by Masashi Shimada
5月の落語会は林家たま平さんの登場です。この春に真打に昇進されたつる子師匠の番頭として大忙しだったたま平さん、きっと自分も1日でも早く真打にとメラメラと闘志を燃やしているでしょう。
もはや初夏とも感じる5月の落語会、29日には30歳を迎えるたま平さんがどんなお噺を聞かせてくれるのか楽しみです。
第二十四回『銀座の仕立屋落語会・たま平クロークルーム』
日時:5月26日、日曜日
12時45分開場 13時開演 終演14時30分ごろ
場所:ザ・クロークルーム
出演:林家たま平
開口一番 世話人:山本益博
会費:2,500円(税込)現金のみ
申し込み、お問い合わせは info@thecloakroom.jp まで (落語会の受付はメールのみ)
略歴林家たま平1994年5月29日生まれ2013年4月、実の父でもある九代目林家正蔵に入門。2017年11月より二ツ目昇進。
2019年放送のドラマ「ノーサイドゲーム」などドラマや映画などの出演多数。
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by Osamu Seki
筆者が松重豊氏主演のテレビドラマ『孤独のグルメ』(テレビ東京系)を好んで見ている話をさせていただいたことがあるかと思います。大晦日の特番は必ず見ますし、再放送も時間があるときは何度目でも見てしまいます。どの店も個性的ですが、印象に残る店がいくつかありました。中でもとりわけ気になったのが、鎌倉の由比ガ浜にある「シーキャッスル」という店。名前こそ海岸沿いのサーファー御用達のカフェかと思いきや、何と落ち着いた雰囲気の本格的なドイツ料理店だったのです。しかも、かたせ梨乃さん演じるマダムがちょっと気難しそうでなんともドイツ風。ドイツと言えば、「シュヴァルツ・ヴァルト(黒い森)」と呼ばれる暗いイメージで、ゲーテもニーチェも光を求めて、イタリアへの旅に出たのは有名。つまり、海岸沿いとはまったく「場違い」な雰囲気の店だったのです。
実際はドイツ人のご家族が営まれる店で、筆者は機会があれば是非訪れてみたいと思っていました。ところが二〇二二年の十一月閉店したとのこと。何と六十五年もの歴史ある店だったそうです。ドイツ料理とは縁がない筆者ですが、大学院生時代、お世話になった先生が懇意にしていたシェフがカイテルさんというドイツ人で京王プラザホテルなどで活躍され、ちょうど新宿に「カイテル」という店を開業された(一九八六年)ので何度か伺うことがありました。その「カイテル」もカイテル氏が亡くなった後、奥様が継がれたようですが閉店となったようです。
ああ、「海岸沿い」のドイツ料理店なんて、そう滅多にお目にかかることがないのにかえすがえす残念に思っていたところ、『ミシュラン東京』掲載の「按田餃子」の按田優子さんから思いもよらぬ吉報が。按田さんは筆者が大学での卒論の指導教員を務めたのが縁で今も懇意にさせていただいております。按田さんは数年前、神奈川県三浦市に移住され、一度伺わせていただく話が出た際に、何処か食事をするのに適したレストランはないかと尋ねたところ、野比海岸沿いに「ロシア料理店」があるとのこと。その名も「火の鳥」。おお、「海岸沿い」のドイツ料理店もさることながら、ロシア料理店とはこれまた「場違い」はなはだしい。これは出かけない訳にはいきません。なかなか機会がなかったのですが、この春休み、とうとう出かけることと相成りました。
按田さん曰く、結構昔からあるらしい。調べると確かに一九九五年開店とあり、三十年になるかという老舗。店名の「火の鳥」というのはおそらくロシア人作曲家ストラヴィンスキーのバレエ音楽「火の鳥」からでは。一九一〇年、パリでロシア人演出家ディアギレフ率いるバレエ団が初演しました。東京のロシア料理の名店が今はなき芝の「ヴォルガ」をはじめ、新宿「スンガリー」、銀座「ロゴスキー」、六本木「バイカル」、浅草でさえ、「マノス」、「ラルース」、「ストロバヤ」とカタカナ表記のロシア語風なのに対し、「火の鳥」というネーミングは確かにロシアを連想させるもののやっぱり「場違い」感満載。
あいにくの雨模様の日となってしまいましたが、三浦海岸駅から久里浜へと海岸沿いに車を走らせると確かにその店はありました。驚いたのは海に向かって、外壁に「火の鳥」と赤い字で大きく店名が書かれていたこと。それが長年風雨にさらされ、また何とも微妙にかすれているのです。一階のガレージが四台分の駐車場になっていて、向かって一番右のスペースに車を停めたのですが、またまた驚いたのは右端の柱に表札がかかっていたのです。あれ、これは住居でもあるのか。まあ場所柄、当然と言えば当然なのですが、「シーキャッスル」同様家族経営なのだろう、と。
店内に入ると海が見えるよう、鰻の寝床風に上手にテーブルが配置され、厨房にいた中年のシェフらしき男性が明るくいらっしゃいませ、と。接客の同じくらいの年齢のご婦人が奥様なのかな。あれ、老舗なのに。もう代替わりしてしまったのか。と思いきや、厨房にはご老体のシェフの姿も。さらに常連らしき老婦人と皇室話で盛り上がっていたのが大女将であることに気づきました。あと、「研修生」と名札をつけた若い女性がサーヴィスに。
ボルシチにピロシキ、ストロガノフと日本のロシア料理店で出される典型的な料理がメニュに。中でも売りは「壺焼き」らしく、中身のシチューが十種類もありました。ユニークだったのはそれらをコースやセットとして組み合わせたものがこれでもかと何頁も書かれていて、かえって選ぶのが大変だったことです。筆者は主だった料理がすべて楽しめる「スペシャルコース」を選びました。ボルシチ、サラダ、ピロシキ、小さな壺焼き、ハーフサイズのラムステーキにデザートとロシアンティー。他に食べてみたかった「ビーフストロガノフ」を単品で注文して、同行者とシェアしました。以前この連載で取り上げた「ロールキャベツ」はメニュにありませんでした。
筆者はロシア料理では「ピロシキ」が好物で、とりわけ浅草の「ストロバヤ」の「ピロシキ」が気に入っています。ナツメグの効いた挽肉がたっぷり入っていて肉肉しい。「火の鳥」の「ピロシキ」は揚げておらず、バターのたっぷりのパン生地にフィリングを入れ焼いたもの。噛むとジュワっとバターが滲んで中の具と合わさってこれまた美味。しかし、一番気に入ったのは「ラムステーキ」でした。何かにマリネしてあったのか、しっかり火の通ったラムでしたが思ったより柔らかく、これがまた美味しい。玉葱の効いた醬油ベースのソースが絶妙。おそらく「シャリアピンステーキ」のヴァリエーションか、と。歯の悪かったロシアの名バス歌手シャリアピンが来日し、帝国ホテルに泊まった際、シェフが考案した料理。すりおろした玉葱でマリネして柔らかくした牛肉を薄くたたいて、ステーキにし、その玉葱をソースに。「ミニッツステーキ」の応用編。実際、ラムの他に牛肉のステーキもメニュにありました。でも、ここは仔羊をチョイスして正解でした。
ワインはさすがにロシアワイン、といってもほとんどはグルジアワイン、今はジョージアと言っていますが、旧ソ連だった地域のワインは置いてありませんでした。その代わり、黒板に今日のワインとして、赤はスペインのビオワインが載っていましたので、これ幸いと注文した次第。ナヴァラの産で、テンプラニーリョとメルロの混醸。最初、冷え過ぎで味が分からなかったのですが、室温に戻ってくるとなかなかいける。重すぎず、この店の料理にはちょうど良い塩梅。
それほど食べ歩いた訳ではありませんが、都内の有名ロシア料理店に劣らない出来の料理の数々。そんなレストランが何故、こんな海岸沿いに。海水浴姿のお客様は入店お断りと入り口に札がかけられているし。確かに、かたせ梨乃風の近寄りがたいオーラを出すマダムはおらず、アットホームな家族経営のお店で、ご近所さんが気軽にランチに来られるような店ではありました。
別荘地と住宅地の中間、いわゆる「境界例(ボーダーライン)」ともいうべき立地が生み出す不思議な雰囲気が「火の鳥」という名に暗示されているように思われました。按田さんの料理が按田優子という人間のライフスタイルと不可分なように、この三浦の地は独自の文化圏を成しているのではないか、と。
「火の鳥」、今度行ったら筆者は迷うことなく、メニュを決めることが出来るでしょう。その日がまた来ることを願っています。ご馳走さまでした。
今月のお薦めワイン 「トスカーナの最高峰〈ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ〉――多彩なサンジョヴェーゼ種を楽しむ――」
「ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ 2017年 DOCG ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ フォッサコッレ」9920円(税別)
今回はイタリアワインの回。前回、ピエモンテ州のネッビオーロ種から造られる「ガッティナラ」を紹介させていただきましたので、今回はイタリアの二大産地のもう一つトスカーナ州のワインを。トスカーナの主要品種は「キャンティ」の主原料となるサンジョヴェーゼ種です。ネッビオーロ種はブルゴーニュのピノ・ノワール種同様、どの地域でも同様ですが、サンジョヴェーゼ種はちょっと事情が異なります。地域によってそれぞれ、その亜種からワインが造られているのです。そして、その最高峰がブルネッロ種で、「十九世紀半ば、フェルッチノ・ビオンディ・サンティによって、モンタルチーノでサンジョヴェーゼ種から分離された力強いクローンで、質的に重要である」とジャンシス・ロビンソンは書いています(『ワイン用葡萄ガイド』、ウォンズ、1999年)。
他のサンジョヴェーゼ種の亜種には、プルニョーロ・ジェンティーレ種から造られる「ヴィーノ・ノビレ・ディ・モンテプルチャーノ」、モレッリーノ種から造られる「モレッリーノ・ディ・スカンザーノ」があります。
そして、ブルネッロ種から造られるのが「ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ」でサンジョヴェーゼ系の葡萄から造られるワインでは最も高価なものになっています。「力強い構成を持つこのワインは、樽と瓶で熟成して温かみがあり、充分な香味を持つ深いルビー色からレンガ色までの豊かで複雑なブーケのあるワインになる」(バートン・アンダースン『イタリアワイン』、早川書房、2006年)。
また、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノは長熟用の造りで飲み頃まで時間がかかることもあり、同じブルネッロ種を用いて、早飲みで値段もより手頃な「ロッソ・ディ・モンタルチーノ」が1980年代から造られるようになっています。筆者は何種類かロッソ・ディ・モンタルチーノを飲んできましたが、どれも味が単純で軽すぎるように思われました。やはり、ここは葡萄品種の特性を最大限に生かした「ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ」を選ぶべきでしょう。
ということで、今回選んだ「ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ」はフォッサコッレという、モンタルチーノで最高のロケーションに2.5haを所有する小さな家族経営の造り手のものです。古き良き時代の造りを彷彿とさせる骨太でずっしりとした味わいの逸品をこの機会に是非お試しあれ。
略歴関 修(せき・おさむ)
一九六一年、東京生まれ。現在、明治大学他非常勤講師。専門は現代フランス思想、文化論。(一社)リーファーワイン協会理事。著書に『美男論序説』(夏目書房)、『隣の嵐くん』(サイゾー)など、翻訳にオクサラ『フーコーをどう読むか』(新泉社)、ピュドロフスキ『ピュドロさん、美食批評家はいったい何の役に立つんですか?』(新泉社)など多数。関修FACE BOOOK関修公式HP
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by Masashi Shimada
数多くの経営者や著名人のスタイリングを手がけ日本を代表するファションディレクターの一人である森岡弘。元NHKアナウンサーでスポーツ実況やイベントの司会を数多く手がけ、現在はその技術を活かした「伝え方講座」を精力的に開催する河村太朗。その二人によるスペシャルセミナー「トップに学ぶ成功の法則 信頼を獲得するための装いと言葉」が5月14日にザ・クロークルームを会場にして開催されます。ご興味お有りの方は是非ご参加ください。
お問い合わせはinfo@thecloakroom.jpまで、お申し込みは画像をクリック、またはQRコードから承ります。
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by Yoichi Shumputei
花粉がひどい。酷すぎます。まず、鼻水が止まりません。自分の体内にこんなにも水分があったのかと思い知らされるほど出てきます。朝起きて、鼻かんで、顔洗って、鼻かんで、トイレ行って、鼻かんで、鼻かみながら朝食食べて。もう顔の中心部だけ真っ赤です。日の丸顔。もう痛いだけで、匂いも感じないですし、今の鼻の役割はメガネを受け止めているだけです。かなりコスパの悪い部位に成り下がりました。目も痒すぎです。一度、眼球を取り外して水洗いしたいくらい。そして体感ですが、例年より花粉飛散時期がかなり長いです。この辛い時期は春だけの約束(してない)なのに、年末から続いてます。時間外労働が過ぎます。花粉、かなりブラックです。流石にたまらず、先日ついに耳鼻科に行きました。そこで処方された薬がかなり効くのですが、それ以上に副作用の眠気に襲われております。今となっては、つらい・痒いより、ひたすらに「眠い」です。今も半分寝た状態で書いているので、政治的な危ないことを言ったとしても許してください。「国内にある全てのスギ・ヒノキを去勢します!」という政党が出てきたら投票したいと思います。あぁ、眠い眠い。先日、また珍しいお仕事を頂戴しました。この春から、宮城の新聞社、「河北新報社」さんの電子版「河北新報オンライン」の広告キャラクターを務めさせていただくことになりました。いぇい!子供の頃から読んできた新聞社です。既に紙の新聞を購読されている方は月々たったの500円で、スマホやタブレットでも読めるようになります。月々たったの500円で!スマホでも!タブレットでも!新聞が!読めるように!なります!月々たったの!もういいですね。初のCM撮影。今回のための新作落語を作家さんが作ってくださいまして。15秒のCMなのですが、その台本、どう見ても5分かかる長さで。「フルバージョンをYouTubeで配信しようと思っておりまして!」なるほど、しかし撮影まで数日しかない。ネタ下ろしもあり、覚えられず。撮影日をずらせなかったので、フルバージョンでは台本を読み上げる形に。映像はその場面毎に合わせた表情と仕草の、静止画でお届けすることになりました。ボラギノールのCMと同じシステムです。恐らく世界初、ボラギノールシステムの落語。ぜひご覧ください。薬もらう前に撮ったので、鼻赤くなってます。
略歴春風亭与いち1998年4月5日生まれ2017年3月、春風亭一之輔に入門。翌年1月21日より前座となる。前座名『与いち』。2021年3月1日より二ツ目昇進。
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by Osamu Seki
毎年、この『美食通信』執筆のご褒美に主宰の銀座「The Cloakroom」の島田さんからグランメゾンでの食事に招待していただいております。昨年は、開店間もない銀座七丁目の「トワヴィサージュ」にお連れ下さりました。サーヴィスのユニフォームを島田さんのお店でオーダーで作られたとのこと。素晴らしい店でミシュランでもネットで紹介されたとのこと。おそらく星を取るだろうと予想したところ、その通り今年一つ星を獲得しました。
さて、今年は何処に連れて行って下さるのかと思いきや、有楽町の「アピシウス」を予約されたとのこと。一昨年は開店したばかりの銀座六丁目の「グッチ・オステリア・ダ・マッシモ・ボットゥーラ・トウキョウ」(長い!)でしたし、まさか老舗中の老舗の「アピシウス」とは。その心は「アラカルトで食する」をテーマにしたいと。なるほど。筆者はことある度に現在のグランメゾンでの「お任せコース」を「押し売りコース」と批判し、グランメゾンこそ高い金を払うのだから、自分で食べたいものを決める「アラカルト」こそ理にかなっていると申し上げてきました。また、実際、筆者がパリでグランメゾンを食べ歩いた三十年ほど前はアラカルトが常識だったのですから。
「アピシウス」は一九八三年創業。有楽町の蚕糸会舘の地下一階にあります。銀座の名店「レカン」、「ロオジェ」、「マキシム」などよりは一世代後の老舗となります。高橋徳男氏がシェフだった一九九五年、見田盛夫氏の『エピキュリアン』(講談社)で東京(即ち日本)最高峰のフレンチと称賛されています。筆者は世紀が変わる二〇〇〇年頃訪れたことがあるのですが、個室での会食でしたのでメインのホールは今回初めて拝見しました。ただ、この時はすでにシェフが交代し、見田氏も二つ星に格下げし、「サーヴィスにも緊張感がとぼしく、皿の上にも綿密な配慮にもとづいたバランスが感じられないものが多かった」と評しています(同氏、『エピキュリアン2000』、丸善)。
今回四半世紀ぶりの訪問となるのですが、近年、「アピシウス」の評判は再浮上し、二〇二四年版の『ミシュラン東京』に星こそ付いていないものの掲載されるに至っています。ただ、調べるとシェフはベテランで高橋門下の「アピシウス」一筋の方のようですし、ある種の温故知新なのではないかと予想されました。それでも「アラカルト」でいただけるというのはワクワクするものです。メニュを開いて、料理を決めるのは想像力=創造力を働かせる必要があります。たとえ、オードブル、メイン、デセールの三皿であってもそれぞれ何種類かある料理の中から組み合わせるのですから、その可能性は何十、いや何百通りもあり得るからです。
また、ご一緒する方が何を選ばれるかも気になるところです。別にまったく同じチョイスになったとしても構いません。重要なのは自分が一番食べたいものを頼むことです。そうすると意外に同じものを頼むケースは少なくなります。実際、筆者と島田さんのチョイスはまったく被りませんでした。オードブルに島田さんはフォアグラのテリーヌを、筆者は同じフォアグラでもポワレをチョイスしました。筆者はフォアグラは火が通った方が好きです。というか、もう温製でないと食べたくないかも。
さて、次はもうメインでよいのですが、メニュに季節のお薦めという項があり、ホワイトアスパラガスのオランデーズソースがありましたので、口直し程度に一本ずつ頼んでみました。ここは島田さんにお付き合いいただいた次第。料理はまったくのクラシックで丁寧な仕事ですがこの二皿は普通の出来。もちろん、悪くはないが閃きはない、といった感じ。メインは島田さんが子羊で筆者はシャラン鴨のサルミソース。このサルミソースは良かった。鴨の血のソースなのですが豚の血も混ぜているとのこと。何が良いかというとソースの味がまず良かった。滑らかで味が強くはないがコク深く飽きがこない。それが皿一面に敷きつめられた薄切りされた鴨肉にこれでもかとかけられて出てくる。この薄切り具合がまた絶妙。ソースと絡めてちょうど一口で食べられる。これは素晴らしい古典の再現でした。
次はデセールで良かったのですがワインがまだ余っていましたので、フロマージュを少々。これも種類が豊富で各々二種類ずつ頼みましたがやはり被りませんでした。デセールは懐かしいグランデセールがワゴンで登場。何種類ものケーキをお好きなだけどうぞというスタイル。ただ、筆者はこのスタイルはもう必要ないかと思っています。デセールとはいえ、やはり皿で勝負するべきだ、と。実際、いにしえのパリでもそうでした。で、デセールのメニュを取り寄せるとやはりあるではありませんか。パティシエは別の方のようで、これもまた昔ながらのグランメゾン。あるいはホテル方式と言えましょうか。島田さんはフロマージュムース。筆者はフォンダン・ショコラ。まあ、これは及第点といったところ。
さて、今回最大の収穫はやはりワインではなかったかと思われます。立派なワインリスト。見田氏はとりわけボルドーワインの揃いが良いと書かれていましたがそれは今も変わらないようです。島田さんが余り飲まれませんので食前酒などはやめて、ボトルで頼んで最初から楽しむことに。筆者はブルゴーニュが飲みたかったのですが、こちらもなかなかのもの。グランメゾンですから二万円からになりますが、ブルゴーニュのグランクリュのワインでも二万円台があるのには驚きました。レストランのワインは小売価格の二倍というのが通例ですが、近年ブルゴーニュは高騰していますので、カーヴに寝かせておいたワインをレストランで飲んだ方が安いという逆説が今回筆者が選んだワインに当てはまることに。
筆者が選んだのはモレ=サン=ドニ村のグランクリュ「クロ・ド・ラ・ロシュ」の2013年。造り手はマルシャン・フレールで三万六千円ほどでした。「クロ・ド・ラ・ロシュ」には他に二万円台、八万円台、九万円台と全部で四アイテムあり、すべて造り手が異なっていました。ブルゴーニュの場合、造り手によって価格がまったく異なってくる好例です。マルシャン・フレールは筆者の好きな造り手で価格も良心的。「クロ・ド・ラ・ロシュ」には4アールのみ所有しており、毎年一樽300本しか造っていません。ちなみに最新の2021年ヴィンテージは小売価格五万円です。
さて、最後にグランメゾンの評価の大きな要因であるサーヴィスについて。四半世紀前の見田氏の苦言もまずサーヴィスに向けられていたことを忘れてはいけません。筆者の評価はくしくも島田さんがサーヴィスの服装を評価されたことに合致します。さすがファッションのプロ。筆者とは視点が異なりますが本質を見抜かれていました。島田さんはサーヴィスのユニフォームが合羽橋辺りで売られている既製品でフィットしておらず、靴も安っぽくていけないとおっしゃったのです。
確かにホールは満席で客の数はそれなりに多かったのですが、サーヴィスの数が多すぎる気がしました。ばたばたした感じがしました。また、一通り片付くとホールの外で突っ立って皆で談笑しているではありませんか。まさに「緊張感が足りない」。黒服に加えて、白服の「コミ(助手)」というスタイルは昨今見かけず貴重な「型」なのかもしれませんが、形だけ整えても内実が伴わなければ形式「美」にはなりえないのです。
くしくも『ミシュラン』が星を付けなかったのも致し方ないと言わざるを得ません。調度は贅沢で雰囲気はノスタルジック。確かに魅力的で貴重な経験ではありますが、絶滅危惧種を「見学」に行くようなそんな趣の食事でした。それにしても満席とは。島田さんに心から感謝します。四半世紀前から変わらず筆者には縁遠い世界だと痛感した次第です。
今月のお薦めワイン 「コート・ドールの村名ワインを楽しむ――コート・ド・ニュイ最大の産地〈ジュヴレ=シャンベルタン〉はいかが?――」
「ジュヴレ=シャンベルタン メ・ファヴォリット 2021年 AC ジュヴレ=シャンベルタン エリック&ジャン=リュック・ビュルゲ」16500円(税別)
ブルゴーニュの赤を飲もうと思ったとき、やはりコート・ドールのワインに尽きると思われます。しかも、その中で北側のコート・ド・ニュイと南側のコート・ド・ボーヌだったら、やはりニュイのワインではないか、と。これはボルドーであれば、左岸のメドックか、右岸のリブールヌかという好みの選択に似ています。ただ、ボルドーであれば、メドックはカベルネ・ソーヴィニヨンが主で、リブールヌはメルロが主という葡萄品種そのものの違いがあるのに対し、ブルゴーニュはあくまでどれもピノ・ノワール100%ですから、その微妙な差異が好みを左右するという「繊細さの精神」(パスカル)が重要性を持っています。
しかも、ニュイのワインと言ってもメドックのようにアペラシオンが複数あります。どの村にするかが問題。しかも、ブルゴーニュは明らかにボルドーより高価。筆者のような貧乏大学講師が手を出すべきではないのですが、それでもそれなりの楽しみ方があるかと思います。
それはグランクリュやプルミエクリュ、さらに畑名ワインも無視して、村名ワインに特化して楽しむという手法。ボルドーはシャトー別ですが、ブルゴーニュの魅力は造り手の数が膨大であること。つまり、同じ村名ワインでも造り手が多いのでそれさえ網羅するのは難しいかと思われます。
で、筆者が今、好んで探しているのがニュイ最大の産地、ジュヴレ=シャンベルタンの村名ワインです。しかも村名ワインはだいたい二種類造られていて、スタンダードなキュヴェの上に、古樹の葡萄を厳選して造られた「ヴィエイユ・ヴィーニュ(V.V.)」と記されたキュヴェがあるはずです。
今回選んだエリック&ジャン=リュック・ビュルゲでは「サンフォニー」とこの「メ・ファヴォリット」の二種類の村名ワインを造っていますが「メ・ファヴォリット」が「ヴィエイユ・ヴィーニュ」に相当し、所有する二十六区画の平均樹齢七十年にもなる葡萄を使用し、除梗して醸造、新樽30%で二十ヶ月の長期熟成。
ドメーヌは1974年、アラン・ビュルゲが設立。ジュヴレ=シャンベルタンの代表的造り手として名声を博します。現在は子息のジャン=リュックとその息子で孫のエリックの名を冠したエリック&ジャン=リュック・ビュルゲとエチケットに記しています。アランの時代より有機農法を実践し、「自然との共存」をコンセプトに2013年からはビオディナミを採用しています。現在でも7haの所有で、他には少量のネゴシアン物のヴォーヌ=ロマネ等を生産するのみで丁寧なワイン造りを続けています。
是非この機会に魅力的なジュヴレ=シャンベルタンの逸品をお試しあれ。
ご紹介のワインについてのお問い合わせは株式会社AVICOまで
略歴関 修(せき・おさむ)
一九六一年、東京生まれ。現在、明治大学他非常勤講師。専門は現代フランス思想、文化論。(一社)リーファーワイン協会理事。著書に『美男論序説』(夏目書房)、『隣の嵐くん』(サイゾー)など、翻訳にオクサラ『フーコーをどう読むか』(新泉社)、ピュドロフスキ『ピュドロさん、美食批評家はいったい何の役に立つんですか?』(新泉社)など多数。関修FACE BOOOK関修公式HP
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by Yoichi Shumputei
最近、有難いことに少しずつ落語以外の仕事もいただけるようになってきまして、この間は初めてテレビのロケに行ってきました。これがとにかく難しい。的確な情報と、新鮮で分かりやすいリアクション。普段やらないことだらけで、結果は惨敗でした。まず初めに伺ったのは私が出囃子でも使わせていただいている、宮城のテーマパーク、八木山ベニーランドさんです。気温は2度。風が強く、雪も降ってくる中、着物でのロケ。極寒です。男物の着物は、襟から袖からとにかく風が吹き込む吹き込む。するとディレクターさんが、「さ、与いちさん、まずはジェットコースターに乗ってもらいます!」殺す気か。とにかくなんでも挑戦です。冬季休業中ということもあり、1番迫力のあるジェットコースターではなく、比較的優しい子供向けのやつ。「なるべくオーバーなリアクションでお願いします!」無茶言わないでくださいよ。と思ったのですが、終わったら「いやー、良い表情でしたね!」寒いからですよ。続いて人生初の食リポ。その園内で販売しているフライドポテト。これが揚げたてで美味い!寒いのも相まって本当に美味い!とにかく美味い!美味い!!…はい、そうです。本番でも「美味い!」しか言えませんでした。「与いちさん、もう少し感想をいただけませんか?」そりゃそうですよね。「えーーーーーーーーーーー、この塩加減がちょうど良いですね!いや〜、この塩加減がね!最高ですね!塩加減!」いい加減にしろ。俺。いざ何か言わなくてはとなると何も出ませんでした。僕は塩加減しか分からない男です。次に伺ったのはバングラデシュ人のご亭主が営むカレー屋さん。バングラデシュの本格スパイスカレー3種盛りを頂きました。そしてこれも美味い!美味い!!またしても「美味い!」しか出てきません。見かねたディレクターさんが、「与いちさん、その豆が柔らかく煮えてませんか?」「おっ、確かに柔らかくて美味いですね〜!」「…ね、でそのカレーはスパイスが効いていて後から辛さが来ませんか?」「おっ、スパイスが効いていて後から辛さが来ますね〜!」もうディレクターさんが直接やった方がいいくらいの無能っぷり。「じゃあ与いちさん、このロケをなぞかけで締めていただきましょう!」勘弁してくれぇ。なぜか噺家なら誰しもできると思われているこの"なぞかけ"という地獄の遊戯。僕は死ぬほど苦手なのです。しかし背に腹はかえられません。下手ななぞかけでしたが、恥ずかしがってはいけないと、とにかく大きな声でやりました。「ではご亭主、ただいまの与いちさんのなぞかけ、座布団5枚中何枚でしょうか!」何故5枚中なのか。相場は10枚じゃないのか?と、一瞬思いましたがそんなことはもうどうでもいいです。とにかく何か起こってくれ。ご亭主「ザブトン、5マイ アゲチャウヨ〜!」私「お、ありがとうございます。今のなぞかけ良かったですか?」「ウン!意味ワカンナイケド、声オオキイカラ、イイネ!」じゃあ、なぞかけじゃなくて良かったんじゃないか。とかも、もうどうでもいいです。とにかく山場をくださってありがとうございました。バングラデシュのご主人。またプライベートでカレー食べに行きます。
略歴春風亭与いち1998年4月5日生まれ2017年3月、春風亭一之輔に入門。翌年1月21日より前座となる。前座名『与いち』。2021年3月1日より二ツ目昇進。
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by Masashi Shimada
1733年創業という群を抜いた歴史を持つイタリア最高峰の生地メーカー『PIACENZA』の取扱が始まりました。イタリアで70%のシェアを持つといわれるカシミアからクラシックで機能的なスーツ素材までフルラインナップ。
紡績から生地の仕上げまで全ての工程をを自社で手がけるイタリアの一貫紡は本当に素晴らしい。ロロピアーナも、ゼニアも、コンセプトがしっかりしていて一から十まで全てを自社でコントロールできる強みが存分に発揮されています。
その中でも『PIACENZA』は一貫してクラシック、そしてハイエンド。「あ、これが歴史、これが本物なんだな」と感じることができるコレクションです。
日本ではここまで品揃えをしているお店は少ないと思います。新たに自信を持ってお勧めできる品揃えが増えました。ぜひ一度ご覧になってみてください。
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by
3月の落語会は「春風亭与いちの二ツ目日記」の連載でお馴染み「春風亭与いち」さんの登場です。与いちさんの出番は昨年9月以来、どんなお噺を聞かせてくれるのか、期待しましょう。
第二十二回『銀座の仕立屋落語会・与いちクロークルーム』
日時:3月24日、日曜日
12時45分開場 13時開演 終演14時30分ごろ
場所:ザ・クロークルーム
出演:春風亭与いち
開口一番 世話人:山本益博
会費:2,500円(税込)現金のみ
申し込み、お問い合わせは info@thecloakroom.jp まで (落語会の受付はメールのみ)
略歴春風亭与いち1998年4月5日生まれ2017年3月、春風亭一之輔に入門。翌年1月21日より前座となる。前座名『与いち』。2021年3月1日より二ツ目昇進。
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by Osamu Seki
今年初めての元代々木町「シャントレル」での食事を前に中田シェフから「メインはシューファルシということで」とのメールが入りました。寒い冬の時期、シャントレル定番のメイン料理の一つにこの「シューファルシ」があります。「シューファルシ」はフランスオーベルニュ地方の郷土料理でキャベツを丸ごと使ったロールキャベツのこと。シェフが修業されたオーベルニュ地方サンボネ・ル・フロワ村にある三つ星レストラン「レジス・マルコン」のスペシャリテ。キャベツに挟むひき肉はマルコンでは豚肉なれど、福島県川俣町の「川俣シャモ」を用いているところが中田流。さらに鶏肉ではオイリーさが足りないのでフォアグラを忍ばせるところが憎い。身も心も温まる逸品。
しかし、思い起こせばロールキャベツというのはまさに「おふくろの味」。筆者が子供の頃、必ず食卓に上ることのある料理でした。ゆがいたキャベツで俵状のひき肉を包んで楊枝で止めて、水に溶かした固形コンソメでコトコトと煮込む。それだけ。だいたい肉よりキャベツの量の方が多くて、何か損した気持ちになったものでした。ですので、ナイフとフォークで食べるにしてもキャベツとひき肉を一緒に食することなど稀で、コンソメと肉の味の滲みたキャベツを一口分に切り分け、まずそれを平らげ、むき出しにされた可愛らしいひき肉の残骸を半分か三等分にして食し、最後に残ったスープをいただくといった手順。肉の旨味を充分吸った甘みのあるキャベツがメインの食べ物であることは子供心にも何となく分かるも、やっぱり肉が恋しい気持ちになったものです。
マルコンの流れを汲む中田シェフの「シューファルシ」ももとはと言えば、フランスの田舎の家庭料理を芸術品にまで高めたもの。ただ、筆者はこの「シューファルシ」から今は亡き母のロールキャベツを懐かしく連想することはありません。あれはまったく別物だ。筆者の母は外食を好まず、来客があっても店屋物(出前)をとることは滅多にありませんでした。別に料理上手というほどのことはないと思うのですが、自分の作ったものを子供に食べさせるという信念があったらしいことは、亡くなった後の叔母たちの話からも明白なようです。ですから、今でも筆者はどうしてももう一度食べたいものがあるとすれば、母の作ったある料理に尽きると思っています。「ロールキャベツ」ではないのですが、「おふくろの味」というのは別格なのです。
そんな「おふくろの味」の一つである「ロールキャベツ」などお金を払って外で食べるものではないと当初筆者は考えていたように思います。それを覆すことになったのは、大学生になって、友人に安くて美味しいものがあるから食べに行こうと誘われて、新宿の「アカシア」という店に連れて行かれたときのことでした。今調べてみると洋食屋でハヤシライスやカレー、ポークソテーやクリームコロッケもあるようですが、半世紀近く前に出かけた際は「ロールキャベツ」しかないと思っていました。誰もが「ロールキャベツ」を頼んでいたからです。しかも、その「ロールキャベツ」はコンソメ仕立てではなく、白いシチュー仕立てでした。しかも、安い。「ロールキャベツシチュー」にご飯が付いて、四百円しなかったのでは。美味しいかと言えば、筆者はあまり感動しませんでした。ただただ、「ロールキャベツ」が外食になっているのに驚いた。カルチャーショックでした。
当時、メニュが一つきりということで覚えているのは渋谷百軒店(だな)にある「ムルギー」というカレーの老舗です。筆者は「ライオン」というクラシック喫茶によく出かけていて、そのすぐ近くに「ムルギー」はあり、ついでに寄ってしまう。それは怖い物見たさと言った風で。とにかく店内が暗いのです。厨房だけが妙に明るく、店内の照明はその明かりだけで賄っていたのでは。暗がりを恐る恐る空いたテーブルに座ると、ご老体が水の入ったコップを持って登場し、ボソッと「ムルギー卵入りですね」とおっしゃる。か細い声ながら有無を言わせぬ無言の圧力があり、「はい」と答えざるを得ない。確か店の入り口には何種類かのカレーが書いてあったようななかったような。もう、どうでも良い。出てきたカレーにまたビックリ。ご飯がピラミッド型に盛られているのです。カレールーの味もインド風でもなければ、欧風でもない。茹で卵が乗っているし。当時はネットも何もないので、本か何かで調べたのだと思いますが、老夫婦が営んでおられ、ご夫人が厨房を担当。御主人が第二次世界大戦中赴いたインドネシアで食べたカレーを再現したものらしい。これも美味しいかどうかはよく分からないのですが、あの雰囲気がクセになってしまい、結構出かけました。もちろん、「ムルギー卵入りですね」を聞きたくて。驚くべきは代替わりしたとはいえ、「ムルギー」も「ライオン」も健在なこと。新宿「アカシア」もそうですが、老舗恐るべしです。
閑話休題。さて、あと「ロ―ルキャベツ」が名物なのは「ロシア料理」。こちらはトマト味にサワークリーム。これも何だか怪しいのですが、東京で「ロシア料理」店といえば、浅草。筆者が何度か訪れたのも浅草の「ストロバヤ」です。これは今回調べたのですが、赤坂のロシア料理店で修業した方が浅草で「マノス」を開店。「マノス」出身の料理人たちが同じ浅草で「ストロバヤ」、「ラルース」、「ボナフェスタ」を開店。この四店が老舗であるとのこと。下町の「ロシア料理店」は同じ浅草の「洋食店」、例えば「ヨシカミ」、「グリルグランド」、「リスボン」といった店と似た趣があります。洗練さよりも親しみやすさ、本格的なロシア料理ではなく、日本風にアレンジメントされたもの。フランス料理ではなく、あくまで「洋食」であること。この怪しさがまた魅力的なのですが。なかなか高価な「ロールキャベツ」を食することが出来ます。
結局のところ、「ロールキャベツ」はノスタルジックな料理なのかも。しかも、ちょっとマージナルな(周辺的な)趣が。新宿の安くて美味しい老舗洋食。浅草のロシア料理店。それにフランスの片田舎の郷土料理、と。しかも、意外にも高級フランス料理店で食した「シューファルシ」がシンプルな澄んだスープ仕立てで、家で食していたものに一番近い。巡り巡って、行きつく先は「おふくろの味」ということかもしれません。
今月のお薦めワイン 「メドックの秀逸なる次席〈サン=ジュリアン〉――隠れたる第四級の逸品〈シャトー・ブラネール=デュクリュ〉――」
「シャトー・ブラネール=デュクリュ 2018年 ACサン=ジュリアン 第四級」12000円(税別)
ブルゴーニュ、イタリア、そしてこのクールの最後はボルドーワインです。筆者はワインを本格的に嗜もうと思った際、ボルドーワインを極めることがそれに相応しい方途(メソッド)であると考え、四半世紀近くそれを貫き通しました。ただ、ここ数年はブルゴーニュに関心があります。年を取り、酒量もめっきり減り、重いワインが辛くなってきたからです。それでも長年親しんだボルドーワインへの敬意は変わりありません。ということで、まずはボルドーを代表するメドックの格付けワインから紹介させていただきたく思います。
ボルドーと言えば、五大シャトー。この五大は1855年のメドック格付け(一級から五級)で第一級を獲得した四つのシャトーに、例外的に1973年第二級から昇格したシャトー・ムートン=ロートシルトを加えたもの。筆者がボルドーに決めたのもムートンの1984年に感動したからでした。
格付けされたワインを産するのは四つの村と一つの広域のアペラシオン(オー=メドック)に限られ、第一級はポイヤックとマルゴーだけ(オー=ブリオンは例外でメドックではなくグラーヴのワイン)。第二級になるとサン=ジュリアンとサン=テステフも登場し、オー=メドックは第三級以下になります。
今回紹介させていただくシャトー・ブラネール=デュクリュはサン=ジュリアンの第四級。サン=ジュリアンは第一級こそないものの第二級が五シャトーもあり、そのすべてがスーパーセカンドと呼ばれる第一級に迫る優れもの。色は青インクのように濃く、色を見ただけでサン=ジュリアンと分かる。タンニンのしっかりしたタイトな造りは堂々たるポイヤックとは対照的ながらどちらも品格がある。女性的なマルゴー、土っぽさを感じるサン=テステフ、ニュートラルなオー=メドックとそれぞれが個性的。
ブラネール=デュクリュは色、香り、味わいのすべてに「チョコレートに似た風味」を持つというサン=ジュリアンの中の個性派。固い感じのワインが多いサン=ジュリアンでしなやかさを有し、比較的早くから美味しく飲めるというメリットも。筆者が愛好するシャトーの一つで、パリで二十世紀最大のグレイトヴィンテージの一つ、1945年を購入し開けたこともあります。
サン=ジュリアンの「偉大さ」より「魅力」をお求めなら、迷わずブラネール=デュクリュを選ばれることです。という訳で、今回はグレイトヴィンテージですのでまだちょっと早いかもしれない2018年を選んでみました。今飲んでも良し、もう少し寝かせてから飲んでも良し。この機会に是非、その魅力を体験していただければ幸いです。
略歴関 修(せき・おさむ)
一九六一年、東京生まれ。現在、明治大学他非常勤講師。専門は現代フランス思想、文化論。(一社)リーファーワイン協会理事。著書に『美男論序説』(夏目書房)、『隣の嵐くん』(サイゾー)など、翻訳にオクサラ『フーコーをどう読むか』(新泉社)、ピュドロフスキ『ピュドロさん、美食批評家はいったい何の役に立つんですか?』(新泉社)など多数。関修FACE BOOOK関修公式HP
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by Yoichi Shumputei
暑い、暑過ぎます。この間年を越したばかりかと思えば、2月も半分が終わり、やっと東京でも雪が降り出した矢先、いきなり気温が20度を超す始末。確定申告は未だ終わらず。もう毎日めちゃくちゃです。先日、1月の28日に私の師匠、春風亭一之輔が46歳の誕生日を迎えました。私の友人から私宛にLINEで、「今日、師匠の誕生日じゃん!おめでとー!」と来た。私の誕生日ではないので、返答に困る。師匠、愛されてるなあ。数ヶ月前には、私の独演会に来てくれたお客さん数名に、「あんた、この間の徹子の部屋見たわよー!」と言われた。もちろん出演したのは私ではなく、師匠。「僕も見ました。」としか言いようがない。師匠、愛されてるなあ。毎年1月28日の朝に、我々弟子一同で師匠宅に伺い、誕生日プレゼントを渡す。今では「弟子一同から」として1つのプレゼントを渡しているが、元はそれぞれ1つずつ渡していた。それが切り替わった日を明確に覚えている。四番弟子の貫いちが入って最初の誕生日。それぞれ師匠に喜んでもらおうとプレゼントを選ぶが、"超"かけ出しの我々には高価なものを買えるお金は到底なく。本、マフラー、文房具、ベルト(合皮)。並んだ物はフリーマーケットのよう。かえって師匠に気を遣わせてしまい、「ありがとう。お前たちからは言えないだろうから、来年からは皆んなで1つで大丈夫です。」と、今に至ります。その弟子一同からのプレゼント一発目は完全ワイヤレスイヤホン。昨年のプレゼントとは雲泥の差です。やはり、皆で力を合わせるとそれなりの物が買えるのです。師匠も、「おい!なんで繋がってないのに、繋がってるんだ!!」と喜んでくれました。その翌年はロボット掃除機。そもそも、弟子が家を掃除しろよ、という感じですが。これも気に入ってくれ、初めのうちはコントローラーで操作しながらロボット掃除機の後ろを付いて歩いてました。「普通に掃除機かけた方が早い」なんて野暮なことは誰も言いません。 そんなこんなで今年は携帯用の電動シェーバー。師匠は今までコンビニで買った1500円程の物を使っていました。それもカバーが壊れ、若干刃が剥き出しになった状態でも数日使うため、たまに流血したまま高座に上がっておりました。それを阻止できたはずです。もし今後、血を流しながら高座に上がっていたら教えてください。すぐに買い替えます。
略歴春風亭与いち1998年4月5日生まれ2017年3月、春風亭一之輔に入門。翌年1月21日より前座となる。前座名『与いち』。2021年3月1日より二ツ目昇進。
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by Osamu Seki
事ある毎にお伝えしていると思いますが筆者は「グルメ」ではありません。グルメには類語に「グルマン」があり大食漢という意味からも、美味しいものであれば何でも食べるのが好きというニュアンスだと思います。それに対し、「美食」は「ガストロノミー」、「ガストン」が胃を意味し「食べること」ととしたら、「ノミー」は「ノモス」=法、「律すること」であり、「ガストロノミー」は「食を律すること」即ち「テイスティング」であると筆者は考えます。
筆者は外食を好みませんし、外食するとしたら、基本フランス料理あるいはフランスワインを嗜むことと決めております。「美食」とはある種の専門性を持つものではないでしょうか。フランス料理のシェフがフランス料理を極めようとするなら、それを食する方もフランス料理を食することを極めようと応えるべきでは。これが「美食」であり、食する方は何でも食い散らかしてよいという訳ではありません。
筆者は自宅でフランス料理を食することはありませんが、食後に必ずデセールをいただきます。そこでいつの頃からか、主食の炭水化物を摂らないようになりました。米、パン、麺類。パンを少しは食べますが、例えば、大学での昼食に時間もないので菓子パンをかじったり、ホテルの朝食でクロワッサンを一つくらいとか、まあそんなものです。いわゆる「おかずっ食い」というやつです。
カレーは好物で一週間に一度は自宅で夕食にカレーを食しますが、決まった銘柄のレトルトカレー四種をローテーションで食べています。もちろん、ルーだけであとは野菜系の副菜を食して終わり。デセールがありますので。フランス料理以外の外食で鰻が好みなのも、蒲焼だけ頼めるからです。鰻重は食しません。イタリアンが悩ましいのは料理的には好みなのですがパスタが食べきれないので、一口くらいテイスティングさせていただき、あとは同行者に食べてもらうしかありません。生ものは元々それほど好みではなく、フランス料理を選んだのも基本火が通ったもの、即ち手を加え調理したものがフランス料理の文化だったからでしょう。
ですので胃にもたれる麺類を食することが一番ありません。その中でも滅多に食べないのがラーメンです。何が駄目なのかと言えば、スープの中に麺が浮かんでいるのが許せないのです。パスタはソースにあえてあるのでまだ食べてみたい。蕎麦は軽いので「ざる」ならまだいける。うどんもぶっかけなら少々。ラーメンはスープが命でしょうから、それも麺も残して具だけ食べる訳にもいかず、何とも縁がなさそうな食べ物であることよ。
もちろん、子供の頃は食べていました。インスタントラーメン全盛期の生まれですので。カップヌードルが登場した時は驚きましたが、正直美味しいと思ったことはありません。インスタントラーメンでもう一度食べてみたいと思うのは明星の「劉昌麺(りゅうしょうめん)」です。あくまでスープが他の銘柄と比べて断トツに美味しく思えたからです。まだ諏訪に住んでいた一九七〇年初めの頃の話です。
そんな筆者がラーメンを食する機会をこのところ年一、二回持つようになっています。それは静岡県の島田市にある「ル・デッサン」というラーメン店に出かけるようになったからです。両親が亡くなった後、二人の故郷の静岡市に年に一、二度出かけるようにしているのですがその折、市内にある「カワサキ」というフレンチに出かけています。『ゴ・エ・ミヨ』でミシュランの一つ星に相当する三トック(コック帽)を獲得している名店です。何故か〆にラーメンが出るのでどうしてか、店主の河崎シェフに尋ねたところ、島田の「ル・デッサン」で教わって出しているとのこと。「ル・デッサン」という名前に聞き覚えがあったので、あの増田シェフの「ル・デッサン」と確かめたところ、そうである、と。
「ル・デッサン」というのはもう四半世紀近く前になりましょうか、都営地下鉄大江戸線が開業となった際、新設の牛込柳町駅近くに開業したフランス料理店でした。壁には増田シェフが描かれた絵が飾られている小洒落た店で奥様の暖かいサーヴィスと共に人気の店で筆者もよく通ったものです。ただ、筆者は二〇〇五年に大病をして、九死に一生を得たもののしばらく外出を極力控えねばならなくなりました。そのうち、気づくと「ル・デッサン」は閉店しており、増田シェフご一家は実家のある島田市に帰られたという話を聞いたのです。
筆者はフレンチ以外のことに疎いので、まさか島田に戻られた増田シェフがラーメン店を開かれたとは露知らず。しかもフレンチの時と同じ「ル・デッサン」を名乗られているとは。しかし、事情が分かると納得の行くことばかりで。元々、静岡市のお隣の藤枝市やさらにそのお隣の島田市には「朝ラー」と呼ばれる朝食にラーメンを食する習慣があり、ラーメン店の激戦区であるとのこと。実際、「ル・デッサン」は朝七時から午後一時までの営業で麺が無くなり次第、閉店になります。さらに、増田シェフのラーメンの出汁はホロホロ鳥、鴨などフランス料理の出汁をベースにしたもので牛込柳町時代の延長線上にあることが分かります。
そのような唯一無二(ユニーク)のラーメンは全国区の名店と評価され、この年明け一月十八日放映のTBSテレビでの「今一番美味しいラーメン決定戦!神の舌が選ぶ全国TOP30!最強ラーメン番付SHOW」にもホロホロ鳥の醤油ラーメンが取り上げられ、十五位にランクインしました。
筆者はこの番組を観ようかと思ったのですが、審査委員の一人が場違いで納得が行かなかったので見るのをやめました。ラーメンは専門の評論家が多数いらして、一人は石神某氏とまあ良かったのですが。ここは複数のラーメン専門家にきっちり判定してもらいたかったのに残念です。フランス料理はもっと悲惨で、日本では故見田盛夫氏以外、まともな評論家が皆無という状況。筆者が求めているのは料理評論家ではなく、あくまでフランス専門の評論家の必要性であることを誤解なきよう。
さて、増田シェフご夫妻のご尊顔を拝したく、筆者は島田に朝早くから出かけるのですが、何せこの時以外ラーメンを食しませんので何を選ぶかが至難の業で。というのも、スープの中に麺が浮かんでいるのが許せない筆者としては、同伴者の食するホロホロ鳥だのホタテだののスープは一口テイスティングさせていただきますが自分が選ぶことはなく……。唯一の救いは「まぜそば」でいつもこれを頼んでしまいます。ラーメン通からすれば、邪道かもしれませんがこれがなかなかの美味。花かつおがこれでもかと一面を覆った和のベースにオイスターソースやごま油と中華の要素も加わって旨味満載。筆者でも半分は食することが出来ます。この夏は「冷やし中華」に挑戦しました。アボカド、オリーブオイルで作られたマヨネーズと見た目もフレンチ風でこれも実に美味でした。
この三月に按田餃子の按田優子さんたちと静岡に出かける予定ですので、当然「ル・デッサン」にもお邪魔させていただきます。今度もまた新たなメニュにチャレンジしようと思っていますがまたまた傍流の変化球的なものになってしまうのだけは確かです。それでも多彩な球種を用意して下さっている増田シェフといつも暖かな出迎えをして下さる奥様に心から感謝する次第です。これまでも行列が出来る店ですので、ますます待ち時間が増えませんように。筆者は基本、予約なしに店に出かけることはなく、並んでまで食べるのは苦手ですから。
今月のお薦めワイン 「ネッビオーロはバローロ・バルバレスコだけではない――ピエモンテの逸品〈ガッティナラ〉――」
「ガッティナラ 2017年 DOCG ガッティナラ アンツィヴィーノ」 6620円(税別)
ブルゴーニュの次はボルドーと行きたいところですが、間にイタリアワインを挟んでボルドーの順に四クールしたいと思います。
さて、すでにイタリアのブルゴーニュに相当するのがピエモンテ州のネッビオーロ種100%で造られるワインであることは説明済みです。実際、ブルゴーニュが「ワインの王」と呼ばれているように、バローロが「イタリアワインの王」と呼ばれていることも。ただし、バローロはピエモンテの一村の名であり、ブルゴーニュで言えば、ヴォーヌ=ロマネのようなもの。これもまた、バローロにバルバレスコと言われますし、ブルゴーニュならさしずめジュヴレ=シャンベルタンと言ったところでしょうか。
しかも、バローロ、バルバレスコはピエモンテ州の南部に位置し、北部にもネッビオーロ種100%で造られる銘酒があり、「ゲンメ」に関しては名手ロヴェロッティの逸品を紹介させていただきました。実は北部にはもう一つ重要な地区があります。それが「ガッティナラ」です。という訳で今回は「ガッティナラ」を紹介させてください。
ブルゴーニュのコート・ドールでは北部のニュイの方が赤の銘酒に適しており、南部のボーヌはコルトン、ポマール、ヴォルネを擁するものの白ワインの銘酒の産地であったのに対し、ピエモンテでは南部アルバ地区のバローロ、バルバレスコばかりがクローズアップされて、北部のゲンメやガッティナラに陽が当たらないのは残念。
アンダースンは『イタリアワイン』でガッティナラを「菫の花の香りを持ち、鼻にはタール臭が感じられる。ソフトで後口にアーモンドの苦味が残る」とその特徴を書いています。
今回ご紹介するのは「アンツィヴィーノ」という1999年創業の新しいカンティーナのもの。ミラノから移り住んだオーナーは蒸留酒製造に使われていた古い修道院を購入し、伝統的な手法でワイン造りを行なっています。具体的には熟成はスロヴェニア産の大樽で三年、さらに瓶熟で一年といったように。ドライでアロマ、味わいにミネラルなどの複雑さがあり、それでいて、酸とタンニンのバランスは良く上品な仕上がり。
この機会に是非、ネッビオーロの多彩なポテンシャリティの一端をお楽しみいただければ幸いです。
略歴関 修(せき・おさむ)
一九六一年、東京生まれ。現在、明治大学他非常勤講師。専門は現代フランス思想、文化論。(一社)リーファーワイン協会理事。著書に『美男論序説』(夏目書房)、『隣の嵐くん』(サイゾー)など、翻訳にオクサラ『フーコーをどう読むか』(新泉社)、ピュドロフスキ『ピュドロさん、美食批評家はいったい何の役に立つんですか?』(新泉社)など多数。関修FACE BOOOK関修公式HP
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by Masashi Shimada
2月4日の銀座の仕立て屋落語会は林家たま平さんの登場です。昨年から引き続き多方面で活躍されているたま平さん。今年も人気、実力ともにグイグイと登っていかれること間違いなし、ぜひご覧ください。
今回からぴあでも購入できるようになりました。ぜひご利用ください。
第二十一回『銀座の仕立屋落語会・たま平クロークルーム』
日時:2月4日、日曜日
12時45分開場 13時開演 終演15時ごろ
場所:ザ・クロークルーム
出演:林家たま平
開口一番 世話人:山本益博
会費:2,500円(税込)現金のみ
ぴあのお申し込みはこちら「銀座の仕立屋落語会購入ページ」
申し込み、お問い合わせは info@thecloakroom.jp まで (落語会の受付はメールのみ)
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