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JOURNAL

第二十二回『銀座の仕立屋落語会・与クロークルーム』開催のお知らせ

第二十二回『銀座の仕立屋落語会・与クロークルーム』開催のお知らせ

3月の落語会は「春風亭与いちの二ツ目日記」の連載でお馴染み「春風亭与いち」さんの登場です。与いちさんの出番は昨年9月以来、どんなお噺を聞かせてくれるのか、期待しましょう。 第二十二回『銀座の仕立屋落語会・与いちクロークルーム』 日時:3月24日、日曜日 12時45分開場 13時開演 終演14時30分ごろ 場所:ザ・クロークルーム 出演:春風亭与いち 開口一番 世話人:山本益博 会費:2,500円(税込)現金のみ 申し込み、お問い合わせは info@thecloakroom.jp まで (落語会の受付はメールのみ) 略歴春風亭与いち1998年4月5日生まれ2017年3月、春風亭一之輔に入門。翌年1月21日より前座となる。前座名『与いち』。2021年3月1日より二ツ目昇進。

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『美食通信』 第三十九回 「魅惑のロールキャベツ――おふくろの味から高級フレンチまで――」

『美食通信』 第三十九回 「魅惑のロールキャベツ――おふくろの味から高級フレンチまで――」

 今年初めての元代々木町「シャントレル」での食事を前に中田シェフから「メインはシューファルシということで」とのメールが入りました。寒い冬の時期、シャントレル定番のメイン料理の一つにこの「シューファルシ」があります。「シューファルシ」はフランスオーベルニュ地方の郷土料理でキャベツを丸ごと使ったロールキャベツのこと。シェフが修業されたオーベルニュ地方サンボネ・ル・フロワ村にある三つ星レストラン「レジス・マルコン」のスペシャリテ。キャベツに挟むひき肉はマルコンでは豚肉なれど、福島県川俣町の「川俣シャモ」を用いているところが中田流。さらに鶏肉ではオイリーさが足りないのでフォアグラを忍ばせるところが憎い。身も心も温まる逸品。  しかし、思い起こせばロールキャベツというのはまさに「おふくろの味」。筆者が子供の頃、必ず食卓に上ることのある料理でした。ゆがいたキャベツで俵状のひき肉を包んで楊枝で止めて、水に溶かした固形コンソメでコトコトと煮込む。それだけ。だいたい肉よりキャベツの量の方が多くて、何か損した気持ちになったものでした。ですので、ナイフとフォークで食べるにしてもキャベツとひき肉を一緒に食することなど稀で、コンソメと肉の味の滲みたキャベツを一口分に切り分け、まずそれを平らげ、むき出しにされた可愛らしいひき肉の残骸を半分か三等分にして食し、最後に残ったスープをいただくといった手順。肉の旨味を充分吸った甘みのあるキャベツがメインの食べ物であることは子供心にも何となく分かるも、やっぱり肉が恋しい気持ちになったものです。  マルコンの流れを汲む中田シェフの「シューファルシ」ももとはと言えば、フランスの田舎の家庭料理を芸術品にまで高めたもの。ただ、筆者はこの「シューファルシ」から今は亡き母のロールキャベツを懐かしく連想することはありません。あれはまったく別物だ。筆者の母は外食を好まず、来客があっても店屋物(出前)をとることは滅多にありませんでした。別に料理上手というほどのことはないと思うのですが、自分の作ったものを子供に食べさせるという信念があったらしいことは、亡くなった後の叔母たちの話からも明白なようです。ですから、今でも筆者はどうしてももう一度食べたいものがあるとすれば、母の作ったある料理に尽きると思っています。「ロールキャベツ」ではないのですが、「おふくろの味」というのは別格なのです。  そんな「おふくろの味」の一つである「ロールキャベツ」などお金を払って外で食べるものではないと当初筆者は考えていたように思います。それを覆すことになったのは、大学生になって、友人に安くて美味しいものがあるから食べに行こうと誘われて、新宿の「アカシア」という店に連れて行かれたときのことでした。今調べてみると洋食屋でハヤシライスやカレー、ポークソテーやクリームコロッケもあるようですが、半世紀近く前に出かけた際は「ロールキャベツ」しかないと思っていました。誰もが「ロールキャベツ」を頼んでいたからです。しかも、その「ロールキャベツ」はコンソメ仕立てではなく、白いシチュー仕立てでした。しかも、安い。「ロールキャベツシチュー」にご飯が付いて、四百円しなかったのでは。美味しいかと言えば、筆者はあまり感動しませんでした。ただただ、「ロールキャベツ」が外食になっているのに驚いた。カルチャーショックでした。  当時、メニュが一つきりということで覚えているのは渋谷百軒店(だな)にある「ムルギー」というカレーの老舗です。筆者は「ライオン」というクラシック喫茶によく出かけていて、そのすぐ近くに「ムルギー」はあり、ついでに寄ってしまう。それは怖い物見たさと言った風で。とにかく店内が暗いのです。厨房だけが妙に明るく、店内の照明はその明かりだけで賄っていたのでは。暗がりを恐る恐る空いたテーブルに座ると、ご老体が水の入ったコップを持って登場し、ボソッと「ムルギー卵入りですね」とおっしゃる。か細い声ながら有無を言わせぬ無言の圧力があり、「はい」と答えざるを得ない。確か店の入り口には何種類かのカレーが書いてあったようななかったような。もう、どうでも良い。出てきたカレーにまたビックリ。ご飯がピラミッド型に盛られているのです。カレールーの味もインド風でもなければ、欧風でもない。茹で卵が乗っているし。当時はネットも何もないので、本か何かで調べたのだと思いますが、老夫婦が営んでおられ、ご夫人が厨房を担当。御主人が第二次世界大戦中赴いたインドネシアで食べたカレーを再現したものらしい。これも美味しいかどうかはよく分からないのですが、あの雰囲気がクセになってしまい、結構出かけました。もちろん、「ムルギー卵入りですね」を聞きたくて。驚くべきは代替わりしたとはいえ、「ムルギー」も「ライオン」も健在なこと。新宿「アカシア」もそうですが、老舗恐るべしです。  閑話休題。さて、あと「ロ―ルキャベツ」が名物なのは「ロシア料理」。こちらはトマト味にサワークリーム。これも何だか怪しいのですが、東京で「ロシア料理」店といえば、浅草。筆者が何度か訪れたのも浅草の「ストロバヤ」です。これは今回調べたのですが、赤坂のロシア料理店で修業した方が浅草で「マノス」を開店。「マノス」出身の料理人たちが同じ浅草で「ストロバヤ」、「ラルース」、「ボナフェスタ」を開店。この四店が老舗であるとのこと。下町の「ロシア料理店」は同じ浅草の「洋食店」、例えば「ヨシカミ」、「グリルグランド」、「リスボン」といった店と似た趣があります。洗練さよりも親しみやすさ、本格的なロシア料理ではなく、日本風にアレンジメントされたもの。フランス料理ではなく、あくまで「洋食」であること。この怪しさがまた魅力的なのですが。なかなか高価な「ロールキャベツ」を食することが出来ます。  結局のところ、「ロールキャベツ」はノスタルジックな料理なのかも。しかも、ちょっとマージナルな(周辺的な)趣が。新宿の安くて美味しい老舗洋食。浅草のロシア料理店。それにフランスの片田舎の郷土料理、と。しかも、意外にも高級フランス料理店で食した「シューファルシ」がシンプルな澄んだスープ仕立てで、家で食していたものに一番近い。巡り巡って、行きつく先は「おふくろの味」ということかもしれません。 今月のお薦めワイン 「メドックの秀逸なる次席〈サン=ジュリアン〉――隠れたる第四級の逸品〈シャトー・ブラネール=デュクリュ〉――」 「シャトー・ブラネール=デュクリュ 2018年 ACサン=ジュリアン 第四級」12000円(税別)   ブルゴーニュ、イタリア、そしてこのクールの最後はボルドーワインです。筆者はワインを本格的に嗜もうと思った際、ボルドーワインを極めることがそれに相応しい方途(メソッド)であると考え、四半世紀近くそれを貫き通しました。ただ、ここ数年はブルゴーニュに関心があります。年を取り、酒量もめっきり減り、重いワインが辛くなってきたからです。それでも長年親しんだボルドーワインへの敬意は変わりありません。ということで、まずはボルドーを代表するメドックの格付けワインから紹介させていただきたく思います。  ボルドーと言えば、五大シャトー。この五大は1855年のメドック格付け(一級から五級)で第一級を獲得した四つのシャトーに、例外的に1973年第二級から昇格したシャトー・ムートン=ロートシルトを加えたもの。筆者がボルドーに決めたのもムートンの1984年に感動したからでした。  格付けされたワインを産するのは四つの村と一つの広域のアペラシオン(オー=メドック)に限られ、第一級はポイヤックとマルゴーだけ(オー=ブリオンは例外でメドックではなくグラーヴのワイン)。第二級になるとサン=ジュリアンとサン=テステフも登場し、オー=メドックは第三級以下になります。  今回紹介させていただくシャトー・ブラネール=デュクリュはサン=ジュリアンの第四級。サン=ジュリアンは第一級こそないものの第二級が五シャトーもあり、そのすべてがスーパーセカンドと呼ばれる第一級に迫る優れもの。色は青インクのように濃く、色を見ただけでサン=ジュリアンと分かる。タンニンのしっかりしたタイトな造りは堂々たるポイヤックとは対照的ながらどちらも品格がある。女性的なマルゴー、土っぽさを感じるサン=テステフ、ニュートラルなオー=メドックとそれぞれが個性的。  ブラネール=デュクリュは色、香り、味わいのすべてに「チョコレートに似た風味」を持つというサン=ジュリアンの中の個性派。固い感じのワインが多いサン=ジュリアンでしなやかさを有し、比較的早くから美味しく飲めるというメリットも。筆者が愛好するシャトーの一つで、パリで二十世紀最大のグレイトヴィンテージの一つ、1945年を購入し開けたこともあります。 サン=ジュリアンの「偉大さ」より「魅力」をお求めなら、迷わずブラネール=デュクリュを選ばれることです。という訳で、今回はグレイトヴィンテージですのでまだちょっと早いかもしれない2018年を選んでみました。今飲んでも良し、もう少し寝かせてから飲んでも良し。この機会に是非、その魅力を体験していただければ幸いです。 略歴関 修(せき・おさむ) 一九六一年、東京生まれ。現在、明治大学他非常勤講師。専門は現代フランス思想、文化論。(一社)リーファーワイン協会理事。著書に『美男論序説』(夏目書房)、『隣の嵐くん』(サイゾー)など、翻訳にオクサラ『フーコーをどう読むか』(新泉社)、ピュドロフスキ『ピュドロさん、美食批評家はいったい何の役に立つんですか?』(新泉社)など多数。関修FACE BOOOK関修公式HP  

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『春風亭与いちの二ツ目日記』第八回「誕生日」

『春風亭与いちの二ツ目日記』第八回「誕生日」

暑い、暑過ぎます。この間年を越したばかりかと思えば、2月も半分が終わり、やっと東京でも雪が降り出した矢先、いきなり気温が20度を超す始末。確定申告は未だ終わらず。もう毎日めちゃくちゃです。先日、1月の28日に私の師匠、春風亭一之輔が46歳の誕生日を迎えました。私の友人から私宛にLINEで、「今日、師匠の誕生日じゃん!おめでとー!」と来た。私の誕生日ではないので、返答に困る。師匠、愛されてるなあ。数ヶ月前には、私の独演会に来てくれたお客さん数名に、「あんた、この間の徹子の部屋見たわよー!」と言われた。もちろん出演したのは私ではなく、師匠。「僕も見ました。」としか言いようがない。師匠、愛されてるなあ。毎年1月28日の朝に、我々弟子一同で師匠宅に伺い、誕生日プレゼントを渡す。今では「弟子一同から」として1つのプレゼントを渡しているが、元はそれぞれ1つずつ渡していた。それが切り替わった日を明確に覚えている。四番弟子の貫いちが入って最初の誕生日。それぞれ師匠に喜んでもらおうとプレゼントを選ぶが、"超"かけ出しの我々には高価なものを買えるお金は到底なく。本、マフラー、文房具、ベルト(合皮)。並んだ物はフリーマーケットのよう。かえって師匠に気を遣わせてしまい、「ありがとう。お前たちからは言えないだろうから、来年からは皆んなで1つで大丈夫です。」と、今に至ります。その弟子一同からのプレゼント一発目は完全ワイヤレスイヤホン。昨年のプレゼントとは雲泥の差です。やはり、皆で力を合わせるとそれなりの物が買えるのです。師匠も、「おい!なんで繋がってないのに、繋がってるんだ!!」と喜んでくれました。その翌年はロボット掃除機。そもそも、弟子が家を掃除しろよ、という感じですが。これも気に入ってくれ、初めのうちはコントローラーで操作しながらロボット掃除機の後ろを付いて歩いてました。「普通に掃除機かけた方が早い」なんて野暮なことは誰も言いません。 そんなこんなで今年は携帯用の電動シェーバー。師匠は今までコンビニで買った1500円程の物を使っていました。それもカバーが壊れ、若干刃が剥き出しになった状態でも数日使うため、たまに流血したまま高座に上がっておりました。それを阻止できたはずです。もし今後、血を流しながら高座に上がっていたら教えてください。すぐに買い替えます。 略歴春風亭与いち1998年4月5日生まれ2017年3月、春風亭一之輔に入門。翌年1月21日より前座となる。前座名『与いち』。2021年3月1日より二ツ目昇進。

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『美食通信』第三十八回 「例外的なラーメン食――島田「ル・デッサン」――」

『美食通信』第三十八回 「例外的なラーメン食――島田「ル・デッサン」――」

 事ある毎にお伝えしていると思いますが筆者は「グルメ」ではありません。グルメには類語に「グルマン」があり大食漢という意味からも、美味しいものであれば何でも食べるのが好きというニュアンスだと思います。それに対し、「美食」は「ガストロノミー」、「ガストン」が胃を意味し「食べること」ととしたら、「ノミー」は「ノモス」=法、「律すること」であり、「ガストロノミー」は「食を律すること」即ち「テイスティング」であると筆者は考えます。  筆者は外食を好みませんし、外食するとしたら、基本フランス料理あるいはフランスワインを嗜むことと決めております。「美食」とはある種の専門性を持つものではないでしょうか。フランス料理のシェフがフランス料理を極めようとするなら、それを食する方もフランス料理を食することを極めようと応えるべきでは。これが「美食」であり、食する方は何でも食い散らかしてよいという訳ではありません。  筆者は自宅でフランス料理を食することはありませんが、食後に必ずデセールをいただきます。そこでいつの頃からか、主食の炭水化物を摂らないようになりました。米、パン、麺類。パンを少しは食べますが、例えば、大学での昼食に時間もないので菓子パンをかじったり、ホテルの朝食でクロワッサンを一つくらいとか、まあそんなものです。いわゆる「おかずっ食い」というやつです。  カレーは好物で一週間に一度は自宅で夕食にカレーを食しますが、決まった銘柄のレトルトカレー四種をローテーションで食べています。もちろん、ルーだけであとは野菜系の副菜を食して終わり。デセールがありますので。フランス料理以外の外食で鰻が好みなのも、蒲焼だけ頼めるからです。鰻重は食しません。イタリアンが悩ましいのは料理的には好みなのですがパスタが食べきれないので、一口くらいテイスティングさせていただき、あとは同行者に食べてもらうしかありません。生ものは元々それほど好みではなく、フランス料理を選んだのも基本火が通ったもの、即ち手を加え調理したものがフランス料理の文化だったからでしょう。  ですので胃にもたれる麺類を食することが一番ありません。その中でも滅多に食べないのがラーメンです。何が駄目なのかと言えば、スープの中に麺が浮かんでいるのが許せないのです。パスタはソースにあえてあるのでまだ食べてみたい。蕎麦は軽いので「ざる」ならまだいける。うどんもぶっかけなら少々。ラーメンはスープが命でしょうから、それも麺も残して具だけ食べる訳にもいかず、何とも縁がなさそうな食べ物であることよ。  もちろん、子供の頃は食べていました。インスタントラーメン全盛期の生まれですので。カップヌードルが登場した時は驚きましたが、正直美味しいと思ったことはありません。インスタントラーメンでもう一度食べてみたいと思うのは明星の「劉昌麺(りゅうしょうめん)」です。あくまでスープが他の銘柄と比べて断トツに美味しく思えたからです。まだ諏訪に住んでいた一九七〇年初めの頃の話です。  そんな筆者がラーメンを食する機会をこのところ年一、二回持つようになっています。それは静岡県の島田市にある「ル・デッサン」というラーメン店に出かけるようになったからです。両親が亡くなった後、二人の故郷の静岡市に年に一、二度出かけるようにしているのですがその折、市内にある「カワサキ」というフレンチに出かけています。『ゴ・エ・ミヨ』でミシュランの一つ星に相当する三トック(コック帽)を獲得している名店です。何故か〆にラーメンが出るのでどうしてか、店主の河崎シェフに尋ねたところ、島田の「ル・デッサン」で教わって出しているとのこと。「ル・デッサン」という名前に聞き覚えがあったので、あの増田シェフの「ル・デッサン」と確かめたところ、そうである、と。 「ル・デッサン」というのはもう四半世紀近く前になりましょうか、都営地下鉄大江戸線が開業となった際、新設の牛込柳町駅近くに開業したフランス料理店でした。壁には増田シェフが描かれた絵が飾られている小洒落た店で奥様の暖かいサーヴィスと共に人気の店で筆者もよく通ったものです。ただ、筆者は二〇〇五年に大病をして、九死に一生を得たもののしばらく外出を極力控えねばならなくなりました。そのうち、気づくと「ル・デッサン」は閉店しており、増田シェフご一家は実家のある島田市に帰られたという話を聞いたのです。  筆者はフレンチ以外のことに疎いので、まさか島田に戻られた増田シェフがラーメン店を開かれたとは露知らず。しかもフレンチの時と同じ「ル・デッサン」を名乗られているとは。しかし、事情が分かると納得の行くことばかりで。元々、静岡市のお隣の藤枝市やさらにそのお隣の島田市には「朝ラー」と呼ばれる朝食にラーメンを食する習慣があり、ラーメン店の激戦区であるとのこと。実際、「ル・デッサン」は朝七時から午後一時までの営業で麺が無くなり次第、閉店になります。さらに、増田シェフのラーメンの出汁はホロホロ鳥、鴨などフランス料理の出汁をベースにしたもので牛込柳町時代の延長線上にあることが分かります。  そのような唯一無二(ユニーク)のラーメンは全国区の名店と評価され、この年明け一月十八日放映のTBSテレビでの「今一番美味しいラーメン決定戦!神の舌が選ぶ全国TOP30!最強ラーメン番付SHOW」にもホロホロ鳥の醤油ラーメンが取り上げられ、十五位にランクインしました。  筆者はこの番組を観ようかと思ったのですが、審査委員の一人が場違いで納得が行かなかったので見るのをやめました。ラーメンは専門の評論家が多数いらして、一人は石神某氏とまあ良かったのですが。ここは複数のラーメン専門家にきっちり判定してもらいたかったのに残念です。フランス料理はもっと悲惨で、日本では故見田盛夫氏以外、まともな評論家が皆無という状況。筆者が求めているのは料理評論家ではなく、あくまでフランス専門の評論家の必要性であることを誤解なきよう。  さて、増田シェフご夫妻のご尊顔を拝したく、筆者は島田に朝早くから出かけるのですが、何せこの時以外ラーメンを食しませんので何を選ぶかが至難の業で。というのも、スープの中に麺が浮かんでいるのが許せない筆者としては、同伴者の食するホロホロ鳥だのホタテだののスープは一口テイスティングさせていただきますが自分が選ぶことはなく……。唯一の救いは「まぜそば」でいつもこれを頼んでしまいます。ラーメン通からすれば、邪道かもしれませんがこれがなかなかの美味。花かつおがこれでもかと一面を覆った和のベースにオイスターソースやごま油と中華の要素も加わって旨味満載。筆者でも半分は食することが出来ます。この夏は「冷やし中華」に挑戦しました。アボカド、オリーブオイルで作られたマヨネーズと見た目もフレンチ風でこれも実に美味でした。  この三月に按田餃子の按田優子さんたちと静岡に出かける予定ですので、当然「ル・デッサン」にもお邪魔させていただきます。今度もまた新たなメニュにチャレンジしようと思っていますがまたまた傍流の変化球的なものになってしまうのだけは確かです。それでも多彩な球種を用意して下さっている増田シェフといつも暖かな出迎えをして下さる奥様に心から感謝する次第です。これまでも行列が出来る店ですので、ますます待ち時間が増えませんように。筆者は基本、予約なしに店に出かけることはなく、並んでまで食べるのは苦手ですから。 今月のお薦めワイン 「ネッビオーロはバローロ・バルバレスコだけではない――ピエモンテの逸品〈ガッティナラ〉――」 「ガッティナラ 2017年 DOCG ガッティナラ アンツィヴィーノ」 6620円(税別)   ブルゴーニュの次はボルドーと行きたいところですが、間にイタリアワインを挟んでボルドーの順に四クールしたいと思います。  さて、すでにイタリアのブルゴーニュに相当するのがピエモンテ州のネッビオーロ種100%で造られるワインであることは説明済みです。実際、ブルゴーニュが「ワインの王」と呼ばれているように、バローロが「イタリアワインの王」と呼ばれていることも。ただし、バローロはピエモンテの一村の名であり、ブルゴーニュで言えば、ヴォーヌ=ロマネのようなもの。これもまた、バローロにバルバレスコと言われますし、ブルゴーニュならさしずめジュヴレ=シャンベルタンと言ったところでしょうか。  しかも、バローロ、バルバレスコはピエモンテ州の南部に位置し、北部にもネッビオーロ種100%で造られる銘酒があり、「ゲンメ」に関しては名手ロヴェロッティの逸品を紹介させていただきました。実は北部にはもう一つ重要な地区があります。それが「ガッティナラ」です。という訳で今回は「ガッティナラ」を紹介させてください。  ブルゴーニュのコート・ドールでは北部のニュイの方が赤の銘酒に適しており、南部のボーヌはコルトン、ポマール、ヴォルネを擁するものの白ワインの銘酒の産地であったのに対し、ピエモンテでは南部アルバ地区のバローロ、バルバレスコばかりがクローズアップされて、北部のゲンメやガッティナラに陽が当たらないのは残念。  アンダースンは『イタリアワイン』でガッティナラを「菫の花の香りを持ち、鼻にはタール臭が感じられる。ソフトで後口にアーモンドの苦味が残る」とその特徴を書いています。  今回ご紹介するのは「アンツィヴィーノ」という1999年創業の新しいカンティーナのもの。ミラノから移り住んだオーナーは蒸留酒製造に使われていた古い修道院を購入し、伝統的な手法でワイン造りを行なっています。具体的には熟成はスロヴェニア産の大樽で三年、さらに瓶熟で一年といったように。ドライでアロマ、味わいにミネラルなどの複雑さがあり、それでいて、酸とタンニンのバランスは良く上品な仕上がり。  この機会に是非、ネッビオーロの多彩なポテンシャリティの一端をお楽しみいただければ幸いです。 略歴関 修(せき・おさむ) 一九六一年、東京生まれ。現在、明治大学他非常勤講師。専門は現代フランス思想、文化論。(一社)リーファーワイン協会理事。著書に『美男論序説』(夏目書房)、『隣の嵐くん』(サイゾー)など、翻訳にオクサラ『フーコーをどう読むか』(新泉社)、ピュドロフスキ『ピュドロさん、美食批評家はいったい何の役に立つんですか?』(新泉社)など多数。関修FACE BOOOK関修公式HP

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第二十一回『銀座の仕立屋落語会・たま平クロークルーム』開催のお知らせ

第二十一回『銀座の仕立屋落語会・たま平クロークルーム』開催のお知らせ

  2月4日の銀座の仕立て屋落語会は林家たま平さんの登場です。昨年から引き続き多方面で活躍されているたま平さん。今年も人気、実力ともにグイグイと登っていかれること間違いなし、ぜひご覧ください。 今回からぴあでも購入できるようになりました。ぜひご利用ください。 第二十一回『銀座の仕立屋落語会・たま平クロークルーム』 日時:2月4日、日曜日 12時45分開場 13時開演 終演15時ごろ 場所:ザ・クロークルーム 出演:林家たま平 開口一番 世話人:山本益博 会費:2,500円(税込)現金のみ ぴあのお申し込みはこちら「銀座の仕立屋落語会購入ページ」 申し込み、お問い合わせは info@thecloakroom.jp まで (落語会の受付はメールのみ)

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『春風亭与いちの二ツ目日記』第七回「新年」

『春風亭与いちの二ツ目日記』第七回「新年」

新年明けましておめでとうございます。と言いたいところですが、年明け早々からおめでたくないニュースが続き心が痛みます。そんなことを少しでも忘れて、楽しんでもらおうと方々でお喋りさせていただいております。毎年、私の出囃子でも使わせていただいている、「八木山ベニーランド」という、地元・宮城にある世界有数のテーマパークで、新春落語会を開催しているのですが、今年も盛況で嬉しい限りでした。毎年、この会が仕事初めでは無いのですが、地元ということもあり、「今年もやるぞ」という気持ちにさせてくれます。"学生さん無料!"と謳っているのに、お子さんが1人も来ないことあったこの会ですが、今年はお子さん沢山。「落語聴いたことある?」「ない!」「笑点見たことある?」「ない!」「座布団1枚っていうやつ見たことない?」「知らない!」もはや清々しいです。元気はあるけど落語に興味はない。こういうお子さんの時ほど腕がなります。帰りに「面白かった」と言ってくれて良い1年のスタートを切れました。ありがとう、少年。今年は具体的な目標を3つ設定しました。1つ目、年間にネタ下ろしを20席すること。ネタ下ろしをしている独演会が年10回あるので、毎回2席ずつ下ろす計算です。ただ、これがかなり難しい。我々プロの落語家は勝手に覚えて口演することが許されておりません。どなたかに直接お稽古をつけていただき、1対1で自分が演って見せ、そこでオーケーが出て初めてお客さんの前で演ることが許されるのです。月に2席覚えることは努力次第でなんとかなりますが、そのお稽古をつけてくださる噺家とのスケジュールが合わなかったりすると、ネタ下ろしの会に間に合わない…なんてこともしばしば。昨年は月1席もやっとの状態だったので、とにかく覚えまくって自分の限界に挑戦します。お稽古が間に合わなければ、翌月3席下ろすつもりでやっていきます。果たして、その時お越しいただくお客さんにそれが良いのかどうか…。とにかくしゃかりきにやっていきます。2つ目、何かしら賞を取ること。私はこれまで賞レースというものから逃げてきました。「優劣より好き嫌いの問題だろ」とか、「賞取ったって売れない、売れてる人が取ってるだけ」などど、完全に卑屈になっていました(これは本当に良くない)。しかしそんなことより、賞を取ると私を応援してくださっている皆さんがきっと喜んでくれる。胸を張って「与いちを応援してます。」と言っていただけるように賞を取りたいと思うようになりました。いや、本当に。こんな拙い落語しかできない自分にお金を払って付き合ってくださる方々にお返しがしたいです。「じゃあ木戸銭返せ」とか言われても無視しますが。とにかくエントリーできる大会は全て参加します。そして、自分でエントリーできない、大会側が出場者を選んでいる賞レースの関係者様!私、春風亭与いちを是非!本気で賞取りに行きますので!3つ目、早起き。毎朝7:30には起きます。起きたいです。いやいや、あのぅ、これが1番難しいかもしれないのですよ。私にとっては。この目標を元日に立て、早2週間経ちますが、7:30に起きれたのは僅か1日。その1日も眠すぎて2時間昼寝してしまう始末。でも3つ全て達成できるよう2024年も頑張ります。本年もどうぞよろしくお願い致します。 略歴春風亭与いち1998年4月5日生まれ2017年3月、春風亭一之輔に入門。翌年1月21日より前座となる。前座名『与いち』。2021年3月1日より二ツ目昇進。        

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第二十回『銀座の仕立て屋落語会』わん丈クロークルーム開催のお知らせ

第二十回『銀座の仕立て屋落語会』わん丈クロークルーム開催のお知らせ

 新年一発目、1月の『銀座の仕立屋落語会』は真打昇進を間近に控えた「三遊亭わん丈」さんの登場です。二ツ目での登場は今回が最後。真打での登場は有るのか無いのかわかりませんがとにかく縁起がいいことこの上なし、今回は絶対に見逃せません。良い一年を迎えるためにも初笑いはわん丈さんにおまかせといきましょう。 前回ご好評いただいた秘密の大喜利も引き続き、最終回の今回は「お仕立て上がり」です、お楽しみに。 日時:1月14日、日曜日 12時45分開場 13時開演 終演15時ごろ 場所:ザ・クロークルーム 出演:三遊亭わん丈 開口一番 世話人:山本益博 会費:2,500円(税込)現金のみ 申し込み、お問い合わせは info@thecloakroom.jp まで (落語会の受付はメールのみ)

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『春風亭与いちの二ツ目日記』第六回「年末」

『春風亭与いちの二ツ目日記』第六回「年末」

どうも、メリークリスマスです。いつも毎月15日に更新をしておりましたが、年末の忙しさにかまけて遅くなってしまいました。街を歩いていると否が応でも飛び込んでくるイルミネーション、クリスマスソング、赤・白・緑。それらを感じる度に「ああ、早くクロークルームさんのコラムを書かなければ…」と思っていたのですが。。。気がつけばM-1が始まりました。あー、見たい。けどそんなことより書かなくては。令和ロマンさんが1番手とは思えない高得点。さや香さんが期待値上がり切った状態でも爆笑かっさらっている。面白すぎる。いかんいかん、一刻も早く書き上げなくては。これを書き上げてもまだやることは沢山ある。まずはお年玉を作らなくてはいけない。我々噺家は正月に前座さん・お囃子さんに「(あけまして)おめでとうございます」と言われたらお年玉をあげなくてはいけない。そんな素敵な風習がある。それに二ツ目に関しては、正月初席に出番が無いのにも関わらず、お年玉をあげるためだけに寄席に顔を出しに行く。大変素敵な風習だ。もちろん私も前座の頃たくさん頂戴いたしましたので大変有り難いことです。今年は新札の影響でなかなかピン札が手に入らないらしく、仲間たちがひーひー言っております。が、私には全く関係ありません。前座の頃いただいていたお年玉を全て、そのままの状態で保存してあるからです。三つ折りになったピン札のお年玉四年分。それらを自分のポチ袋に入れ直して渡している。大量の千円札がただ仲間内を回っているだけです。なにかと大変な年末ですが、先日ご褒美のようなお仕事をいただきまして。「子供たちに絵本の読み聞かせをしてください。」と。遂に来ました。今まで子供好きを言いまくってきた成果がやっと出ました。「あ、もちろん落語もやっていただけると…」普通は逆です。「落語メインで、絵本"も"…」なら分かりますが、絵本メイン。どちらも全力でやりました。絵本作家の「せなけいこ」さんとのコラボカフェ。そこに集まった親子連れ。1番小さい子で3歳。絵本は食い入るように楽しんでくれたのですが、さあ、問題は落語ですよ。まず"1人で登場人物を演じ分ける"というシステムを理解してもらえない。まずは小噺から入ろうと、「お母ちゃんパンツ破けた また(股)かい。」というのをやってみた。すると、その3歳の女の子が後ろを振り返って、「ママ呼んでるよー!」やはり難しい。続いて蕎麦をすする所作をしてみる。これは見た目で楽しんでもらえた。よしよし。じゃあ、「なんと、うどんをすする時は音が変わるんだよー。」と言うと、その子がいきなり挙手をして、「あたし、うどん食べたことあるー!」もう最高です。「うどん食べたことある人?」とは聞いていないのにですよ?その積極的な姿勢が嬉しくて、私は全力で褒めました。「食べたことあるんだ!すごいね〜!!」そしたら、自分も褒めてもらいたいと思った子供たちが続出して、「僕もー!」「あたしもー!」話が前に進まないのに、凄まじい盛り上がり。平和な学級崩壊のようでした。今年も色んなところでお喋りさせていただき、初めて年間高座数300を越えました。クリスマスの今日も噺をひとつ教わり。来年もがんがんやっていきます。当面の目標はこのコラムをちゃんと15日にアップすることです。来年もどうぞよろしくお願い致します。 略歴春風亭与いち1998年4月5日生まれ2017年3月、春風亭一之輔に入門。翌年1月21日より前座となる。前座名『与いち』。2021年3月1日より二ツ目昇進。

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『美食通信』第三十七回 「昼のご馳走『鰻』――サクッと食べる贅沢な時間――」

『美食通信』第三十七回 「昼のご馳走『鰻』――サクッと食べる贅沢な時間――」

 この『美食通信』も四年目に入りました。主宰のThe Cloakroomの島田さん、また読者の皆様には引き続きのご贔屓どうかよろしくお願いたします。  さて、昨年に続き十二月の初め、栃木県大田原市にお住まいの大学院時代の先輩、M女史に会いに出かけました。昨年は那須の「レストラン・クエリ」でランチしましたが、今年はMさんのリクエストで芦野町にある「丁子屋」で鰻を食することになりました。大田原からは車で一時間弱、現在は那須町に属するのですが、同じ那須町でも別荘地として有名な那須高原は新幹線を挟んで反対側で、同じ山の中なれどこちらは鄙びた感じの旧奥州街道沿いに「丁子屋」はありました。M女史は子供の頃、「丁子屋」の真向かいにあった公証役場でお父様が所長をされており、役場の裏の社宅に住んでいたそうです。現在は更地となって町営の無料駐車場に。そこに車を停めて、「丁子屋」へ。週末は予約が必要な名店とのこと。  品書きは鰻重と蒲焼、白焼のみと酒のつまみもほぼ皆無に近く、何と潔いことよ。筆者は銘柄不明の冷酒一合に蒲焼、冷奴というシンプルな選択。蒸しが弱めで身がしっかりとしており、食べ応えのある蒲焼でした。  それにしてもこんな山の中に鰻屋とは。元々は旅籠として江戸時代から三百年以上の歴史があるそうで、鰻は近くに奈良川があるからとのこと。そう言えば、高知の四万十川の鰻は有名です。関東も坂東太郎、利根川を始め、多くの河川があるので鰻はあちこちで名物に。埼玉では浦和、川越。千葉では成田や佐原などなど。成田は新勝寺の参道沿いに鰻屋がずらっと軒を並べ、「川豊」、「駿河屋」といった名店が。  佐原は利根川べりですので、伊能忠敬旧邸周辺の昔の街並みを散策した後は鰻を食するのが常道でしょう。筆者は日帰りの他にも旧家をリノベーションした「ニッポニア」に何回か宿泊したことがあり、ディナーは付属のレストランでフレンチですが、翌日の昼はやはり鰻を食べました。「山田」が有名なようですが、筆者のお薦めは街並みからは離れてしまうのですが、まさに利根川ベリにある「麻生屋本店」です。工場のようなビルで趣はありませんが、一階で座敷に上がって鰻をいただくことができます。観光地から離れているので比較的空いているのと、蒲焼、白焼の他に「塩焼」があり、これが絶品です。見た目は白焼に似ているのですが、こちらはそのまま塩焼にするというなかなか野趣味ある一品。蒸していないので鰻に油がのっていて、なかなか食べ応えがあります。  思えば、筆者が子供の頃、ご馳走と言えば「鰻」でした。半世紀以上前、幼稚園から小学校四年生まで筆者は長野県の上諏訪市に住んでいたのですが、当時、家族での外食といえば、父の勤めていた銀行のすぐ脇にあった「寿司金」か、湖畔の方にしばし歩いたところにある鰻の「おび川」でした。「寿司金」はカウンターで、子供が食べるのはせいぜい巻物や海老、穴子、玉子といったところで、筆者の好物はその原型を知らない「蝦蛄(しゃこ)」でした。海老のように火が通っていて、穴子のような甘いツメがかかっている。それに比べ、「おび川」は二階に上がった座敷で大人も子供も同じ「鰻重」をいただくので、子供ながらに「おび川」に連れて行ってもらう方がご馳走感があり、嬉しく思ったものでした。数年前、四十年ぶりくらいに諏訪を訪れる機会を得ました。中学生の頃、父と一度出かけて以来です。「寿司金」も「おび川」も健在でした。「おび川」は昔のままの佇まいで、旅の終わりに昼に鰻をいただいて帰りました。焼きがしっかりしていて、味も濃く、子供の頃食べていたのはこんな鰻だったのかと感慨深いものがありました。  諏訪から神戸に引っ越したのですが、神戸で鰻を食した記憶がありません。穴子や鱧の押し寿司はいただきましたが。父がお土産に何処かからいただいてきた鱧の押し寿司は絶品でした。神戸での外食はやはりステーキが多かったです。印象に残っているのは父が「加美乃素」の偉い方とご一緒し美味しかったといって、来客があった際連れて行ってくれた「いかりや」でした。ステーキソースではなく、一口にカットされた肉をぽん酢でいただいたのは初めてでその美味しさに子供ながらに驚いたのをよく覚えています。この店も健在のようでさすが老舗と感心しました。和食で外食に出かけたのは「うどんすき」くらいでした。ポートタワーにあった「美々卯」に連れて行ってもらい美味しかったのでリクエストしたのですが高価だったのか「美々卯」は時々で、名前を逸しましたが新神戸駅近くの別の店によく出かけたものでした。  やはり、鰻さらには寿司は関東風が良かったのでしょう。しかし、思えば、筆者の亡き両親は共に静岡市生まれだったのですが、静岡で鰻を食したことがありませんでした。まあ、鰻は浜松が有名で静岡と浜松では同じ静岡県でも歴史的には藩が異なり、文化圏も異なっているからでしょうか。やはり駿河湾は魚介が豊富で、子供の頃、母方の祖母は料理が上手で、家に出入りの行商のおばさんが毎日来て、祖母が見繕って料理してくれ、寿司も家で手作りでしたので鰻の出番がなかったのでしょう。夜が和食でしたので、子供の頃の母方の祖父とのランチはもっぱら「グリル中島屋」で洋食でした。  両親が亡くなり、静岡に住んだことのない筆者はある種の郷愁もあり、年に何回か実家に出かけることがあるのですが、筆者の場合夜はフレンチですので、昼に何を食そうかと考えた時、鰻はどうかと思い、探したところ素晴らしい料理屋を見つけました。  現在は静岡市に合併した清水にある、旧東海道沿い、やはり街道沿いの筆者の好物の「追分羊羹」本店からしばらく静岡方向に向かうとある老舗の割烹「芳川」です。清水の次郎長や西郷隆盛も訪れたという料理屋で鰻が自慢ですが、他の料理も色々とあります。何が素晴らしいかというと素敵な中庭を眺めながら個室の和室で食する鰻は上品で格調高い。それで価格は普通の鰻屋と変わらない。今や栃木でも佐原でも5000円弱というのが相場で、あの空間で同じくらいの価格なら正直安いくらいです。  本来、鰻は鰻重の場合、焼き上がるまでに時間はかかるものの料理が出てくれば、お重をかき込む感じになります。「丁子屋」でも同じ部屋の先に来られていたお客様たちもお重が出てくると三十分もかからず、皆いなくなっていきました。筆者は蒲焼を肴に日本酒をちびちびやっているのですが、お重を食される方たちが食べ終わるまで焼きの待ち時間を含め一時間ほどでしょうか。「竹葉亭」や「野田岩」で鰻のコースでも食するなら別ですが、ディナーで何時間も座を温める料理ではありません。ちょっとした旅行や週末の昼を贅沢に過ごしたい時、「鰻」は最適のご馳走ではないでしょうか。次にいつ何処で「鰻」を食することになるのか。筆者はいつも楽しみにしております。 今月のお薦めワイン 「新たな年を祝って――シャンパーニュで乾杯――」 「クロエ AC シャンパーニュ ドメーヌ・ヴァンサン・クーシュ」 12000円(税別)   『美食通信』も四年目に入りました。この三年間、「今月のお薦めワイン」のコーナーはフランスとイタリアのワインに関してそれぞれを比較、類推させ、システマティックに概観して参りました。両国の主要なワインに関してはおおよそ網羅できたと自負しております。  そこで今年は筆者の飲んでみたいワインをブルゴーニュ、ボルドー、イタリアと三つのグループに限ってローテーション的に紹介させていただこうと思います。  フランス料理に関しては大学に入ってすぐから愛好家となり、半世紀近くになりますが、ワインはそれに遅れて十年ほど、一九九〇年代半ばパリに海外研究に出かけることになった頃からボルドーワインに特化して傾倒して参りました。その成果は現在、Facebookにて「エチケットは語る」という形で紹介させていただいております。  また、ここ十年近くは筆者も年を取ったのと、元代々木町「シャントレル」の中田シェフとの出会いからブルゴーニュワインに関心が移っています。さらにこのコーナーに協力下さっているイタリアワイン専門のインポーター「アビコ」の阿掛社長とも懇意にさせていただいており、イタリアワインにも貴重な体験を多々重ねることが出来ました。  そこで今年は筆者の心の赴くまま、まさに「お薦め」ワインを紹介させていただければと思う次第です。  といいつつ、最初から例外で申し訳ありませんが初回はブルゴーニュではなく、代わりにシャンパーニュでございます。まあ、ご存知のようにブルゴーニュの北にあたるシャンパーニュ地方はブルゴーニュと栽培する葡萄が重なってしまい、このままではブルゴーニュに太刀打ちできないのでドン・ペリニヨン修道士がシャンパーニュを考案なさったということになっております。  筆者は発泡酒に関してはシャンパーニュに尽きると思っています。これに匹敵するのは葡萄品種が同じイタリアのフランチャコルタくらいか、と。あるいはクレマンでブルゴーニュかアルザスに逸品があれば何とかといった感じでしょうか。  新しい年の門出にはやはりシャンパーニュが似合います。今回選んでみたのはACシャンパーニュの最南端、ブルゴーニュに近いコート・デ・バール地域のビュクスイユにドメーヌを構える自然派シャンパーニュの代表的造り手として有名なヴァンサン・クーシュの「クロエ」です。  セパージュはピノ・ノワール66%、シャルドネ34%。地域的にはシャンパーニュ南部なのでピノ・ノワールが主です。ただし、クーシュはシャルドネに適した畑も所有しており、ブラン・ド・ブランも造っています。「クロエ」はそのモングーのシャルドネをバランス良くブレンドした亜硫酸無添加の自然派シャンパーニュの名手による自信作です。  では、今年も良い年でありますように。読者の皆様の健康とご活躍をお祈りして。乾杯! 略歴関 修(せき・おさむ) 一九六一年、東京生まれ。現在、明治大学他非常勤講師。専門は現代フランス思想、文化論。(一社)リーファーワイン協会理事。著書に『美男論序説』(夏目書房)、『隣の嵐くん』(サイゾー)など、翻訳にオクサラ『フーコーをどう読むか』(新泉社)、ピュドロフスキ『ピュドロさん、美食批評家はいったい何の役に立つんですか?』(新泉社)など多数。関修FACE BOOOK関修公式HP

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『美食通信』 第三十六回 「エクレア好き――シュークリームでもなく、モンブランでもなく――」

『美食通信』 第三十六回 「エクレア好き――シュークリームでもなく、モンブランでもなく――」

 先日、あるテレビ番組で、究極の二択として「シュークリームかモンブランか」というテーマで街行く一般市民にアンケートし、どちらが多数だったかを当てるという企画を放映していました。筆者はシュークリームだろうと予想しました。  最新のトレンドとして紹介されていたシュークリームはカスタードクリームの上にバタークリームの塊を乗せたもので、最近よく見かけるバターを挟んだどら焼きとかの高級ヴァージョンなのが分かりました。モンブランは相変わらず、和栗とか、出来たら何分以内に食さないといけないとか、一時期ブームだった延長路線だったように感じました。シュークリームは「クロシュー」といったクロワッサンに様々なクリームを詰めたものなどヴァリエーションに富んでいるのに対し、モンブランは高級化にしか未来はないように思われたからです。結果は予想通り、シュークリームの勝ちでした。  思えば、シュークリームもモンブランも比較的手ごろに楽しめる身近な馴染み深い洋菓子だからこそこの二択に選ばれたのでしょう。シュークリームは今でも中のクリームがカスタードか生クリームかが基本でコンビニでも必ず見かけます。一方、モンブランは筆者の子供の頃はカップ型のスポンジケーキの上の真ん中にシャンティクリームを搾り、その周りに栗なのか芋なのか怪しげなきんとんを糸状に絞り出し。半分に切った栗の甘露煮を乗っけたものが定番でした。色が黄色から濃厚な茶色に変わったのは、フランスで有名なアンジェリーナのモンブランが銀座プランタンで紹介されるようになってからでしょう。スポンジではなく、メレンゲの上にクリームがたっぷり。濃厚な栗のペーストがこれでもかとそれを覆いつくしたフランスの半分のサイズでも食するとなかなかヘビーなお菓子でした。本格的なフランス菓子はとにかく甘いと実感した次第。  ですので、筆者など街の洋菓子店の昔ながらの怪しげな手作りの似非モンブランの方が懐かしく食してみたいと思います。コンビニのスイーツも多彩で美味しいのですがやはり大量生産の味なのです。それはシュークリームにしても同じ。  しかし、筆者がその二択でひっかかったのは「シュークリームかモンブランか」ではなく、「シュークリームかエクレアか」ではないかと思ったからです。おそらくエクレアはシュークリームの一ヴァージョンに過ぎないとの認識なのでしょう。パリで人気のエクレア専門店「レクレール・ド・ジェニ」が高島屋に出店したのですがあっけなく十年もせず撤退してしまいました。  しかし、筆者はシュークリームとエクレアは全くの別物と考えます。同じシュー生地であるにもかかわらず、まず形状が異なる。これも重要かもしれません。シュークリームの場合、シューが半分に割られていたり、切れ目が入れられ、クリームが詰められている場合、蓋を外して、蓋にクリームを付けて食し、残りをナイフとフォークで食する。切れ目がない場合はナイフとフォークを使って、左側から少し切り取って食し、クリームだけを食しながら、なるべく形を崩さないように食するといったマナーがあります。  それに対して、エクレアは「レクレール・ド・ジェニ」の小ぶりのエクレアもそうでしたがフィンガーフードの趣があります。筆者の遠い記憶なのですが、上諏訪に住んでいた小学校低学年の時、父がお土産で買ってきてくれたエクレアがそうでした。シューにコーティングされていたのもチョコレートではなく、コーヒーかキャラメル味でカスタードクリームの味もそれに合わせたもので小学生にも小ぶりでパクッと食べれて、二つ、三つは食べれたものです。  さらに凝った作りのものは、神戸に引っ越して、小学校最後の二年を過ごした社宅が神戸市の東のはずれで数メートル先は芦屋市という立地。父が通勤で使っていた阪神芦屋駅の近く、警察署の隣に「アンリ・シャルパンティエ」があったのです。もう、半世紀前になりますか。今でこそ全国展開でパリにも研究所を持っているほどのブランドになっていますが、当時はまさに街の洋菓子屋さんとして日常使いするケーキ屋さんだったのです。もちろん、他の店に比べると値段は高めで、併設されていた喫茶コーナーで珈琲を註文するとクロワッサンが付いてきて、さすが神戸・芦屋だなあと子供ながらに驚いたものです。  おそらく難しいフランス語が付いていたのでしょう。母が「毛虫のケーキ」と呼んでいた筆者の好物のケーキがありました。記憶が正しければ、長方形のガナッシュ系のケーキの上に小さなエクレアが乗っていたように思うのです。当時のアンリ・シャルパンティエのケーキはすべてが小ぶりでそのくせ値段は高い。しかし、味は抜群で隣にもう一軒洋菓子屋があったのですがそこで買うことはありませんでした。  神戸時代、筆者の父が銀行員だったので、取引先に有名な菓子店が多くありました。お土産の定番だった「ヒロタのシュークリーム」、きんつばで有名な「本高砂屋」、チョコレート菓子の老舗「ゴンチャロフ」などなど。ゴンチャロフなどは父に連れられて工場見学させてもらいました。酒会社も多く、菊正宗にも連れて行ってもらったのです。盆暮れだけでなく、事ある毎に付け届けがあり、ワインも送られてくることが多々ありました。母方の祖父が静岡県の酒造組合に勤め、母の弟の叔父が合同酒精に勤めていましたのでこの頃からワインには興味があったのです。  さて、ヒロタの影響かは分かりませんが、筆者はシュークリームにはカスタードクリームが似合うように思うのですが、エクレアには何といってもシャンティクリームだと思うのです。シャンティクリームとは砂糖の入った生クリームのことです。それは他ならないシューにコーティングされたチョコレートとの相性がシャンティクリームの方が良いからです。チョコパイを思い出していただければ一目瞭然。あれはバター系のクリームですがホワイトクリームで卵黄系のクリームではありません。  ですので、コンビニなどで迷うことなくエクレアを買いたいところですが、どうも中身がカスタードクリームのものばかりで何となく躊躇してしまいます。思い起こせば、子供の頃、生クリームシューを売っている菓子店ではエクレアもシャンティクリームで、シンプルながらチョコと生クリームの絶妙なハーモニーに感動したものです。お値段も手ごろな方ですし。冒頭のモンブランではありませんが、洋菓子の高級化と複雑化は決して悪いことではないと思いますが、シンプルに美味しい手頃な手作りの洋菓子こそ、今必要とされているものではないでしょうか。 今月のお薦めワイン 「イタリア赤ワインの隠れた逸品――アマローネ――」 「アマローネ デッラ ヴァルポリチェッラ クラシッコ2017年 DOCG アマローネ デッラ ヴァルポリチェッラ モンテ・サントッチョ」 13020円(税別)  この連載も三クール目が終わろうとしています。この三年間、フランスワインとイタリアワインについてシステマティックに概観して参りました。今期のクールの最後は補完的にイタリア赤ワインの隠れた逸品について紹介させていただこうと思います。イタリアワインもフランスワイン同様、二大産地、ピエモンテ州とトスカーナ州を押さえておけばほとんど事足ります。  しかし、フランスワインにシラーを主として造られるローヌ地方の「コート・ロティ」という赤の逸品がありますように、イタリアワインにも他の州でイタリアワインを代表する銘酒が造られています。  それがヴェネト州のヴェローナ県のヴァルポリチェッラで造られている「アマローネ デッラ ヴァルポリチェッラ」です。ちなみに、県都ヴェローナはシェイクスピアの『ロミオとジュリエット』の舞台として有名です。  アマローネとは苦い(アマロ)に由来する苦みを意味する言葉で、イタリアワインの名称の基本、葡萄品種を表わすものとは異なる例外に当たります。ワインとしては主としてコルヴィーナ種を用いるヴァルポリチェッラの製法違いのワインとなります。  それが葡萄を収穫後平均三ヶ月ほど陰干し(アパッシメント)し、半分近くの水分を取り除き、糖度の上がった葡萄を発酵。最低二年以上の樽熟成と六ヶ月以上の瓶内熟成を経てリリースされるワインです。辛口で「力強い、ブルゴーニュワインのような魅力を引き出す」(アンダースン『イタリアワイン』)と言われています。  今回ご紹介する「モンテ・サントッチョ」の造り手、ニコラ・フェッラーリはアマローネを代表するカンティーナ「クインタレッリ」で働き、2006年、自身のワインを造るためこの「モンテ・サントッチョ」を創業。現在もクインタレッリのサポートを続けているヴァルポリチェッラへの強い探求心に溢れる醸造家です。  このクラシッコ2017年はトノーで三十ヶ月熟成。セパージュはコルヴィーナ40%、コルヴィノーネ30%、ロンディネラ25%、モリナーラ5%。濃いルビー色。干したプルーンやバルサミコの香り。後味にスパイスを感じる伝統的なアマローネの味わいを継承することに意を注いだ逸品です。  手間暇のかかる稀少性の高いワインですので少々値が張りますが、この機会に是非一度お試しいただければ幸いです。 ご紹介のワインについてのお問い合わせは株式会社AVICOまで 略歴関 修(せき・おさむ) 一九六一年、東京生まれ。現在、明治大学他非常勤講師。専門は現代フランス思想、文化論。(一社)リーファーワイン協会理事。著書に『美男論序説』(夏目書房)、『隣の嵐くん』(サイゾー)など、翻訳にオクサラ『フーコーをどう読むか』(新泉社)、ピュドロフスキ『ピュドロさん、美食批評家はいったい何の役に立つんですか?』(新泉社)など多数。関修FACE BOOOK関修公式HP

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『春風亭与いちの二ツ目日記』第五回「昇進」

『春風亭与いちの二ツ目日記』第五回「昇進」

11月の1日に弟弟子の春風亭いっ休が二ツ目に昇進しました。 やっとです。通常、入門から四年ほどで二ツ目になりますが、いっ休は約六年かかりました。古今亭志ん朝師匠ならとっくに真打ちです(それはそれで異常ですが)。実は二ツ目昇進に落語の技術云々は関係ありません。その時のタイミングのみで若干伸び縮みするもので、順番が来れば誰でもなれます。そして近年、あの忌まわしいコロナの影響でこのように伸びきってしまったのです。私はコロナ禍に入ってすぐ、入門から四年経たずに昇進となりました。なぜそんなに早まったのか、後から聞いたら、その昇進を決める落語協会の理事会(理事の師匠方による月に一回の会合)で、「上の前座さん達は働きがいいから早めの昇進でいいんじゃないか。」という話しが持ち上がったのだとか。これは謙遜でもなんでもなく、私はまるで働きの悪い前座でした。さほど必要じゃない時にずっといて、肝心な時にどっか行ってるような、耳かきの棒みたいな奴でした。ところが、同期が数年に一人出てくるような、いわゆる"スーパー前座"。楽屋での立ち居振る舞いから、鳴り物の技術、何をやらせても一級品。師匠方が思わず祝儀切ってしまいそうになるほどです。その出来具合があまりにも凄いので、なぜか「その同期の与いちもできる奴」扱いしてもらえました。よーく見るとそうでもないのに、ずば抜けたセンターがいることで全員可愛く見える大所帯アイドルグループのあれと同じです。そんなことでの昇進でしたから、すぐ下の後輩達から私は忌み嫌われました。そりゃそうです。入門時期がさほど変わらないそんな奴より、二年ほど長く前座をやることになったわけですから。私が後輩の立場だったら与いちのお茶にケシカス入れます。この間貰ったお茶に立っていたのは本当に茶柱だったのか心配になってきました。二ツ目の披露目は毎日緊張です。特に私は初めの十日間、すぐ後の出番が師匠一之輔だったので気が気じゃありませんでした。初日の高座に「粗忽の釘」という師匠から教わった噺を演り、入れ替わる時に「俺がこのままやり直してやりてぇよ」と言われました。自分でもかなり酷い高座だったのは忘れられません。次の十日間は、私の出番がなんと市馬師匠・正蔵師匠交互出演の後。後ですよ?普通は色物の方の後の出番で、その後に真打ちがお出になるんです。それどころか、我が落語協会の会長・副会長の後。幸せなパワハラです。初日は市馬師匠。降りて来られる時に師匠御自ら高座返し。拍手を煽りながら盛り上げてくださいました。後から聞いたら三十年ぶりの高座返しだったそう。そこから自分が何を喋ったのかは覚えていません。未だに夢に見ます。市馬師匠が降りて来られて、驚いて目が覚めます。ほぼ初恋と一緒です。そんな刺激的な毎日をいっ休も過ごしているはず。皆様も是非、昇進したてのキラキラした高座を観に駆けつけてください。ご祝儀もお忘れなく。※私は常時受け付けております。 略歴春風亭与いち1998年4月5日生まれ2017年3月、春風亭一之輔に入門。翌年1月21日より前座となる。前座名『与いち』。2021年3月1日より二ツ目昇進。     

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『美食通信』 第三十五回 「セカンドワイン考――トップブランドとは別物と心得るべし――」

『美食通信』 第三十五回 「セカンドワイン考――トップブランドとは別物と心得るべし――」

 先日久しぶりにレ・フォール・ド・ラトゥールを飲む機会を得ました。1996年と良いヴィンテージの古酒でした。レ・フォール・ド・ラトゥールはご存知のようにボルドーの五大シャトーの一つ、ポイヤックのシャトー・ラトゥールのセカンドワインです。  このセカンドワインという代物。ボルドーでは今や、さして有名でないシャトーさえ何処でも造っているという状況。それどころか、サードワイン以下も造る有名シャトーは数知れず。  筆者がボルドーワインに熱を上げていた一九九〇年代後半、確かにセカンドワインは多く造られていました。しかし、同じ五大シャトーのムートン=ロートシルトがセカンドワインを造り始めたのが1993年ですのでまだ猫も杓子もという訳ではありませんでした。  また、セカンドワインはどれもこれも十把ひとからげといった具合でどれもこれも1980円か2980円といった値段で売られていました。五大シャトーのオー=ブリオンのセカンド、バーン=オー=ブリオン(現在はル・クラランス・ド・オー=ブリオン)でさえ2980円で買えたのです。  その理由は簡単で、トップブランドのワインがさほど高価でなかったからです。当時、80年代のオフヴィンテージの84年、87年などは五大シャトーでも一万円以下でデパートのワイン売り場で購入可能でした。これもオフヴィンテージですが1992年のシャトー・ラトゥールを銀座三越のセールで5000円で買ったこともありました。  筆者がボルドーワインを追求しようと決めたのは、一九九四年にアークヒルズのサントリーホールの向かいにあった「ル・マエストロ・ポール・ボキューズ・トキオ」で飲んだムートン=ロートシルトの1984年に感銘してのことでした。上記のように1984年は残念なヴィンテージだったのですが、特にこの年はメルロが良くなかったようです。そこでムートンではこの年、カベルネ・ソーヴィニヨン100%で造ったと言われています。  ご存知のように、ボルドーは複数の葡萄をブレントするのが特徴で、ブルゴーニュがピノ・ノワール100%で造るのと対照を成しています。五大シャトーが格付けされたメドックではカベルネ・ソーヴィニヨンが主でメルロ、カベルネ・フランが続き、補助品種としてマルベック、プティ・ヴェルドが用いられています。また、シャトー・ペトリュスなどを産す右岸のリブールヌのワインはメルロが主で、カベルネ・フランが続き、既述の他の品種が補助品種となっています。  ムートンはポイヤック、いや広くメドックの中でもカベルネ・ソーヴィニヨンの比率が高く80%ほどと言われていますがそれでもカベルネ・フラン、メルロ、プティ・ヴェルドを用いています。  本当に1984年のムートンがカベルネ・ソーヴィニヨン100%だったかは分かりませんが、ちょうど十年経ったところで飲み頃だったせいもあり、さらにグランメゾンだけあってワインの状態が良かったのでしょう。なかなかの美味でした。しかも9000円だったのです。高級レストランでさえ、一万円以下で五大シャトーが飲めたのです。まあ、ル・マエストロはとりわけワインの価格が良心的だったのは事実ですが。  つまり、あえてセカンドワインを飲む必要性がなかったのです。ちょっと奮発すれば五大シャトーが買えたし、レストランでも飲めたのですから。大阪の某ホテルのメインダイニングでシャトー・マルゴーの良いヴィンテージの1978年を25000円で飲んだ記憶もあります。今やシャトー・マルゴーは最新ヴィンテージで十万円ですから桁違いです。  そんな中、唯一例外だったセカンドワインがレ・フォール・ド・ラトゥールでした。実際、グランメゾンのワインリストにも普通に掲載されていました。というのは、シャトー・ラトゥールがグレイトヴィンテージの場合、三十年は寝かさないとその本領を発揮しないと言われていたからです。  もちろん、三十年物のラトゥールをグランメゾンなら揃えていましたが大変高価なものになります。さらに中堅どころのレストランでは揃えるのも大変でしょうし、価格的にも不釣り合いになります。というか、三十年も待っていられないというのが本音で、それに対して、レ・フォール・ド・ラトゥールなら半分の十五年で飲み頃になるという訳です。  レ・フォール・ド・ラトゥールはこうした事情からか1966年から造られており、ラトゥールが造られる「ランクロ」と呼ばれる区画とは別の区画の葡萄が三分の二、ランクロの葡萄が三分の一用いられ、早くから飲めるように醸造されています。  つまり、レ・フォール・ド・ラトゥールは最初から別の目的で造られたラトゥールとは別のワインと考えるべきなのです。  しかし、多くの方がセカンドワインを飲んでトップブランドを垣間見られたつもりになってしまうように思われるのです。これは危険で、セカンドワインからトップブランドを予測するのは専門家でさえ至難の業と言えましょう。  サン=ジュリアンの第二級、シャトー・レオヴィル=ラス=カーズのセカンドワインだったクロ・デュ・マルキは別の畑で造られていますので、現在別ブランドして販売され、ラス=カーズの若葡萄で造られているル・プティ・リヨンをセカンドワインとしています。  トップブランドが桁違いの高価なワインになってしまった現在、セカンドワインなら何とかというケースもあるかと思います。その場合、やはり別物であるという認識を持って飲まれることをお勧めします。そして、出来る限り同じ価格で買える格下のシャトーやブルジョワ級のトップブランドを買われることをお勧めします。トップブランドにこそ、そのシャトーの真髄が、そのアペラシオンの特徴が最良の形で表現されているのですから。  レ・フォール・ド・ラトゥールの1996年はまだまだ寝かせることも出来そうな見事な出来でした。果実味が生かされ、その熟成感を楽しむタイプのワインです。ラトゥールはもっとタイトでタンニックなワインで古武士のような凛とした佇まいが素晴らしい。  レ・フォール・ド・ラトゥールほどその独自の存在感を有するセカンドワインは他にない。筆者はそう考えるのです。  今月のお薦めワイン 「トスカーナのボルドータイプのワイン――ボルゲリ――」 「フェルチアイノ ロッソ 2018年 DOC ボルゲリ ジョヴァンニ・キアッピーニ」 6900円(税別)   ボルドーにメドックとリブールヌの二つのタイプのワインがあるように、イタリアワインのボルドーに比較されるトスカーナ地方のワインもまた、二つのタイプに分けることが出来ます。それはキャンティを生み出すサンジョヴェーゼ種とその亜種(ブルネッロ種など)から成るワイン群とまさにボルドースタイルのワインを造るべく、カベルネ・ソーヴィニヨンやメルロを導入したワイン群。  このボルドースタイルのワインのパイオニアとなったのがサッシアイアです。1944年、シャトー・ラフィット=ロートシルトのカベルネ・ソーヴィニヨンを植えたのが始まりのようです。当初は規格外でしたのでヴィーノ・ダ・タヴォーラ扱いでしたが高額でしたので「スーパータスカン」と呼ばれていました。他にもオルネライアなど有名なワインが後続し、1994年にはDOCボルゲリを名乗ることが出来るようになり、サッシアイアは単独でDOCボルゲリ・サッシアイアを獲得。トスカーナの新たなスタイルのワインとしてその一翼を担うようになっています。  今回ご紹介するのはジョアンニ・ピアッキーニが造るボルゲリ。1954年にマルケ州から移り住んだピアッキーニ家は1995年までは野菜とオリーブを作っていましたが、この年より葡萄を栽培。2000年よりワインを販売しています。畑はオルネライアの隣と良好な立地。 「フェルチアイノ」はカベルネ・ソーヴィニヨン50%、メルロ40%、サンジョヴェーゼ10%というセパージュ。ボルゲリのボルドースタイルワインには補助品種として、サンジョヴェーゼやシラーを用いるカンティーナが多いです。  ボルドーよりはやや赤みがかった濃いルビー色。香りはボルドーに比べるとスパイシーで果実の甘い香りが強い。複雑な味わいはボリューミーでボルドーよりは濃厚でアフターに甘やかさが残る感じ。熟成しても美味しいが早くからも飲めるタイプ。  この機会にボルドーのようでボルドーでないボルゲリ独特の美味しさを是非ご堪能下さい。 略歴関 修(せき・おさむ) 一九六一年、東京生まれ。現在、明治大学他非常勤講師。専門は現代フランス思想、文化論。(一社)リーファーワイン協会理事。著書に『美男論序説』(夏目書房)、『隣の嵐くん』(サイゾー)など、翻訳にオクサラ『フーコーをどう読むか』(新泉社)、ピュドロフスキ『ピュドロさん、美食批評家はいったい何の役に立つんですか?』(新泉社)など多数。関修FACE BOOOK関修公式HP

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