し込み、お問い合わせは info@thecloakroom.jp
略歴林家たま平1994年5月29日生まれ2013年4月、実の父でもある九代目林家正蔵に入門。2017年11月より二ツ目昇進。2019年放送のドラマ「ノーサイドゲーム」などドラマや映画などの出演多数。
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by Osamu Seki
土曜日の夜、日付が変わる頃、フジテレビ系列で東海テレビが制作する『土ドラ』と呼ばれるドラマ枠があり、筆者はこのドラマ枠の作品にお気に入りのものが多数あります。どこか人間臭い作品ばかりで、ほのぼのとした雰囲気が昨今のテレビドラマには稀有になってしまったように思われ、筆者にとってドラマを楽しめる貴重な時間帯と言えましょう。 太地真央さん演ずる名古屋年弁丸出しの整形外科医が主役の『最高のオバハン中島ハルコ』シリーズ然り、Hey! Say! JUMPの伊野尾慧君主演の『准教授・高槻彰良の推察』はミステリー物ですが、准教授の伊野尾君と学生役の神宮寺勇太君(元King & Prince、現Number_i)の怪しい関係にワクワクしたりと目が離せない作品ばかり。 そんな中、この原稿を書いている現在放映されている『ミッドナイト屋台2~ル・モンドゥ~』はグルメ物ながら、主演二人が共にSTARTO所属のアイドルで、イケメンと美食を一度に楽しめるという何とも贅沢な作品。昨年(二〇二五年)放映された『ミッドナイト屋台〜ラ・ボンノォ〜』が好評だったのでしょう。早くも一年後、第二弾が放映されることに。 前作では味覚障害に陥り料理の世界から離れてしまった若き天才的シェフがひょんなことから実家の寺の副住職を務める若者と出会う。この若者、実は辛口グルメレヴュー投稿者で味覚がめっぽう鋭い。二人は寺の境内で夜な夜な屋台「ル・ボンノゥ」を始めることに。 寡黙で料理のことばかり考えているシェフ遠海翔太にはWESTの神山智洋が。金髪で何処かミステリアスな雰囲気が才気あふれるフレンチシェフという役にピッタリ。寺を継ぐことにためらいがあり、自身の舌で翔太を助け、屋台のサーヴィスに今までの修行の成果を自分なりに生かせることに気付く方丈輝元にはTravis Japanの中村海人が。翔太とは対照的に外向的な性格でまさに二人で一つという「相棒」ものを見事に演じています。 第二作の「ル・モンドゥ」では味覚を取り戻した翔太と寺の後継を弟に譲った輝元は屋台のさらなる飛躍を求めて、横浜で店を開くことに。屋台村に出店出来ると思いきや、地下駐車場に連れて行かれ、そこで出店することに。宣伝も兼ね、輝元は地元FMのパーソナリティーを務めることになるが局のDJ藤間渉にジュニア内のグループB&ZAIの矢花黎が加わり、同じ事務所のほぼ三歳ずつ歳の違う三人がそれぞれの個性を発揮しています。 翔太はフレンチのシェフなのですが、「どんなオーダーでも引き受けます」という輝元の考えた屋台のモットーに応えることで実際毎回登場する料理は最後の数回こそ、「コンソメ・ドゥーブル」、「真鯛のポワレ」、「牛ほほ肉の赤ワイン煮」とフレンチの定番でしたが、それまでは「焼き飯」、「味噌ラーメン」、「お好み焼き」などとまさにデパートの「お好み食堂」的なものばかり。 このオーダースタイルは横浜でも変わらず、結果、今回は逆に店の「スペシャリテ」を考案しようと二人は試行錯誤するのですが……という流れ。縁故のない土地で「屋台」を知ってもらうには店の看板料理が必要だ、と。しかし、客にとってどうしても食べたい一品と言われるとその人の人となり、それまでの人生にとって一番記憶に残っている料理であり、実際この第二弾も今のところ、「豚の生姜焼き」や「肉まん」、フレンチ風と付くものの「牛丼」、「ちゃんこ鍋」と真っ当なフランス料理は「ウフマヨネーズ トリュフ風味」だけです。 しかし、この番組、本当の「美食」とは何かを考えさせてくれる貴重な機会であると筆者は評価しています。例えば、余命いくばくもないビルのオーナーに対し人生最後に何を食べていただきたいかと考えた二人が出した結論が、オーナー夫妻が若き日苦労していた時代、二人で毎日分け合って食べていた「肉まん」ではないか、と。二人が供したそれは普通ながら飛び切り美味しい肉まんだったのですが、夫妻が食べていたのは当時一番安かったからで、実際は何も美味しいものではなかったのでした。それでも二人で半分ずつ分け合って食した肉まんはオーナー夫妻に当時のことを思い出させ、かけがえのないひと時を屋台で過ごすことを可能にしたのです。 実際、筆者も人生最後に何が食べたいかと聞かれれば、亡き母が子供の頃作ってくれた「自家製レバーのサンドウィッチ」と答えるでしょう。サンドウィッチは別に何の変哲もないお弁当のレパートリーなのですが、どういう訳か、遠足などに持参するサンドウィッチが決まって母が自分で煮たレバーを薄く切ったものをたっぷりマーガリンを塗ったパンで挟んだものだったのです。サンドウィッチの具はそれだけで、あとは普通に卵焼きやらウインナーやら普通のおかずが別の入れ物に。 小学校は給食でしたので、学校行事の時くらいしか弁当がなかったのですがその度にレバーのサンドウィッチという訳で。確かにおにぎりが苦手でパンが良かったのですが、最初は戸惑いました。小学校低学年の子供の口に合う料理とは思えません。それでも年を経るといつの間にか、レバーのサンドウィッチを楽しみにするようになったのです。パサつくレバーがたっぷりのマーガリンのオイリーさで豊かな味のハーモニーを奏でることに気付いたのです。 母が亡くなった後、叔母が何かの折に、母が筆者の食事のことに神経質で身体によいとレバーをよく食べさせていたと聞かされたことがありました。そう言えば、晩年亡くなるまでさすがにもう自分で料理することはありませんでしたが、市販のレバーの煮たものを買ってきて、スライスしてサラダに添えて出してくれました。母のそんな思いを知り、母が煮たレバーのサンドウィッチがどうしてもまた食べてみたいと思うのです。 さて、話は再びかの屋台に戻り、筆者だったらまったく別の活用法をするかと思われます。イケメンのシェフとサーヴィスがすぐ目の前にいるわけでそれだけでワクワクするではありませんか。天才シェフにはフレンチの古典の定番料理を片っ端から作ってもらいます。ワインは店に通うので持ち込み料を払って持参ということで。マイグラスも預けておこうか、と。もちろん、ワインはお二人にも飲んでいただけるよう配慮して。 ドラマではそれぞれの客のかけがえのない一皿を作ることで若い二人が成長していく様を描き出しているのですが、本来「お任せ」とは、顧客の好みを熟知した料理人がこの料理ならその顧客は満足してくれるだろうというメニュにない料理をお出しするので「任せて」いただけないかという意味であることを再確認するべきかと思われます。 これではないかと投げかけれた料理に対し、的確に応えることの繰り返し。その批評精神こそ、若い二人を成長させるのであり、これこそがまさに「モンドゥ(問答)」ではないか、と。 そんな屋台があれば、ぜひ顧客になりたいものです。もちろん、スタッフ全員がイケメンであることは必須条件ですが。 今月のお薦めワイン 「バルバレスコ――イタリアワインの女王様――」 「バルバレスコ 2020年」 ガルブレット 6900円(税抜) 今回はイタリアワインの回。ピエモンテ州のネッビオーロ種から造られる銘酒を北から紹介するシリーズです。。 いよいよ、南部のバルバレスコ、バローロに到達。「ワインの王、王のワイン」と呼ばれる「バローロ」は最後に残して、まずは「バルバレスコ」から。「バローロ」が「(イタリア)ワインの王」の称号を得ていることから、「バルバレスコ」は「イタリアワインの女王」と呼ばれることがあります。 バローロとバルバレスコの違いはまず、何といっても畑の場所が異なります。近くではあるのですが、「バルバレスコ」はバローロの北東、バルバレスコ、ネイヴェ、トレイゾの三村で栽培されたネッビオーロから造られています。 次に法定熟成期間の違いがあります。バルバレスコは樽熟成一年、瓶熟成一年の二年以上なのに対し、バローロは樽熟成二年、瓶熟成一年の三年以上でバローロの方が長い。それがバルバレスコの方が早飲みタイプと目され、また繊細さが持ち味なので王様に対して女王様と呼ばれる理由の一つであることに間違いありません。 バローロのような力強さと長命さはないもののその分、バローロ以上の繊細さと調和のとれた品質を備えています。また、モダニストのアンジェロ・ガイヤと伝統主義者のブルーノ・ジャコーザという名手の存在もあり、バローロとはまた別の魅力を備えたネッビオーロの可能性を探求する造り手を多く輩出しています。 今回紹介させていただく「ガルブレット」は1912年ソルド家によって創業の伝統製法を頑なに守る造り手。それはバルバレスコ村55%、ネイヴェ村35%、トレイゾ村10%とそれぞれの村の葡萄を用いていること、さらに大樽で一年熟成させることに表われています。その後、瓶熟一年を経て出荷されています。...
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10月の『銀座の仕立屋落語会』には、春風亭一之輔師匠のお弟子さんとしても知られる春風亭与いちさんが登場します。
品のある語り口と穏やかな人柄で、会場をあたたかな空気に包み込む与いちさん。ラジオやYouTubeなど活動の幅を広げながら、若手落語家として着実に注目を集めています。今回はどんな演目が飛び出すのか、どうぞご期待ください。
暑さもやわらぎ、秋の気配が感じられる頃。仕立て屋の空間で、静かに沁み入る一席をお楽しみください。
第四十九回『銀座の仕立屋落語会・与いちクロークルーム』開催のお知らせ
日時:10月4日(日曜日)
12時45分開場 13時開演 終演14時30分ごろ
場所:ザ・クロークルーム
出演:春風亭与いち
開口一番 世話人:山本益博
会費:2,500円(税込)現金のみ
ぴあでチケットをご購入の方はこちらから。
申し込み、お問い合わせは info@thecloakroom.jp まで (落語会の受付はメールのみ)
略歴春風亭与いち1998年4月5日生まれ2017年3月、春風亭一之輔に入門。翌年1月21日より前座となる。前座名『与いち』。2021年3月1日より二ツ目昇進。
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by Osamu Seki
都内某所、タワーマンションの高層階。ニューヨークのレストランでシェフをしていたアメリカ人シェフの御自宅でのプライヴェートディナー。八名定員とか。定期的に行なわれているようで、ワイン仲間の弁護士から以前もお誘いを受けたことがあったのですが機会を得ず、またお誘いがありましたのでどのようなものかと一度出かけてみることにしました。 ワインは各自持参のコース料理で会費は二万円。 思い起こすとこうしたプライヴェートディナーを以前体験したことがありました。代官山のマンションの一室。イタリアンの日本人シェフの御宅だったか、こちらはもう少し人数が少なかったように記憶しています。こちらはワインもシェフのマリアージュで決められてしまい、とにかく蘊蓄がすごくてありがたいのを通り越して食事するのがちょっと苦痛で、二度とご一緒することはありませんでした。 そんな過去のトラウマのせいか、シェフの御自宅でのプライヴェートディナーなるものにポジティヴな動機付けが筆者にはありません。本来なら、選ばれし者のみに許された贅沢な時間なのでしょうが。 主催者は女性歯科医師。弁護士が三名。業界に明るいマスコミ関係者などなど。参加者もそれなりにハイソで素晴らしい。かといって、筆者の同級生でワイン会で人脈を広げましょうという本を書いた御仁がいらしたがそういった名刺交換会的会食でもなさそう。 ということは、純粋に「美食」を求めて集まられたのだろうか。正直、筆者にはそうには思えないのでした。例えば、ワインは各自持参なので統一性がなく、しかもこの日集められた七本の内訳は泡が二本、白が三本、赤が二本と筆者など赤ワインしか飲みたくない者には正直苦痛にしか思われませんでした。我がままのきく店や気心の知れた方々との会食なら、自分は赤しか飲まないので白はテイスティングだけで赤を最初から下さいと言えるのですが何せ新参者ですから、順番通りに注がれたものを飲むしか叶わず……。 料理はイタリア料理をベースにしたアメリカ料理なのでしょう。自家製のハーブ、オーガニックの食材が売りのようでした。料理はどれもよく出来ていました。 アミューズは自家製のフォカッチャとそれに合わせるペーストとリエット。ルッコラとマカダミアナッツオイルのペーストが色鮮やかでまた予想外の味でとても美味しく思われました。スモークした鰆のリエットは予想通りの味でまずまず。 オードブルは高知産カンパチのクルード。クルードはイタリア語で「生」を意味し、刺身を醤油でなく、シャンパンヴィネグレットソースでいただくといった趣の料理。上にかけられたフェンネルフラワーのハーブ感が印象的。 これとて、筆者は生魚を基本パスしたいのであまり楽しめませんでした。刺身は年に一度、伊香保温泉の「ホテル木暮」の夕餉で出てくる見た目に高級そうなちょっとした刺身盛で充分かと。しかも、この間食べたばかりですし。 魚料理は稚内産の帆立貝。これもミキュイといった火通しで問題なくいただけました。ブールノワゼット(焦がしバターソース)なのですがやはりハーブが効いていて、この辺りが王道フレンチとの違いなのでしょう。 イタリアンなのでメインの前にパスタかリゾットが登場することに。今回は舞茸のリゾットでした。筆者はこの日一番の出来はこのリゾットと確信しました。まず、器が大振りの抹茶茶椀なのがお洒落。 普通ならポルチーニのリゾットなのでしょうが、三種類の味わいの異なる舞茸を用いたところが素晴らしい。器から和の趣があるようにさらに鰹出汁を用いることでその傾向が明白に。一方でカリカリのグアンチャーレ(豚ほほ肉の塩漬け、バラ肉を用いたのがパンチェッタ)、ヘーゼルナッツ、パルメザンチーズとイタリアンの味わいもしっかりと。そのインターナショナルな出会いはまさにシェフと日本人のマダムのよう。それを繋ぐのが自家栽培のタイムというハーブ。このディナーの基本理念を完璧に表現したような料理でした。 ただ、筆者は炭水化物を好みませんので、舞茸を拾って食べて米を残すことに。大変申し訳ない。 メインはゆっくり火を通した鹿児島産の黒豚のロースト。シンプルな料理でチャツネ的に添えられた山梨産の桃のモスタルダ(砂糖漬けの果物をマスタード風味のシロップで煮込んだもの)が良いアクセント。これは綺麗に平らげることが出来ました。 ドルチェはパンナコッタ。自家栽培のブルーベリーがふんだんに添えられていて、やはりハーブが効いた味わい。 料理はもちろん及第点に達していたのですが、筆者のモヤモヤはきっとこういうことなのでしょう。これって、レストランで出す料理をシェフの自宅で味わうというスタイルな訳ですがそれ自体が矛盾なのではないか、と。 それだったら、もっとゆったりした空間できちんとした内装やカトラリーを揃え、しっかりサーヴィスで供したら料理も映えるのではないか、と。 シェフの御自宅でのディナーなら、レストランでは出さないシェフ自身の好物とか、オリジナルな何料理か分からないものとかの方がかえって付加価値があるのではないでしょうか。まあ、それでそれなりのお金をいただくとなればそれ相応の工夫が必要となるのは必須でしょうが。 結局、何かの理由でレストランを出すことが出来ず、それでも自分のきちんとした料理を食べてもらいたいという思いが導き出した一つのスタイルなのではないか、と。 筆者にはそれが中途半端に思えて仕方ないのです。持参のワインも含めれば、三万円近くかかったこのディナーはそれに相応しかったのか。 筆者の結論は年に一度出かけるにはまあ良かろうか、と。 ただ、ワインのことを思うとあまり気が進まないのも事実です。 今月のお薦めワイン 「シャンボール・ミュジニー――ブルゴーニュのマルゴー――」 「シャンボール・ミュジニー 2022年」 フィリップ・ル・アルディ 19800円(税込) 今回はブルゴーニュのコート・ド・ニュイの代表的アペラシオンを北から紹介させていただく回。 「モレ=サン=ドニ」まで参りましたので、次は「シャンボール・ミュジニー」になります。 シャンボール・ミュジニーは人口三百人ほどで生産者も二十名ほどの小さな村。そこで産まれるワインはブルゴーニュで「最も女性的」と言われ、華やかで愛らしい香りとシルクのように滑らかな飲み心地、優美で可憐な味わいは愛好家の垂涎の的。 北のモレ=サン=ドニ側に「ボンヌ=マール」、南のヴージョ側に「ミュジニー」の二つのグランクリュ畑を有しています。それらと共にミュジニーに接する一級畑に「恋する乙女たち」という名の「レ・ザムルーズ」がありグランクリュに匹敵すると言われ、しかもそのフェミナンな印象からもシャンボール・ミュジニーを代表する銘酒と言えば、この「レ・ザムルーズ」が挙げられることが多いです。...
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9月の『銀座の仕立屋落語会』には、桃月庵黒酒さんをお迎えします。
桃月庵白酒師匠のもとで研鑽を重ねる黒酒さんは、元漫才師という異色の経歴の持ち主。落語はもちろん、演劇や音楽などさまざまな舞台経験に裏打ちされた豊かな表現力で、独自の世界を築いています。
人物の心情を丁寧に描き出す語り口と、ふっと笑いを誘う間の取り方は格別。派手さではなく、じわじわと噺の面白さを感じさせる高座に、多くの落語ファンが魅了されています。
銀座の仕立て屋という親密な空間で味わう黒酒さんの落語は、寄席とはまた違った楽しみがあります。どうぞ肩の力を抜いて、じっくりとお楽しみください。
第四十八回『銀座の仕立屋落語会・黒酒クロークルーム』開催のお知らせ
日時:9月6日(日曜日)
12時45分開場 13時開演 終演14時30分ごろ
場所:ザ・クロークルーム
出演:桃月庵黒酒
開口一番 世話人:山本益博
会費:2,500円(税込)
ぴあでチケットをご購入の方はこちらから。お申し込み、お問い合わせはinfo@thecloakroom.jp まで
略歴桃月庵 黒酒
1987年年4月13日生まれ2017(平成29)年8月桃月庵白酒に入門。2019(平成31)年1月21日前座となる 前座名「あられ」。2022(令和4)年11月1日二ツ目昇進 「黒酒」と改名。
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by Osamu Seki
先日、最近お気に入りの広尾のワインショップ兼ワインバー「ルグラン・フィーユ・エ・フィス東京」へ知人とワインを飲みに出かけました。ショップで販売しているワインを抜栓料2000円払うと店で飲めるシステム。地下にセラーがあり、店頭に並んでいないワインはリストで確認出来ます。以前、「カフェ・デ・プレ」だった建物でカフェ風の外観はそのままでテラス席もあり、そちらを好んで使われるお客様もいらっしゃいます。筆者はテラスが好きではないので、カウンターに必ず座ります。ソムリエ氏との会話も楽しめますし、カウンターに陣取るのは顧客とおぼしき強者ばかりで、その方々のワインの楽しみ方を拝見するのは大変興味深く学ぶところ大ですので。 さて、今回もシャンボール=ミュジニーを選んでしまいました。造り手はニュイ=サン=ジョルジュにドメーヌを構えるジャン=ジャック・コンフュロン。ニュイに広く畑を所有。個人的にはちょっと軽すぎるというか平板な造りでもう少し立体感が欲しい。しかも、「ぽってりした」感じの。ある種の艶めかしさが足りないのです。 ですので、サックリと飲み干してしまい、もう一本というほどでもなく、ではディジェスティフ(食後酒)でもと思い、ふと思ったのです。以前、豊富なグラスのリストから自然派の名手フィリップ・パカレのマール・ド・ブルゴーニュなど手頃な価格で楽しんだのですが、まだ宵の口といった時間でしたので河岸を変えてみようか、と。 そこでその知人も良く知っている渋谷文化村近くの「バー・ブルーム」に出かけることにしました。筆者は移転する前の井の頭線の改札に上がるエスカレーターすぐ脇のパチンコ屋の景品交換所の二階にあった時から出入りしており、今年で三十年目になります。開店が一九九四年ということですので、開店してすぐ以来のお付き合いということに。店主の玉城氏はフレンチ出身でワインも詳しく、ディジェスティフも豊富。筆者が「グラッパ・ディ・サッシカイア」に出会ったのも「ブルーム」でした。 「ブルーム」を紹介して下さったのは当時渋谷で画廊「美蕾樹(ミラージュ)」を営んでおられたマダム生越でした。マダム行きつけの店だったのです。一九九六年に『美男論序説』を世に問うた筆者は知人から紹介したい人がいると言われたのがマダムでした。毎日新聞か何かの書評をご覧になられて偶然共通の知人がいて会ってみたいとおっしゃったようで。 マダムの周りには芸術家はもとより、演劇人から文化人まで多くの方々が集まり、筆者もすぐに様々なイヴェントを行なわせていただきました。神田でも「デルタ・ミラージュ」というスペースのディレクターを兼ねられ、筆者は翌一九九七年から「サロン・デュ・ヴァン」というボルドーワイン講座を毎月一回、一年間行なわせていただきました。 この日、「ルグラン」で一緒に飲んだのはマダムの同級生の息子さんで、そのK君が大学生のとき、マダムからワインを教えてあげて欲しいと頼まれ、指南のためあちこちワインを飲みに出かけたのでした。結果、真面目なK君はワイン・エキスパートも取得するに至った次第。そんな彼が大学を卒業してもう十年が経とうとしています。ですので、まだまだ若いK君も「ブルーム」は十年選手というわけで。 筆者はお決まりの「グラッパ」を。さすがにサッシカイアのものは高価になってしまいましたので、そこは玉城セレクションで適正価格で飲める美味しいものが出てくるという訳です。何せ、チャージなしのショットバーですので。 K君はちょっと迷って玉城氏に相談するとアルザスのフルーツブランデー「ポワール・ウイリアム」を薦められ、それを頼むことに。「ポワール」は洋梨で、サクランボから造られる「キルシュ」の方が有名かと。これらのフルーツブランデーはフランス他の地域、さらには他の国でも造られていて、なかなか個性的なものが多いか、と。 話はマダムのことや昔のことなど尽きることなく、もう一杯飲もうということになり、筆者は「グラッパ」のフランス版「マール」を。ボーヌの造り手のもので(従って、「マール・ド・ブルゴーニュ」)なかなかの美味。これらは葡萄酒の搾りかすを蒸留して造られるいわゆる「粕とりブランデー」になります。K君は「アルマニャック」を飲むことに。いわゆるフランスの「ブランデー」には「コニャック」と「アルマニャック」があり、蒸留方法の違いから「コニャック」が二回蒸留をかけるのに対し「アルマニャック」が一回で済むのでより野趣味を感じると言われています。また、「コニャック」が複数年の原酒をブレンドする(シャンパーニュのノンヴィンテージに相当)のに対し、「アルマニャック」にはヴィンテージが存在します。いずれにせよ、K君はちょっとトリッキーなチョイスをしていました。 河岸を変えることで気分が一新し、またディジェスティフへの思いもそれだけ深くなり、話題もまた様々な方向へと展開して行くのではないでしょうか。実際、グランメゾンではウエイティンバーと食事のホール、さらにはディジェスティフ用の部屋をそれぞれ別に用意している贅沢な作りのものがあります。 ディジェスティフには葉巻のサーヴィスがつきもので、シガーケースがテーブルを回るのが常でした。筆者は三十年前、パリ十六区の「フォージュロン」で経験しましたし、赤坂の「ル・マエストロ・ポール・ボキューズ・トキオ」にも葉巻の用意があったように記憶しています。ほぼ儀式化していましたが、実際吸われる方がいると香りがきついので他の客への配慮から別に場所をしつらえる店もあるというわけです。 筆者は神戸ポートピアホテルの最上階を独占していた「アラン・シャペル」でこのサーヴィスを受けました。別にディジェスティフを頼まなくとも、デセールの際に場所を変えませんかとサーヴィスから尋ねられ、客の判断でそのままテーブルで食するも良し、河岸を変えるのも良しというわけです。折角なので、部屋を変えてデセールをいただきました。その時はご一緒した方があまりお酒を召し上がらない方でしたので、ディジェスティフは遠慮した次第です。 都内の老舗のグランメゾンでは「銀座レカン」のバーが有名です。銀座の一等地のビルの地下にある店はバーがさらに一階下にあり、その移動がユニークなのと、リニューアルしてホールはモダンな内装になってしまったのに対し、バーのみが以前と同じ赤いビロードの内装がそのまま再現されており今や貴重な空間と言えましょう。筆者は昨年、この連載の主宰である島田社長にご招待いただいた際、ディジェスティフで使わせていただきました。二人で独占状態でしたのでそれは贅沢な時間を過ごさせていただきました。 またホテルであれば、ホテルのバーに移動するのも良いかと思います。今年は島田社長に帝国ホテルの「ル・セゾン」にご招待いただいたのですが、レストランにバーコーナーはなく、同じ中二階にある「オールドインペリアルバー」に連れていっていただきました。ただ、有名なバーだけに大変混んでいて、ちょっと落ち着きませんでした。筆者は人混みが苦手で出来るだけ少人数で静かに過ごしたいので、カウンターだけのオーセンティックバーか、逆に広々としたラウンジなどの方が良かったと思った次第。 いずれにせよ、素敵な食事の最後の仕上げとして時間に余裕があれば、河岸を変えてディジェスティフを楽しむプランを選択肢の中に入れていただければ、「美食」がより洗練されることでしょう。 今月のお薦めワイン 「ゲンメ――北ピエモンテのネッビオーロの逸品――」 「キオーソ・ディ・ボミ DOCG ゲンメ 2019年」 ロヴェロッティ 10780円(税込) 今回はイタリアワインの回。ピエモンテ州のネッビオーロ種の銘酒を北から紹介させていただくクールの第二回目。初回の「ガッティナーラ」と並ぶ北のネッビオーロ種の銘酒「ゲンメ」を。 1997年にDOCGに昇格した「ゲンメ」は古代ローマ時代よりワイン造りが行なわれてきたイタリアワイン史でも重要な土地。現地で「スパンナ」と呼ばれるネッビオーロ種85%以上、残り15%にはヴェスポリーナ種かウーヴァ・ラーラ種(現地名ボナルダ)を用いて造られます。 テロワールの関係で「ガッティナーラ」よりエレガントなスタイルのワインを産します。酸に特徴があり、タンニンも豊富で長熟にも耐え得る造りとなっています。 人口四千人ほどの小さな土地で年間生産量は15万本、造り手も数十軒しかないと言われています。国内での消費がほとんどでしたが、近年日本への輸出も増えてきました。 今回紹介させていただく造り手の「ロヴェロッティ」はアンダースン『イタリアワイン』(早川書房)では「ゲンメ」の代表的造り手のツートップに挙げられています(もう一つはアンティーキ・ヴィニェーティ・ディ・カンタルーポ)。 「ロヴェロッティ」は六百年以上続く地元の名家。ワイン造りは1970年からと比較的最近のことですが上記のように名声を博しています。 この「キオーソ・ディ・ボミ」2019年はネッビオーロ85%、ヴェスポリーナ15%で造られています。オーク樽(26HL)で36ヶ月以上熟成。さらに9ヶ月以上瓶熟成させています。 以前、筆者はロヴェロッティの「ゲンメ」をテイスティングさせていただく機会がありましたが驚きの連続でした。抜栓直後はバランスが悪くどうなるかと思ったのですが、時間と共にとりわけ香りが香水のように芳しくかつエレガントになり魅せられました。もちろん、味わいの方もタンニンが効いていながら酸が綺麗で、ミネラルなど複雑さも感じられ気品ある仕上がりで感動しました。アンダースンが賞讃するのも納得出来ました。 ロヴェロッティにはもう一つ格下のDOCコッリーネ・ノヴァレージ規格のワインもありますが、今回は現在唯一購入可能な「ゲンメ」を紹介させていただきます。 「ゲンメ」の魅力を充分に堪能できることでしょう。この機会に是非。 ...
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by Osamu Seki
読者の皆さまは「舌平目」をご存じでしょうか。「平目」を名乗っておりますが、カレイ目ウシノシタ科の魚の総称で、日本では牛の舌に似ていることから「ウシノシタ」と呼ばれる魚のことです。ちなみにフランスではラテン語の「サンダル」の「ソレア」から「ソール」と呼ばれています。カレイや平目より細身の魚で、種類も多数に及び、中でもドーバー海峡で獲れる大型のドーバーソールが有名でこれは「コモンソール」、「一般的な舌平目」という名のごとく、フランス料理に用いられるのもこの種類のものです。 ところで、「舌平目」のフランス料理など食べたことないという方も多いかと思います。実際、良く食事を一緒にする昔の教え子と「舌平目のボンファム」を食したのですが「舌平目」の存在を知りませんでした。確かに昨今のフランス料理で「舌平目」の存在は無きも等しいものになっていました。 しかし、先日、この連載の主宰者の島田氏と帝国ホテルの「レ・セゾン」で会食した際、魚料理が「舌平目」だったのです。ドーバー海峡産の大振りの立派な個体で、コミが魚をわざわざ見せに来たくらいです。ブールブランソースだったと記憶していますが、既に書きましたように身が厚すぎて、プリプリなのは良いのですが筆者にはちょっと生臭く感じられました。筆者の知る「舌平目」の料理はもっと身が薄く、味は淡白でホロホロと身がほどけて行くのが魅力というか、正直ソースで食べさせるタイプの魚と認識しております。 というのも、筆者がフランス料理を食べ歩き始めた半世紀近く前、魚料理の定番と言えば、「舌平目」だったのです。今から思うとフランス料理の食材にも流行りすたりがあることが分かります。当時、「舌平目」のポピュラーなフランス料理と言えば、まず「舌平目のムニエル」、そして「舌平目のボンファム」がツートップでした。 「ムニエル」というのは小麦粉をまぶしてバターできつね色にソテーし、火が通ったら、食材を取り出し、焦がしバターソース(ブール・ノワゼット)に仕上げて、回しかけ、レモンやパセリを添える料理。魚が主で、当時は「ソーモン(鮭)のムニエル」は「舌平目」と並ぶ魚料理の定番でした。また、虹鱒など川魚もよくムニエルで供され、例えば、「日光金谷ホテル」の「日光虹鱒のソテー金谷風」は「ムニエル」した後、日本酒でフランベし、バターソースに醤油と砂糖を加え「和風ムニエル」に仕上げた明治時代に創作された日本のフレンチの古典の一つとなっております。 何と半世紀近く前、近くのスーパーに「舌平目」が普通に売っていたのです。もちろん、小ぶりで食べるところなどほとんどなさそうなペラペラな「舌平目」君でしたが。今では考えられないことですが、おそらく鮭などと共に「ムニエル」の食材だったのでしょう。 筆者はフランス料理の食べ歩きを始めた当初、料理本も買い求めて、簡単なフランス料理を自身で作ってみたのでした。スーパーに売っている「舌平目」は皮を剥いで「フィレ(おろした魚の身)」状にするのは無理ですので「ムニエル」にするしかありません。それでもレストランで食べる「舌平目」の美味しさにはとうてい敵わないものの、確かに「舌平目」の味わいを家で楽しむことが出来て嬉しかったのを懐かしく思います。 それに対して、「舌平目のボンファム」の方はまさにフレンチレストランでいただく「お料理」といった趣のもの。実は広尾の「ルグラン・フィーユ・エ・フィス・東京」でメニュに載ったので早速食べに出かけました。「ルグラン」は筆者がパリに出かけていた三十年ほど前、いつもワインを買っていた老舗のワインショップです。当時、ゴルチエの服にはまっていた筆者は二区のギャルリー・ヴィヴィエンヌにある本店へ買いに出かけていたのですが「ルグラン」も同じヴィヴィエンヌに店があり、服を買い、ワインを買い、同じアーケード街にある「プリオリ・テ」でお茶するというのがお決まりのコースでした。 筆者が通っていた時代はまだワインショップだけでしたが、その後、ワインバーも併設するようになったようです。そして、広尾の店もテラスとカウンターでワインとちょっとした料理を楽しむことが出来るようになっています。「カフェ・デ・プレ」の跡ですのでテラス席がある次第。ショップで販売しているワインを抜栓料2000円で飲めるので、下手なレストランに行くよりはるかに安上がりで良いワインを飲むことが出来ます。 料理も「ボンファム」をはじめ、「スープ・ド・ポワソン」、「鶏肉のヴォロ・バン」といったクラシックな定番料理が並び、最近、筆者のお気に入りの店の一つになっています。 さて、「ボンファム」は料理辞典などには「おふくろの味」を想起させるものなどと書いてあるのですが、筆者の解釈は「料理上手な女性」風とでも申しましょうか。「舌平目」だけではなく、「スープ」、「羊のもも肉」、「りんご」など色々な食材で料理名になっています。特徴はバターをふんだんに使用するところでしょうか。ちょっと贅沢な感じの料理なのです。 「舌平目のボンファム」はフィレ状にした舌平目を白ワインで蒸して、その出汁をバターでモンテし、魚にかけてオーブンで焼き目をつけたものです。飾りをほどこしたマッシュルームが載っていたりします。「ルグラン」の「ボンファム」はシンプルな教科書通りといった皿で美味しくいただきました。ただ、かさを増すためか、下にほうれん草が敷いてあり、それが余分に思われました。まあ、魚だけですとちょっとポーションが少なくなってしまうからでしょうが。 実は「ボンファム」は基本というか原型で、さらに贅沢なヴァリエーションがあるのです。その方法は二点。まず、ソースをゴージャスにするのです。バターだけでなく、卵の黄身を加えてマヨネーズのように濃厚にした「オランデーズ」ソース、ベシャメルソースに卵黄とチーズを溶かした「モルネー」ソースをかけてグラタン状にする。次に、魚やホタテ貝をムースにしてそれを舌平目のフィレで巻いて白ワインで蒸すといった食材をさらにグレードアップさせ、贅沢なソースで黄金色に焼き目をつければ、グランメゾンの料理に。 筆者は今でもかれこれ四十年以上前になるかと思いますが、船橋にあった西武百貨店最上階の「セゾン美術館」脇にあった高輪プリンスホテルの「トリアノン」の支店で食した黄金色に輝く「舌平目のグラタン」を懐かしく思い出します。こってりしたオランデーズソースがこれでもかとかかっていて、あまりに重くて一皿食べきれなかったのでは。しかし、グランメゾンに相応しい実に立派な料理で、これこそフランス料理と深く感銘を受けたのでした。 「舌平目」は筆者にとって、永遠のフレンチの魚の王様なのです。それを最近、再び見かけるようになったのは嬉しい限りですが、あの黄金色にはもう出会えないのでしょうか。そればかりが気がかりな今日この頃です。 今月のお薦めワイン 「モレ=サン=ドニ――ニュイの隠れた銘酒の産地――」 「モレ=サン=ドニ 2023年」 レシュノー 14300円(税込) ブルゴーニュワインのコート・ド・ニュイのアペラシオンを北から紹介するクール。 「ジュヴレ=シャンベルタン」に続いては「モレ=サン=ドニ」。その南は「シャンボールーミュジニー」と有名どころに挟まれて規模も一番小さく、今一つ地味な存在のアペラシオンですが、実はグランクリュ畑が五つもあるという優れたワインを産するテロワールを有しています。 筆者はボルドーワインを基にワインを追求して参りましたのでどうしても、ブルゴーニュもボルドーと比較してしまいます。すると、フェミナンと言われる「シャンボール=ミュジニー」は「マルゴー」、ニュイ最大の銘酒産地「ジュヴレ=シャンベルタン」は「ポイヤック」とするとその間に挟まれているのはボルドーでは「サン=ジュリアン」に相当します。 中庸の美とでも申しましょうか、実際、ジュヴレの「力強さと腰の強さ」とシャンボールの「柔らかさと繊細さ」の両方を併せ持つなどと言われています。 筆者もまた、ニュイで最初に美味しいと思ったのはネゴシアン物ですが、モレ=サン=ドニを代表する造り手の一つ、デュジャックの村名ワインでした。 しっかりした果実味、タンニンがほどよく効いてボルドー飲みにも親近感が持てました。 デュジャックの他にも、アミオ、リニエ、ポンソなど優れた造り手が存在します。 また、モノポールのグランクリュ「クロ・ド・タール」は長らくモメサン社が所有していた歴史があり有名です。 今回紹介させていただくのは、ニュイ=サン=ジョルジュで1986年にレシュノー兄弟によって創業された「レシュノー」による村名ワイン。 レシュノーはモレ=サン=ドニに所有するグランクリュ「クロ・ド・ラ・ロシュ」で高い評価を得るなどモレ=サン=ドニにも複数の畑を所有。この村名ワインも複数の畑の葡萄をブレンドして造られています。通常、100%除梗。新樽率は30%以下で18か月熟成。 バランスの良さを感じさせつつも、凝縮感のある果実味、しっかりした構成力も楽しめる飲みごたえのある造りと評されています。 最新のヴィンテージを紹介させていただきます。比較的早くから飲める造りと言われていますが、寝かせておいても楽しめます。この機会に是非。 略歴関 修(せき・おさむ) 一九六一年、東京生まれ。現在、明治大学他非常勤講師。専門は現代フランス思想、文化論。(一社)リーファーワイン協会理事。著書に『美男論序説』(夏目書房)、『隣の嵐くん』(サイゾー)など、翻訳にオクサラ『フーコーをどう読むか』(新泉社)、ピュドロフスキ『ピュドロさん、美食批評家はいったい何の役に立つんですか?』(新泉社)など多数。関修FACE...
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by Masashi Shimada
7月の『銀座の仕立屋落語会』には、令和9年3月に真打昇進が決まった林家たま平さんが登場します。
林家正蔵さんの息子であり弟子として、古典落語に真正面から向き合いながら、持ち前の明るさと軽やかなテンポで客席をぐっと引き寄せるたま平さん。生き生きとした人物描写と、物語の情景がふわっと立ち上がる語り口は、春の空気によく似合います。
真打へ向かうこの時期ならではの勢いを間近で味わえる、貴重な機会となりそうです。
夏本番を迎える7月。銀座の仕立て屋という少し特別な空間で、肩の力を抜いて落語を楽しむひとときを、ぜひご一緒に。
第四十七回『銀座の仕立屋落語会・たま平クロークルーム』開催のお知らせ
日時:7月28日(日曜日)
12時45分開場 13時開演 終演14時30分ごろ
場所:ザ・クロークルーム
出演:林家たま平
開口一番 世話人:山本益博
会費:2,500円(税込)現金のみ
ぴあでチケットをご購入の方はこちらから。申し込み、お問い合わせは info@thecloakroom.jp まで
略歴
林家たま平
1994年5月29日生まれ2013年4月、実の父でもある九代目林家正蔵に入門。2017年11月より二ツ目昇進。2019年放送のドラマ「ノーサイドゲーム」などドラマや映画などの出演多数。
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by Osamu Seki
「春」になると天気予報では毎日のように桜の開花宣言がいつなのかが取り沙汰されます。桜が咲き誇る時期に日本では卒業式や入学式さらには入社式と去る者あれば来る者ありのよく言えば「新陳代謝」悪く言えばまさに「無常」の日本的人生観をひしひしと感じ、それを楽しむ術を日本人は身につけてきたのではないでしょうか。昨今、日本の新年度開始を欧米に合わせて九月にするべきとの意見もあるようですが、やはりいくら温暖化で実質上二季になりそうとは言え、四季を愛でる日本人にとって自然が芽吹く「春」こそ、新たなスタートの時であり続けて欲しいものです。
三月の最後の週末、今年はいよいよ桜が満開になるとの天気予報のご宣託が下された際、偶然にも筆者は恒例の高校の同級生との小旅行で横浜に出かけることになりました。千葉県民の筆者たちのみならず、関東近辺にお住いの方であれば誰であれ、「横浜」という街にはある種の憧れがあるものです。関西であれば、それは「神戸」でしょう。文明開化と共に港町だった横浜や神戸は西洋文明がいち早く流通し、西洋のみならず、共に「中華街」を擁する異国文化の香り豊かな土地なのです。筆者は子供の頃、三年半ほど神戸に住んだことがありましたが通った中学校が偶然にも当時のカナディアンスクール(アメリカンスクールではなく)のすぐ真下で、坊主頭が校則の自分とはあまりにも異なる同じ年齢の人々にカルチャーショックを受けたものでした。
今回横浜に出かけたのはまさに中華街でランチするためだったのですが、折角なので水上タクシーで花見と行こうかと思い桟橋に。するとさすが、いつもは誰も乗ることなく手持無沙汰な水上タクシーが停まっていないではありませんか。しかも、入り口の看板もない。これはいよいよ廃業かと思いきや、逆で、この時期は花見客の予約で一杯。当日客は受け付けていないことが判明。いやはや、さすが日本人と思った次第です。仕方ないので徒歩で山下公園の桜を散策しようということに。天気が良かったせいか凄い人で「広場恐怖症」の気がある筆者にはなんとも苦痛な時間でした。それでも見上げれば桜が、下に目を向けると花壇にチューリップなど春の花々が咲き誇る公園はまさに百花繚乱といった趣で「春」らしさに満ち満ちていました。
しかし、そんな「春」がもっと満載な空間を発見したのです。歩き疲れて、いつも立ち寄る「ホテルハイアットリージェンシー横浜」一階の「ザ・ユニオンバー&ラウンジ」に出かけると顔見知りのバーテンダーのH氏が出迎えてくれました。しかし、何かいつもと違う。そう、よく見るとネクタイがイチゴ柄ではありませんか。女性の同級生が察しよくそれを見つけて指摘すると「イチゴフェア」なんですとの回答が。
確かにこのラウンジの名物はデセールで、午後訪れるとラウンジは「アフタヌーンティー」をするお客様で満席なのが通例です。夜のバータイムにラウンジを訪れても「アフタヌーンティー」ならぬ「イーブニングティー」あるいは「ナイトティー」を楽しんでいらっしゃる方もちらほら。薄暗い空間で折角のケーキの見栄えはどうなのか気になってしまいますが「夜パフェ」が流行の昨今は「闇夜のスイーツ」も乙なのかもしれません。
もちろん、デセールが「イチゴフェア」で一日五食限定の特製「パフェ」もありました。このバー&ラウンジのありがたいのは一流ホテルにもかかわらず値段が財布に優しいところです。その五食限定のパフェも2500円ほどで都内の夜パフェの方が高いのでは。
また呑兵衛にも嬉しいことに週末の午後はハッピーアワーとやらで、名物の「エスプレッソマティーニ」など定番のカクテルが800円で飲めてしまう。しかも、十九時までとは太っ腹。通常でもその倍くらいですのでホテルにしてはお手頃価格。この一週間後の夜再び訪れ、チャージ付きで二人で二杯ずつ飲んでも一万円しませんでした。
さて、筆者はメニュを見ることなく一杯目をすぐさまH氏に註文しました。「イチゴのカクテルを何か作ってくれませんか」、と。すると、車を運転してくれている同級生の女性が「じゃあ、私はイチゴのジュースを」、と。まあ、イチゴアピールの装いなのですから、ここはイチゴのお酒を所望しても怒られはしないでしょう。
というか、H氏には事ある毎に何かカクテルを作ってもらっています。ある時はフランボワーズのカクテルが飲みたくなり、頼むとフランボワーズのリキュールがないのでチェリーのリキュールのカクテルでいかがですか、と実に美味しいカクテルを作ってくれました。優れたバーテンダーとは臨機応変に客の希望や時にはその時の様々なイメージから場に相応しいカクテルを供することが出来ねばなりません。H氏には最初からその才があると筆者は確信し、その期待を裏切らないH氏が何を作ってくれるのだろうと毎回楽しみで仕方ないのです。
さて、出てきたのは鮮やかな赤色の甘酸っぱい美味しいカクテルでした。ドライフルーツのイチゴのスライスが浮かんでいました。イチゴのジュースの方はスムージー状で色は淡い桜色。その対比がまた美しく、いつもながらH氏の機転の利く対応に感心した次第です。
その一週間後、筆者が再びラウンジを訪れたことはすでに書きましたが、その日H氏の姿はなくカクテルのメニュを拝見することにしました。すると今度は「桜コリンズ」が載っていました。「コリンズ」はジンベースの「トム・コリンズ」が有名ですが、ウイスキーベースの「ジョン・コリンズ」など背の高い「コリンズグラス」で供されるレモンジュースを加えるサッパリとした炭酸のロングカクテルの総称。「桜コリンズ」には桜の塩漬けが入っていて、桜茶の味わいがカクテルになったもの。何と、イチゴが別に添えてあるではありませんか。これは「イチゴフェア」のおこぼれかと思いつつ、ホテルのラウンジでの想像の夜桜見物で「春」を堪能した次第。これまた一興。
今月のお薦めワイン 「ジュヴレ=シャンベルタン――コート・ド・ニュイ最大の銘酒産地――」
「ジュヴレ=シャンベルタン 2024年」 フレデリック・エスモナン 10230円(税込)
コート・ド・ニュイのアペラシオンを北から紹介するクール。「マルサネ」、「フィサン」と続き今回は「ジュヴレ=シャンベルタン」。
いよいよ本丸に突入という感じです。というのも、これまでの二つのアペラシオンには「グランクリュ」という最高位に格付けされた畑がなかったのですが、ジュヴレ=シャンベルタン村にはナポレオンが愛したと言われる「シャンベルタン」を筆頭に全部で九つのグランクリュ畑があります。また、アペラシオンとしての「ジュヴレ=シャンベルタン」はフィサン村との間で隣接するブロション村の一部の畑も認定されており、コート・ド・ニュイのアペラシオンで最大の大きさを有しています。
ジュヴレ=シャンベルタンの特徴として挙げられるのはスケールの大きさとある種の頑強さでしょうか。繊細さよりはダイナミックな趣。色は濃く、カシスなどの黒系の果実、リコリス、獣系の香り。タンニンはしっかりしていて、寝かして飲むのにも適しています。
ただし、ブルゴーニュはアペラシオンではなく造り手が重要とおっしゃる識者の方もおいでですので有名な生産者を覚えておくのは大事です。デュガにデュガ=ピィ、ポンソ、アルマン・ルソーなどでしょうか。しかし、これらの造り手のワインは大変高価。なかなか手が出ません。後出のシャルロパンくらいになるとまだなんとかといった具合ですがそれでも手軽にという訳には参りません。
しかし、ブルゴーニュは農家のワインと言われるだけに、コツコツと良いワインを良心的な価格で地道に造り続けているドメーヌが多々あるのも事実です。
今回紹介させていただくフレデリック・エスモナンもその一つ。一九七〇年代に創設されたドメーヌ。所有する5ha強の畑はほぼジュヴレ=シャンベルタン村にあるという。
100%除梗。新樽率は10~15%で14か月熟成。抽出は濃すぎず、スケールの大きさよりはバランスの良い優しくエレガントな造りを目指しているようです。樽熟成はやや短めで早くから飲めるタイプのワインになっています。
手頃な価格で入手可能な優秀な造り手として人気で、すぐ完売になってしまいますのでこの機会に是非。
略歴関 修(せき・おさむ)
一九六一年、東京生まれ。現在、明治大学他非常勤講師。専門は現代フランス思想、文化論。(一社)リーファーワイン協会理事。著書に『美男論序説』(夏目書房)、『隣の嵐くん』(サイゾー)など、翻訳にオクサラ『フーコーをどう読むか』(新泉社)、ピュドロフスキ『ピュドロさん、美食批評家はいったい何の役に立つんですか?』(新泉社)など多数。関修FACE BOOOK関修公式HP
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