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『美食通信』 第十九回 「誕生年のワイン」

 先日、人気お笑いコンビがMCのバラエティー番組で、2000年生まれの女性アイドルに送る誕生日プレゼントを出演者が競い合うという企画を放映していました。最下位の方が他の方全員の分も支払うという「ゴチになります」方式。Diorのコスメ、高級ハンドクリーム、マスクメロンと二万円から三万円のなかなか高額なプレゼントが並ぶ中、MCコンビのツッコミの方が誕生年のワインを購入されていました。ボルドーの第五級、ポイヤックのシャトー・クレール=ミロンの2000年を購入されていました。25000円。クレール=ミロンはボルドー五大シャトーの一角、シャトー・ムートン=ロートシルトのロートシルト(ロスチャイルド)家が同じポイヤックに所有するシャトーで、さらにもう一つ第五級のシャトー・ダルマヤックもポイヤックに所有しています。クレール=ミロンの方がダルマヤックより高く評価されていてお値段もお高い。2000年はミレニアムの上、良いヴィンテージでしたのでムートンは50万円ほどしてしまっています。そう思うと、同じ造り手で25000円はまずまずとも言えます。

 実は昨年、毎年恒例の伊香保での泊りがけのワイン会で2000年のムートンを飲む機会を得ました。この通信を主宰下さっている島田さんも同席されていました。まだ早いくらいで見事な出来でしたがさすがに高価過ぎる。五大シャトーは尋常ではありませんが2000年はどのワインも高い値がついているのも事実です。

 そして、かく言う筆者も先日、若い友人のバースデーを祝うのに誕生年の1995年のワインを開けました。ブルゴーニュのセラファン・ペール・エ・フィスのジュヴレ=シャンベルタン・ヴィエイユ・ヴィーニュにしました。というか、それが精一杯でした。レストランでの会食の折でしたので小売価格の二倍を覚悟しておく必要があります。ですので、レストランでバースデーワインを開けたいと思われたら、持ち込みが可能な店でご自身で準備したものにされることをお勧めします。

 誕生年のワインは三十歳くらいまでなら比較的すぐ見つけられると思います。しかし、それ以上になると良いヴィンテージは見つかりますが高価であり、ヴィンテージが悪いと早飲みになってしまいますのでなかなか見つからず、どちらにせよそれぞれヘヴィーな状況に。

 随分昔のことになりますが、1996年のこと。ちょうどパリに出かけることになりましたので知人の誕生日にと1965年のワインを探すことにしました。当時はまだインターネットが普及していませんでしたので、ワインはとにかく足で探す時代でした。現在は醸造技術が進歩して、以前ほどワインの出来不出来の差がなくなっています。ところが60年代になりますと不出来な年は散々で生産量は少なく長持ちしませんのでどこを探しても見つからないことに。1965年は60年代最悪の年と言われており、パリなら大丈夫だろうとたかをくくったのが裏目に。いつもヴィンテージワインを購入していたギャラリー・ヴィヴィエンヌのルグランならあるだろうと思ったのですが1965年はないとのこと。チェーン展開していたニコラの総本山、マドレーヌ広場の本店に出かけてみたのですが、ヴィンテージポルトならあるがボルドーはないと。他にいくつか店を回ったのですがどこにもありません。途方に暮れ、何とかワインショップの情報をとゴー=ミヨのワイン雑誌を購入しました。当時唯一の情報媒体でしたので雑誌にはワインショップの広告が載っていたのです。それらを探していると15区のあるワインショップがヴィンテージ物の立派なリストを載せていたのです。

 ここならあるのではないか。早速翌日、その店を訪れました。すると五大シャトーの一つ、オー=ブリオンの1965年があるとのこと。蔵出しで1990年にリコルクされたもので、カーヴに寝かせていた際、エチケットがボロボロになってしまったらしく張り替えてあったのですが、元のエチケットを残したまま反対側に新しいエチケットを貼っていたので極めて珍しいブテイユ(ボトル)だったのです。もちろん、即刻購入しました。古いオー=ブリオンをたくさん所持していたようで他のオフヴィンテージもどうかと言われましたがそんな余裕はなく、ともかく入手することが出来ました。その知人とワインを一緒に開ける機会は逸してしまいましたが、後年某ワイン会で開けてみることにしました。リコルクした際、ワインを補填したのか予想以上に飲めたのです。その珍しいブテイユはそのまま保存することにしました。

 古酒は通常飲むワインとは別の次元ですので枯れた感じを楽しむことが大事。もちろん傷んでしまっていてはいけませんが、果実の香り(アロマ)ではなく熟成香(ブケ)を嗅ぎ分け、ミネラルなど複雑な味わいを堪能することが肝要です。偉大なヴィンテージは抜栓後徐々にその眠りから覚め深い年輪を感じさせ、静かな感動を覚えることでしょう。残念な年のワインは開けたらすぐにピークが来ますのでそれを楽しみ、酸化を覚悟して後半に臨みましょう。

 その点、三十年くらいまではどのワインもそれなりに楽しめます。2000年であれば、先述のようにムートン級のグランヴァンならまだ寝かせた方が良いくらいです。ですので、クレール=ミロンでしたら充分美味しくいただけると思われます。「新樽の魔術師」と言われたクリスチャン・セラファンが新樽率100%で造ったヴィエイユ・ヴィーニュも1995年が良作年だったこともあり、後半の方が美味しさが増してきて驚きました。

 ただし、オールドヴィンテージはその状態が開けてみないとわからないというリスクが付きものであることをお忘れなく。高価な買い物になりますので、そのためにも信頼できるショップで買うこと。とりわけインポーターには配慮すべきでしょう。また、オフヴィンテージの場合はワインそのものを楽しむより一緒にお祝いすることが第一であることに意識的でありますように。

 現在、筆者はFacebookに「エチケットは語る」というシリーズで過去に飲んだワインの記事を書いています。1997年篇を今執筆中ですが、当時筆者も若く、一緒にワインを囲む方々はさらに若い方ばかりでしたので、しょっちゅう誕生年のワインを開けていました。そのほとんどが1970年代で、おかげさまで1970年代のボルドーを良い年も残念な年もほとんど網羅的にテイスティングすることが出来ました。当時悪いヴィンテージは値段が安く、五大シャトーでも1984年、1987年といった80年代の残念な年はデパートで7000円くらいで売っていました。70年代のワインも同様で、一万円も出せばたいていのワインは充分購入することが出来たのです。

 それを知っていましたので、25000円のクレール=ミロンを見たとき、「高い」と思わず呟いてしまいました。だって、これにディナーを加えたらレストランでいくら払うことになるのだろう。愛はお金に代えがたい。確かに。しかし、背に腹は代えられぬ。ワインとはかくも罪なものよ。そういつも思う筆者なのです。

今月のお薦めワイン  「イタリアスプマンテの期待のホープ プロセッコ」

「プロセッコ エクストラ・ドライ NV DOCプロセッコ・トレヴィーゾ レ・コンテッセ」 2160円(税別)

 この回はイタリアのスプマンテ(スパークリングワイン)を紹介させていただくことになります。昨年は名実ともにシャンパーニュと肩を並べるロンバルディア州の「フランチャ・コルタ」でした。「フランチャ・コルタ」は地名で、使われる葡萄品種にもシャンパーニュと同じシャルドネ、ピノ・ネッロ(ノワール)が含まれ、製法も瓶内二次発酵を用いています。では、それに対し、イタリア独自のスプマンテは何かと問われれば、その筆頭に挙がるのがヴェネト州の「プロセッコ」ではないでしょうか。

 プロセッコは葡萄品種の名前でしたが、ワイン固有の名前として採用しようと品種名を2010年から「グレラ」種に変更しました。最低でもグレラ種を85%使うことが義務付けられています。ちなみに今回ご紹介する「レ・コンテッセ」のプロセッコはグレラ100%で造られています。また、DOCから出発した格付けはDOCGを名乗れるものも出来、さらにスペリオーレの中の43村だけが名乗れる「リヴェ」、さらには最高の畑と言われる「カルティッツェ」に至っては単一畑名の表記が許されるなど階層化が進んでいます。

 そして、2013年にはシャンパーニュを抜き、世界で一番売れているスパークリングワインとなり、スペインのカヴァを加えて、世界の三大スパークリングワインの一角をなすまでに至っています。

 製法は他の二つとは異なり密閉タンク方式を用いています。そのため、シャンパーニュに感じられる酵母のトースト感(パンのような香り)はなく、葡萄本来の香りとフレッシュでフルーティーな味わいが特徴となります。葡萄の特性からやや甘みを感じるかと思いますが傾向としてはやはりシャンパーニュに合わせるべく辛口に仕上げるのが主流で、今回ご紹介するプロセッコも「エクストラ・ドライ」、爽快感のある辛口仕様となっています。アルコール度数はシャンパーニュよりやや低く10~11%。このプロセッコも10%です。そして、何より大量生産が可能ですので価格的にリーズナブルなことが多くの方に選ばれる理由の一つと言えましょう。

 造り手の「レ・コンテッセ」はコネリアーノ地区にあるスプマンテを得意とするカンティーナ。最新の技術を用いて、プロセッコに関しては通常のガス圧より高い5.3気圧に上げて生産しているとのこと。こうして、一週間ほど寝かせておくと泡がワインに溶け込み、シャンパーニュ方式のような綺麗できめ細かい泡になるそうです。シャンパーニュとは一味違った軽やかで爽やかなフレッシュな味わいを是非気軽にお楽しみください。

ご紹介のワインについてのお問い合わせは株式会社AVICOまで

略歴
関 修(せき・おさむ) 一九六一年、東京生まれ。現在、明治大学他非常勤講師。
専門は現代フランス思想、文化論。(一社)リーファーワイン協会理事。
著書に『美男論序説』(夏目書房)、『隣の嵐くん』(サイゾー)など、翻訳にオクサラ『フーコーをどう読むか』(新泉社)、ピュドロフスキ『ピュドロさん、美食批評家はいったい何の役に立つんですか?』(新泉社)など多数。
関修FACE BOOOK
関修公式HP

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