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『春風亭与いちの二ツ目日記』第十二回「梅雨」

東京もようやく梅雨入りし、蒸し暑い日に拍車がかかってきました。
年間で最も早く過ぎ去って欲しい季節到来です。
天然パーマの私に取っては日々、湿度との戦いです。
今は短くしているのでなんとか誤魔化せるのですが、学生の頃は色気づいて、髪をひたすら伸ばしてました。
前髪は重ければ重いほどカッコいい。
目が前髪で隠れていてこそ漢だ。
そう思ってました。
ただ、現実は思い通りにいかず、その伸ばした髪が一本残らず縮れ、若い頃の鶴瓶師匠のようになっていました。
師匠にその事を話したら、「贅沢な悩みだ」と一蹴されました。
髪型にこだわりがあるかと聞かれると、そんな事はなく、床屋は安ければいいと思っている。
前座の頃通っていた近所の床屋は、おじさんが1人で営んでいる"ザ・街の床屋"だった。
自分以外の客がいるところを見たことがなく、
行くと、亭主が大抵プレステをやっている。

「(ポチポチポチ)…あ、いらっしゃーい。(ポチポチポチ)」

僕の存在を確認してから暫くプレステをいじり続ける。
おそらくキリのいいところまでやりたい、ということだろう。
それくらいはまだ良い。
一度、オンライン通信をしていることがあった。

「あははは!…あ、ごめん、お客来た。あと頼んだわー。はい、いらっしゃーい。」

かなり気まずい。
あと、お客さんのこと「お客」っていうタイプだったのをそこで知った。
椅子に座って、目の前の鏡の下にある僅かな幅の棚に千円札を置いたら、カットスタート。
という仕組み。
大道芸人かよ。
と、いつも心の中でツッコミを入れる。
少しこのご亭主に歩み寄ってみようと思い、

「なんのゲームされてるんですか?」
「んーーー、モンハン。」

友達かよ。
たまたま同じゲームをプレイしたことがあったので少し盛り上がった。

「仕事なにしてんの?」
「落語家です。」
「へぇー、僕ね、春風亭一之輔さん好き。」
「あ、僕の師匠です。
「え!本当に!?」

何故かそのまま師匠のラジオを一緒に聴いた。
完成して、後頭部を鏡で見せてもらう。
気になる所があったので、もう少し切ってもらおうとしたら、

「切り直しとかはやってないからー。はい、お疲れさまー。」

掴めない。
さっきまであんなに盛り上がってたのに。
何故この床屋に3年も通ったのか。
そして二ツ目になり、今は美容師になった友人に切ってもらっているのですが、もう最高です。
話が弾むわ、細かいとこまで切ってくれるわ。
ノンストレスな散髪ライフを送っております。
久しぶりにあのご亭主の刺激的な散髪も受けてみたい。
元気にしてるかなぁ。

略歴
春風亭与いち
1998年4月5日生まれ
2017年3月、春風亭一之輔に入門。
翌年1月21日より前座となる。前座名『与いち』。
2021年3月1日より二ツ目昇進。

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